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悪魔

作者: みちゆき

 世の中には幸福があれば、不幸もある。ラッキーな人がいれば、アンラッキーな人もいる。世間では勝ち組、負け組とも記すが、負け組の人はたまったもんじゃない。人生が嫌になるであろう。そんな人が、実はけっこう世に存在する。

 田中はサラリーマンをしていた。特に目立った活躍もなく、どちらかといえば悪い点が存在するであろう。しかし人間誰とてそんなもの、彼は特に気にしてはいなかった。

 今日もミスをしでかし上司にみっちり絞られた。こんなものは日常茶飯事で、しかし今日は石につまずき、犬のフンをふんづけ、書類を無くすという不幸にみまわれた。田中は明日の上司の表情を想像すると、頭痛がした。今日は凶日だ。早く寝よう。田中はマンションの一室に帰ると、そのままバタンキュウ、寝てしまった。

 夢の中で、彼は悪魔に出会った。それは絵本に出てくる姿そのままで、尖った鼻に尾、日本の角をはやしたその異様な生物は彼に話しかけた。

「おれはお前にとりついている悪魔だ」

「なんだと。君は悪魔かい。僕にとりつくということは、今日の不幸も君のしわざかい」

「ご名答。君のような平凡な人間にとりつくのが好きでね」

「そんなことされちゃこまる。それならもっと、えらそうにしている悪人にとりついたらどうだい」

「ふぅん、その方がいいのかい。おれは生まれつき聞き分けがよくてね。それならその方にするかな。しかし、その悪人というのはどいつだね」

 田中は考えた。自分がこんな夢を見るのも何かの縁、有効に使おう。

「それなら僕の上司の山田はどうだ。僕にえらそうにして、やっかい事を押しつける」

「そいつにしよう。決まりだ。ハハハハハ」

 朝になり、田中は目が覚めた。奇妙な夢だ。田中は何も考えず出勤した。山田がいない。遅刻したのかと待っていたが、来ない。田中は部長に聞いた。

「部長、山田さんは…」

「今その名を出さんでもらえるか。ああ、君には言っていなかったな」

「どういうことです」

「山田は、昨日死んだ。近くで交通事故にあってな。犯人は逃亡したらしい。今も見つかっていないそうだ」

「嘘でしょう。山田さんは昨日はピンピンしていた」

「そう思うなら君の新しい上司の古田に聞いてみな」

 その新上司は、美人の女性だった。しかし、その話を口にすると物悲しげな表情で部長と同じことを言った。

 一日、田中は考えた。もしかしたら、昨晩夢に出た悪魔のしわざか。それなら見当がつく。田中は夕方、何もなかったような顔で帰ってきた。

 家につき晩飯をすませ、また布団に入った。同じ夢を見た。

「どうだ、山田にとりついて死なせてやった」

「死なせろとまでは言ってない。山田の家族に何と言えばいいのだ」

「何をそんなこと。おれの存在は君以外知らん。いわば完全犯罪だ。すごいだろう」

「それもそうか」

 田中は考えた。そうだ、これは完全犯罪。うまく使えば僕は大悪党だ。誰でも簡単に殺せる。

「しかし悪い者につくというのはいいものだな。もっと紹介してくれ」

 悪魔が入った。その日から田中は大悪党になった。気にくわなければ誰でも殺す。欲望のおもむくまま血に手を染める。しかし悪魔がやるのでバレなかった。

 そんな中、二人の男が田中のもとに来た。

「誰だ君たちは。僕は知らんが」

「へい、大悪人を目指すケチな野郎にございます」

「それがどうした」

「へぇ、最近巷で連続殺人が続いているでしょう。その被害者の身元を調べた結果、あなたと必ず関わりのある者だという結論に達したんです。つまり、あなたが犯人ではないかということです」

「それでどうした。警察行きというわけか」

「滅相もない。あなたが何か特殊な技で完全犯罪を行っていると思い、ここに来た次第。どうか、その技をさずけてください。そして我々三人で仲間をつくり、日本一の犯罪チームを結成しましょう」

「とんだ奴が来たもんだな」

 そう言って、田中はふと考えた。そういやこいつらは悪人、サツの回し者ってわけでもない。これならバラしても損はない。田中は今晩、その二人と共に寝た。運よく同じ夢を三人同時に見た。

「あの、何ですこのヘンな生物」

「しーっ、こいつは悪魔だ」

「ひぇっ、まじですかい」

 悪魔が口を開いた。

「何だこの二人、さては悪人か」

「いや違う。まあ色々あってな。これからはこいつらの願いも聞いてくれ」

「よしきた。しかし最近つかれた。あまり動かさんでくれ」

 その日からどんどん仲間は増えた。完全犯罪を利用し麻薬売買に手を出し、裏の人間とも会った。そしてとうとう悪人の9割は田中の下についた。田中は大悪党のボスにまでのぼりつめたのだ。しかしそれには大量の殺人も必要で、ある日悪魔から言われた。

「もういい。つかれすぎた。しばらく動けん。とりつくのは中止だ」

「そんな……」

 田中は絶句した。殺人ができなきゃボスの座も降りなければならない。いつの日かそれは仲間たちにもバレた。

「殺人できないだと?ではお前は用無しだ」

 田中は仲間達の反乱で殺された。田中の死んだ体は真っ黒な血で染まった。悪魔の力に溺れ、自らの心をも黒く染まらせた男のあわれな姿であった。

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