6日目(1) 反撃
本日は3話投稿して、完結します。
聖女の反撃、始まります!
翌日。変化は劇的になった。
まずは、起床時間が1時間遅くなり、しかもいつもの割れ鐘ではなくドアのノックで起こされた。
次に食事。いつもは固いパン1切れと薄いスープが1杯だったのが、今朝はふかふかパンが山盛りに具沢山の温かいポタージュスープ、それにチーズと野菜のサラダがボウルに1杯。極めつけにオレンジジュースが添えてあったのには言葉もなかった。
流石に無表情を保てずに呆然と眺めていたら、横についてきたのは護衛君ではないエプロンを付けたメイドさん。にこやかに手を取り、きれいに拭き清めて(!)食事を勧めてきた。
「あの・・・これは何ですか?」
「聖女様のお食事ですよ。どうぞ召し上がれ」
「あ、はあ。こんなに食べられません。このパンひとつと、スープを少し、チーズを1切れでいいです」
「まあ、何という小食なんですか!聖女様は大切な祈りの儀式に臨まれますのに、そんなのでは体力は保ちません!ぜひともこちらを!」
「いえ、それこそ倒れます。これで十分ですから」
と言う押し問答を繰り返し、制限時間を大幅に過ぎたところで護衛君が割って入って落ち着いた。
あまりの変化に頭痛すら覚えながらも、いつもの部屋に入って祈りの形に手を組む。と、
(そのままじっとしてて。護衛君がキミの後姿を注視している。しばらくはこのままで、なんなら少し祈った方がいいかもしれない)
成程、今朝の待遇はそういうこと。わかった、儀式を始めるね。
祈り始めると、しばらく感じなかった疲れが出てくる。そうね、前はこれをずっとやってたんだわ。何も考えずに、いえ、考える力を奪われて。それこそ奴隷のように使われてたんだわ。
エルフさんもこんな気持ちを味わっていたんだろうか。それでも、神として崇めていたドラゴンさんのために術を考えて・・・ううん。きっとそうじゃない。
神ではなく、優しい異種族、大切な隣人という気持ちの方が強かったのかもしれない。その隣人を救おうとしたのが、今、私の中にある力、なのだろうか。
分からない。答えは闇の中、手が届きそうで届かない。
祈りながら必死に手を伸ばす。頭痛がひどくなり、身体が揺れる。閉じた目の中、見たことのないきれいな顔の人がひらりと手を振り、駆けていく。その先にあるのは大きな結晶の塊と、封印された心臓。
・・・ああ、見つけた。ドラゴンさんだ。
一段と激しい頭痛がその映像を吹き消し、めまいに耐えられなくなって前のめりに倒れる。
「せ、聖女様!」
その有様を見ていたのか、護衛君が慌てて抱き起こそうと入ってくる。でも、真実に気づいた今は触られるのも嫌なので、自力で体を起こし、呼吸を整える。
「だ、大丈夫、です。すぐに、落ち着きます」
「・・・そう、ですか」
「はい。儀式を続けますので、お戻りください」
「わかりました・・・」
出て行った気配に背を向け、姿勢を整える。
(ど、どうしたの、急に倒れたよ。なにかされたのっ!?)
ああ、違うの。久しぶりだからちょっと堪えただけ。それより、ドラゴンさんの心臓を見たわ。
(ええっ!?そ、それって、僕の今の姿、を、見た、ってこと?)
そうなる、かな。大きな結晶の中に、心臓があったわ。
(それだ・・・ホントに、繋がったんだね・・・)
何やら呆然といった風情のドラゴンさん。聞こうとしたら、急に扉の向こうであわただしい雰囲気がする。
ドラゴンさん、どうなってるかわかる?
(フッ、教会のお偉いさんがドタドタとやってきたんだ。今の祈りで生成できたから確認しに来たんだろうね)
はぁ、やれやれ。今朝の食事と言い、睡眠時間と言い、勝手だねぇ。
(へえ、今朝はおいしいものがあったの?)
ええ、いつもの朝と比べ物にならないすっごいごちそうが並べられたの!
とてもじゃないけど、あれ全部食べたら私確実にお腹がけいれん起こして一発で死ぬ自信があるわ!
(ははは、そりゃ嫌な自信だね。そうか、そこまで行ったんなら・・・)
そこでドラゴンさんと秘密の打ち合わせ。手順を考えて、タイミングを計って。
やがて、ドアが開かれる。教会のお偉いさんが入ってきたようだ。
「聖女よ、お勤めは果たしているか?」
この声はサークレットを授けた大司教ね。いわば元凶だわ!
(よし、やっちゃえ!)
ドラゴンさんの後押しを受けて私は顔を上げる。反撃開始!
大司教の方を振り向きもせずに立ち上がる。
そのまま前へ進んで水晶を手に取った。
「せ、聖女よ!何をしておる、返事をせんか!」
その態度、今から言う言葉を聞いても維持できるかしら?
「神のお声が届きました。お言葉に従い、その御許へ参ります」
食事の変化がダイナミック過ぎましたね・・・。