5日目(1) 驚愕
本日も2話投稿します。
いよいよ事態が動き始めました。
昨日の演技が効きすぎたのか、今日は朝から周りがおかしい。起床の時間が30分遅いことから始まって、食事の内容がちょっぴり豪華に。パンとスープのほかにチーズが一切れついただけなんだけど、表情に出さないよう必死になりすぎて味わえなかったのがちょっと悔しかった。
ゆっくり歩いて部屋に入るとき、いつもは立っているだけの護衛が手を添えてきたのにもビックリ。一礼して姿勢を整えた後も、視線を感じてびくびくした。でも、ここで負けてたまるもんですか。我慢比べなら受けて立つわよ?という意気込みでしばらくじっとしていた。
(おはよう。今日はどうしたのかな。護衛君が何やら後ろめたそうにじりじりしてるし、キミも喧嘩腰だね)
おはよう。そんな風に見えたの?失敗したかしら。
(ああうん、僕はキミの考えを見て言ってるだけだから、表面的にはいつもと変わらないよ。おかしいのは護衛君の方だね)
昨日の演技がハマりすぎて死にそうに見えたみたい。今日なんかチーズが出たのよ、一切れ!すごいんだから。
(あの馬鹿ども、食べ物すらまともに与えないんだな。自分たちは散々食い散らかしてるのに)
やめなさいよ。そんなの相手にしてたって何にもならないわ。さ、始めるわよ。
(前向きだな、キミは。よし、始めよう)
昨日の話、正直言ってよくわからなかったわ。エルフは自分たちが負けることも、ドラゴンが狩られることも気づいてたのよね?それで、どうするつもりだったの?私だったら逃げる方を選ぶんだけど。
(ドラゴンとエルフがいたのは湖の中央の島だったろ?『人』はその湖をぐるりと取り巻いていたんだ。どこに向かおうと無理だってことをわかっていたんだ)
そうだったわね。忘れてた。それともうひとつ質問があるの。いい?
(ああ)
ドラゴンは空気中の魔力?で生きていたのよね。核になったらそれができなくなったの?
(どうしてそんなことを聞くのさ?)
じゃ、何故聖女が必要なの?その当時にも聖女がいたならわかるけど、そんなこと言ってないよね、今まで。
(・・・・・・)
核が、ではなくて。核だけになったドラゴンが結晶を生成する、その前の段階でエルフが何かしたんじゃないの?
(どうして・・・)
ん?
(どうしてそんなことに気が付くのさっ!キミ、ホントはもっと知っているんじゃないのかっ!?)
どうしたのよ、急に。
(キミは僕を、僕をからかっているのかっ、何もできない僕を嗤っているのか!)
そんなことができるわけないじゃない、私がここに居るのが何よりの証拠でしょう!?
(あ・・・)
今までのことを知っていたなら、こんなところに居ないわよ!何寝ぼけたこと言ってるの!!
(・・・そうだね、ごめん。キミが知っているはずなかったんだ)
イライラしているのは分かるわよ。だけど、私が怪しまれてここから引き離されたらそれだけでお手上げなの。今はあなたの知っていることを教えてもらってふたりで考えるときじゃない?
(うん、わかってる・・・僕の声が届く人がいて、うれしくて、でもなぜ今なのか、もっと前に居なかったのか、そう思うと、もう、言わずにいられなくて・・・っ)
私が言った何かが気に障ったのなら謝るわ。でも、これをはっきりさせないとどうにもならないのは確かなの。もう、後戻りできないのよ。
(・・・うん・・・)
そのイライラはエルフがしたことにあるのよね?よっぽどのことだったのかしら。
(・・・核を抜かれたドラゴンは正気を無くしてしまった。ただ力をふるって暴走する獣になり果てて、誰もかれも見境なしに襲いだしたんだ)
・・・そう・・・
(そのままだったら『人』も何もかも消えていた。湖がなくなったのもそのせいだ。『地殻変動』なんて言ってるけれど、実際は暴走したドラゴンの力に巻き込まれて消滅したんだよ)
・・・・・・
(そんな状況をエルフが止めた。何人ものエルフが協力して魔法陣を構築したんだ。そして、獣となったドラゴンを砕いて核を包む結界に変え、騒動を収めた。魔法陣を維持していたエルフたちの命を代償にして)
そうだったの。大変な出来事だったのね。
(なのに!『人』はその事実を捻じ曲げて忘れ去ろうとしているんだっ!!)
そりゃあイライラもするし、癇にも触るわよね。でも、ここで騒いでも何にもならないわよ。
(ああ、そうだ。ホントにそうだ。ごめん)
本当に馬鹿なんだから、このドラゴンさんは。
(えっ、うえっ、な、なんで知ってっ!!)
今までの話を聞いていればわかることよ。たとえ核を抜かれても、そんなことでドラゴンさんが死ぬわけがないとエルフが確信していたこともね。
(ちょ、ちょっと、待って待って待って!エルフが確信って、死ぬわけないって、どどどどうしてっ!!)
あ、私トイレ行ってくるから、それまでに落ち着いててね。
(ええぇぇっっ~~っ!!)
声(?)の正体がわかりかけました。
そのせいでいささかパニクってます。