4日目 思案
2話目の投稿です。
建国時の隠された部分が次々と出てきます。
次の朝、私はひとつ小細工をした。
食事をするときにそばにあった暖炉から小さな消し炭を拾ったのだ。沐浴へ行く前と後にそれを目の下にこすりつけ、疲労しているように見せかけた。
護衛はそれを見てかすかに口をゆがめていた。前は分からなかったことが一つ一つ見えるようになり、それと共に焦燥感が募ってくる。移動するときにふらつく演技を交えて部屋に行き、姿勢を整える。途端、
(どっ、どうしたのっ、その、その目の下の黒ずみはっ!なにかあったのっ、ねえっ、何されたのっ!!)
落ち着いてよ、何もないってば。
(そっ、そんなこと言っても、その顔、顔がっ!)
これは炭を塗ってるの。それだけよ。
(へ?炭?炭って、あの炭?)
どの炭を指してるのか知らないけど、暖炉にあった炭でちょっとね。こうしないと今までと違いすぎて怪しまれるでしょ?だから少し演技を交えて、ね。
(あ、ああ~っ、そうか!あ~っ、びっくりした~。で、安心した~っ)
胸を押さえてへたり込んでいる様子が感じられ、服の袖をかんで必死に我慢する。それでも少しもれてしまうが。
(あ~、も~驚いてひっくり返りそうになったよ。ふう~)
脅かしてごめんね。でもこうしておかないと見張りに気づかれてしまうでしょ?現に今日の顔を見てほくそ笑んでたもの。
(確かにそうなんだけどね。キミのやることは理にはかなってるけど、見ている僕にはちょっと辛いな)
あら酷い。これでも一生懸命考えてやってるんだけれど?
(その努力は認めるけどね。びっくりするんだよ、斬新すぎて)
それは失礼しました。さ、今日のお話を始めましょ。
(やれやれ、キミにはかないそうもないよ。じゃ、続きだ。ドラゴンと種族が暮らしている中に外界の欲張りが入ってきた。そして、自分たちの欲しいものはドラゴンの核であると突き止めた。ここまでだったね)
種族って言ってるけど、一体どんな人たちなの?
(・・・エルフ、と呼ばれる一族だ)
えるふ。居たんだ、そんな人たちが。
(ああ。あの頃でも数は少なかった、と思う。もともとエルフは森に住み、自然と同化して生きる種族だった。自給自足をしていた種族と自分自身で完結していたドラゴン、ぶつかるはずがないだろ?)
そうよねぇ、実に平和的な生活だわ。そこに強欲な『人』が入り込めば、破綻するのは当然ね。
(ああ。『人』が現れた時点で、この展開は予想できたんだ。だのに、ドラゴンは何もしなかった。大切な隣人が滅亡し、初めて事態の重大さに気づいて愕然としたけれど、すでに後の祭りだった。馬鹿なやつさ)
そう。あ、ちょっと早いけどトイレに行ってくるわ。
(うん、わかった)
廊下を歩いていて考える。思い付きが確かな形になってきた。聞くべきだろうか?
ねえ、まだ聖女にはつながらないのかしら?
(・・・ドラゴンは馬鹿だけどエルフはうすうす気づいていた。このままだと攻め込んでくることも予想していた。自分たちに太刀打ちできる力が無いことも、ドラゴンを守ることができないことも、ね)
・・・・・・
(だから、考えたんだ。神として崇めたドラゴンを、遠い将来甦らせることができるように、自分たちの中に力を鎮めておく方法を)
・・・・・・・・・・・・
(返事がないけどどうしたの?)
ちょっとあまりに構想が大きすぎて何から聞いていいのか、突っ込んでいいのかわからなくなってきたわ。
(そうかもしれない。エルフの長老の考えはいつも訳が分からなかったからな)
・・・今日はここまでかな。あ、ちょっと演技するから驚かないでね?
(了解だ)
ノックの音がしたときに、私はわざとふらついてたおれかかり、膝をついた。
「聖女様、大丈夫ですか?」
「は、はい。めまいがして、力が抜けて・・・少し、休ませてください」
「は、それは・・・支えますので、ゆっくりでいいですから食堂まで行きましょう」
「は、い・・・あ」
「・・・いけませんね。では少しだけ、その場でお休みください」
「・・・ありがとう、ございます・・・」
(くくくっ、すごいね、キミ。芝居やったら受けるよ?)
こらっ、笑わさないでよ、こっちは必死なんだから。
(ごめんごめん。でもこの護衛君、言葉は丁寧だけど完全に見下してるね、キミのこと。ちょっとムカつくな)
そうでしょうね。この人教会騎士だから、私を便利扱いできる道具にしか見てないと思うわよ?
(自分をそんなに卑下しないでほしいな。なんか哀しいよ)
本当の事でしょう。あなたが苦しむことではないわ。
(ん~、でも、なぁ・・・)
「お待たせ、しました。参ります」
じゃ、また明日。
沐浴して眠りにつく前に、今日の話を思い返す。大きすぎて見えない部分もあるけれど、方向は決まった。
話の流れ次第だけれどそろそろ確認する時期が来たのかも。そう考えたところで意識が落ちた。
声(?)の人は少々ヘタレが入ってきました。
聖女ちゃんの一言:私は女優、私は女優!