3日目 疑念
本日は2話投稿します。
朝。いつもの日課を済ませて祈りの部屋へ向かう。
水晶の前に跪き、手指を組んで祈りの態勢をとる、が。
普段ならここで護衛は出ていくはずなのに、後ろの気配が消えない。何か気付かれたのか、そう思ってじっとしていると、珍しく呼びかけてきた。
「聖女様、祈りに集中されるのはいいですが、トイレを我慢されることはありません。必要なら声をかけられますように」
姿勢を解いて振り向き、頭を下げる。
「わかりました」
返事を聞いて、護衛は出ていく。再び体勢をとり、しばらくは気配を窺う。
(もう大丈夫だ。見張りは見ていないよ)
ああよかった。怪しまれたのかと思ってびくびくしたのよ。
(まったくだ。でもこれからは気を付けよう。どうも僕らが話していると時間が早く過ぎるようだ。時々打ち切って確認しよう)
そうね、私も昨日は早く過ぎたと思ったもの。どうしようかと焦っちゃった。
(あははは。あれは文句が言えないうまいやり方だったよ。キミは頭がいい)
そんなことないわ。私は普通の平民の娘だし。
(違うよ、『頭がいい』って言うのは機転が利くという事さ。とっさの判断がいいんだよ。さあ、今日も始めようか)
その前にひとつ聞いてもいいかしら。
(なんだい?)
昨日の話で、ドラゴンを殺した理由が結晶を作る核を取るため、って言ってたわよね?そのこと、どうして知ったのかしら。
(・・・キミは本当に鋭いね。あの話でそこまで気が付くなんてさ)
褒めても何もないわよ。寝る前に考えてて思いついただけだから。
(それがすごいんだ。ああ、そう思うよね。実はその前にもうひとつ隠された事実がある)
まだ何かあるの?
(ああ。キミたち聖女が生まれる遠因だと考えている事柄だ)
!!
(今日話そうと思っていたことでもある。キミに言ったよね、聖女の判定には血が一番早いって)
ええ、そうね。
(聖女の素質は遠い先祖から受け継がれたものだ。普通なら外には現れず、一生眠ったままになっている場合もある。ある意味先祖返りの形で表面化すると、それが聖女と判断されるんだ)
よくわからないけど、私たちの遠い祖先にそういう性質があった、ってこと?
(そう。でもそれはやむを得ず、そういう形になったんだと思う。・・・そろそろ行ってきた方がいい。怪しまれないうちに)
わ、かったわ。
祈りの形を解くと、ドアを開ける。横に居た護衛が頷くのを見て、個室へと移動する。
何か様子がおかしかったわ、あの人。用を済ませながらふと思う。痛みをこらえるようなつらそうな感じがしていた。よほどのことがありそうだ。何を聞いても動揺せずに聞こう。
ある考えがよぎる。ひょっとしたら。そうね、それも併せて気を付けておこう。そう思いながら部屋に戻る。
さあ、続きね。お願いします。
(・・・まったく、キミには勝てないね。そんな風に要求されちゃ話さざるを得なくなる。参ったな)
聞かないと先に進めないもの。さあどうぞ。
(それもそうか。よし、覚悟を決めよう。・・・島に住むドラゴンは1体だったけれど、そのドラゴンを神として祀り、共に暮らしていた種族がいた。ドラゴンの結晶を元に生活用品を作って暮らしていく代わりに、身の周りの世話をする、共依存の種族だった。世話と言っても、身体を磨いたり、余分な鱗をはがしたりと、本当に隣人の世話焼き程度のことだ。
ドラゴンはドラゴンで、結晶ができるのはいわば体の垢がたまるようなものだったから、それをはがしてくれる存在はすごくありがたかった。そうして暮らしていた中に、外界から結晶目当ての奴らが入り込んできたんだ)
そのお話だと、最初は交渉、ううん、商売に来たような感じなのね?
(そうだね。でも、それはすぐにおかしくなった。何せ、ドラゴンとその種族はお互いのやり取りですべてが完了してしまうし、外界の品物を仕入れる必要がない。
何より外界の物より品質がいいとくれば、要らない品物を押し売りされているようなもんだ。最初の1回2回はあまりのしつこさに負けた種族がタダ同然で渡したんだが、それが何回もとなると拒否するのは当然だ。外界の奴らは欲しいけれど、自分たちの品物では商売にならない。そうなってくると、次はどうすると思う?)
・・・行きつくところは戦争ね。
(正解だ。奴らは奪ってしまえと結論付けた。だが、結晶はこれから先も生成できるようにしたい。ならば、ドラゴンを味方に付けるか、その秘密を探るしかない。そうして種族の分断と秘密を暴く二通りの方法でじっくりと粘った。それがやがて、ドラゴンの核を奪うことにつながったんだ)
・・・まだ本題のところまで行ってない気がするけど、今日はもう終わりね。そうじゃない?
(うん。時間切れだね)
トランス状態で話しているため、現実の時間の流れがおかしくなっています。