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2日目  瞠目

本日3話目の投稿となります。

王国の嘘が暴かれます。

後半部分でちょっと行儀の悪い場面が描かれます。ご注意ください。

(おはよう、よく眠れ・・・なかったみたいだね。目の下が黒いよ)


いつもの通り朝の食事と沐浴を済ませて部屋に閉じこもった途端、頭に響いた声は心配げに震えていた。


いつものことだと思う。そもそも睡眠時間が短すぎるのよ。


(それはそうだ。誰もが早くから祈ってたね。代々そうなのかな)


分からないけれど、多分。食事だって少ないわよ。もう慣れたけど、つらいわ。


(そうだね。祈りで気力を消耗してるのに、あの食事内容じゃ回復だってままならないね)


なんで祈りで気力がいるのかしら。あなたは知ってるの?


(そんなことも伝えないでやらせてるんだね。まったく性質(たち)が悪いんだから)


舌打ちするような感覚があった後、うなだれている姿が浮かぶ。


(いや、これは僕が悪いのかな。あの時に暴れすぎたせいで、こうなったのかも・・・)


あなたが暴れた?一体何をやったの?


(う、いや、その・・・ごめん、そっから話すと訳わかんなくなるから)


そうなのね。あなたの話しやすいようにしてくれたらいいわ。聞いてるから。


手指を組んで祈りの態勢を取りながら伝える。


今日は祈るよりあなたの話を聞きたいの。私も聞きたいことがあるし。


(ありがとう。そう言ってくれると助かるよ。それじゃさ、基本的なことから。なぜ祈るのか知ってる?)


本当に基本ね。聖女の素質がある女は結界に力を注いで国を守ることを求められているの。祈りはその行為だと教えられているわ。


(なるほど。それがなくなるとどうなるかは聞いてる?)


この国の周りには恐ろしい魔獣がいて、結界によって阻んでいるのだからこれは大切なお役目、私はそう言い聞かされてきたの。これは正しいのかしら?


(結論から言うとね、半分正しく半分間違ってる。結界に力を注いでるのは正解。でも、その結界は国を守るためではないし、記憶を封じてまで祈りに没頭させ、生命力を削り取ってるのは教会と王家のわがままなんだ)


生命…力?何なのかしら、それ?


(聖女ってのはさ、祈りの形で生命力を込められる女性という基準で選ばれるんだ。聖水盤に血を垂らすのは、その素質を判断するのに一番いいからだと思うよ)


ねえ待って、そしたら、生命力を吸い取られて、回復も少ししかできない、そんな日が続いたら・・・


(そう、聖女になることは、死を意味するんだ)


死?死ぬの、私?このまま死んじゃうの?ねえ!!


(待って、落ち着いて!死なないよ、キミは!僕が死なせないから!)


・・・ご、ごめんなさい。びっくりして、怖くなって・・・


(死ぬのが怖いのは当たり前だよ。僕こそゴメン。順番に話さないとわからないって言ったばかりなのに・・・長い間自問自答してたから、言い方が直接過ぎてきつくなってるんだ。本当にごめん)


もう大丈夫よ、落ち着いたから。続き、教えて?


(わかった。でも、途中で気になったら言ってよね。時間はたっぷりあるから)


ふふっ、そうね。


(まずは、この国の成り立ちからだな。長くなるけど、聞いてくれ。建国記からだ)



・・・昔、ここには大きな湖があった。気候は穏やかで魚も獣も住み着いていて生活していくには格好の場所だったが、問題が一つあった。

湖の中心にある島には悪いドラゴンがいたのだ。そこで人々は討伐隊を編成して島に送り込み、多大な犠牲を出しつつもドラゴンを倒して平和を取り戻した。

その後、地殻変動で湖がなくなったが水脈は生きていたため、肥沃な土地に変わった場所に多くの人が住み着き、やがて国となっていった・・・



それは誰もが知っているお話ね。おとぎ話に近いけど。


(ああ。けれど、これは実際にあったことを元にした建国物語だ。真実を嘘で塗り固めた偽物の、ね)


偽物なの?どこが?


(湖があってドラゴンがいた。それは本当だ。違うのはそのドラゴンが何もしていないことだ)


建国物語では火を吹いて作物を荒らしたり、牛や馬をさらっていたけど・・・?


(そのドラゴンはものを食べないんだ。空気に含まれる生気、精霊力、魔力の元、そういったものを取り込むだけで自分を維持できてた。食べ物に困らないからほかの生き物と争う必要もない。ただ、ゆっくりと生きていただけなんだ)


それが本当なら、いえ、私たちが知っているお話が偽物だったなら・・・なぜ、ドラゴンを殺したの?


(ドラゴンの核を手に入れたかったんだ。空気中の力を取り込むだけで生成できる結晶を半永久的に作り続けるために)


結晶!・・・魔道具の元となる、もの・・・


(・・・今回はここまでにしよう。もうすぐ見張りが呼びに来る。心を落ち着けておくんだ)


ハッと気づくともう夕刻になっていた。今日は一度もトイレに立っていない。不審に思われるとまずい。ノックの音が響くと同時に、ドアを開けて走り出した。


「聖女さま!?いかが・・・!」


誰何する声に応えず、決められた個室に向かって走りこみ、ドアに鍵をかける。そのまましばらくして水を流し、無表情を作って外にいる護衛に頭を下げる。


「申し訳ありません。祈りの儀式に集中していて、粗相をする前にと急ぎました。お叱りは覚悟の上です」


「そういえば今日は一度もお出になりませんね。そういう事なら問題ありません。お食事と沐浴の時間です」


「はい」


あの人と話していると時間が早く過ぎるようだ。あれほど苦痛だった祈りもそれほどつらく感じられない。いや、今日は生命力を削られていないせいもあるだろう。沐浴を済ませてから寝台に横になると、昨日とは打って変わってすぐに眠りが訪れた。少しはあの人の心配も減らせるかも、そう思ううちに意識が途絶えた。


「歴史は勝者によって創られる」のですが、「歴史は犯罪史」でもあるのですよね。

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