1日目(2) 邂逅
2話目の投稿です。
声(?)だけの登場になります。
(やあ!やっと気が付いてくれたね!キミが初めてだよ)
え!?
思わず、組んでいた手をほどいて辺りを見回す。
(駄目だよ、姿勢を崩しちゃ。ほら、戻って戻って)
慌てて手を組み、うつむく。動揺と衝撃で鼓動が痛いくらいに波打っている。
(やっと僕の声が届く人が出たんだね。いやあ、うれしいよ)
「あの、あなた、は・・・?」
(あ、声を出さないで、思うだけでいいよ。気づかれちゃうからね)
(は、はあ・・・)
声(?)から判断して私とそう変わらないくらいの男性、だと思う。顔も何もかもわからないのだけれど、多分。
(色々聞きたいこととかあるのは分かるけど、今日はもう無理だ。もうすぐ夜の食事と沐浴だろ。見張りがやってくるよ)
ああ、やはり護衛ではなく見張りだったのか。気づいた時ほどの衝撃はなかったけど、駄目押しされた気分でもある。
(そう落ち込まないで。悪いこと言っちゃったね。何せ、今までどんなに叫んでも聞こえない奴らばっかりだったから、相当口が悪くなってる自覚がある。でも、キミに対して悪意はないよ、ホントだよ?)
何やら、両手を振り回してワタワタしている様子が目の前に浮かぶ。思わずクスリと笑ってしまった。
(無事に感情が戻ってきたんだね。よかったよ。ちょっと安心したなぁ。でも、その表情は隠しておいてね。教会の奴らに知られたら大変なことになるから)
そうね。自分を守る意味でも気づかれないようにしないと。
(そうそう。キミ結構賢いね。短い間にそこまで考えられる人間はそういないんだよ?これはやっと僕にも運が向いてきたかな♪)
今度は得意気に胸を張る姿が浮かんできた。それを見ていると、ノックの音が響く。
(来たよ、手先が。気を付けてね)
分かってる。ひとつ頷くといつものように表情を消して振り向く。
「聖女様、お食事と沐浴の時間になりました」
「はい、参ります」
簡素な食事と沐浴を時間通りに済ませ、寝台で目をつむる。いつもなら祈りの後の疲れですぐに眠りの世界に行けるのだが、今夜は興奮していて眠れそうにない。
それでも廊下を往く足音が時たま止まり、ドアの窓から中を窺っている気配に身を固くして寝たふりをする。足音が遠ざかり、ほっとして体の力が抜けるとじんわりと汗をかいているのが分かった。
寝返りをうった拍子に何かがほほに触れる。手をやるとそれは小さな結晶の欠片で、どうやらサークレットの内側にあったもののようだ。記憶が戻ったことから考えて、術が解けたために壊れたのだろうと思い至った。だが、疑問は残る。
まるで囚人の生活だ、と思う。なぜこんなに見張られなければならないのか、管理されなければならないのか。明日こそ、あの人に聞こう。そう決めて、今度こそ眠りへ入った。