表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

1日目(1) 覚醒

本日は3話投稿します。

それは突然訪れた。


最近よくある、祈りの時のめまいに耐えかねて思わず伸ばした指先を、床にできた小さなささくれが傷つけた。その拍子によみがえる記憶の奔流。


聖水盤に散る赤い血の珠。表面を覆う光。額にはめられるサークレットの冷たさ。


視界を覆う人影。耳に響く『力ある言葉』。


それらは入り混じってハレーションを起こし・・・記憶が飛んだ。


目を開ければ、そこはいつもの白い部屋。


周りに人ひとりいない、静謐な空間。あるのは祭壇の水晶と私。


ここでひたすら祈りを捧げて国の結界を支え、安寧を紡ぎ、安らぎを生み続ける、国の礎たれと教え込まれた存在、それが聖女たる私。


「・・・・・・・・・」


私。わたしは、一体いつから、ここに居たのかしら?


この国の女はすべて12歳の時に、教会の聖水盤に自らの血をにじませる。

何もなければ聖水の中で傷つけた指が治るだけ。聖女たるときのみ、聖水盤が光り輝く。

そして、聖女と認定されたものはこの部屋に導かれて、大切な勤めを全うせよと教え込まれる。


この国にいる女の務めだと知っていた。大事なことであり、名誉なことだとも。


父も、母も、祖父母たちも、親戚も。周りの人たちは誰もが、選ばれたならしっかり果たしておいでと送られた。


聖女の務めは最長3年間。それが終われば解放されると聞いていた。


実際、近所にいた雑貨屋のお姉さんがそうだった。


5年前に聖女となって2年後に戻ってきていた。


ただ、ひどくやつれていた。顔色が悪かった。


『祈ってただけなのよ、部屋で』


そういってほほ笑む口元も元気がなかった。


聖女のお役目が大変だったんだろうと、大人たちは噂した。


そして・・・戻ってきた2日後に、お姉さんは不帰の人となった。


あんなに元気な人だったのに。あっという間にいなくなってしまった。


国からは死を悼む言葉と見舞金が届けられ、それを受け取った直後、雑貨屋の一家は引っ越していった。


まるで、何かに追われるかのように、真夜中に居なくなってしまった。


私はまだ幼すぎてよくわからなかったけれど。


聖女の務めに何かいやなものを感じていた。



その私が聖女をしているなんて。しかも、今の今までそのことを忘れていた。


いえ、思い出してみれば、大司教から聖別のサークレットを授けられ、司教たちの『力ある言葉』を聞いた時から、私の記憶が途切れ、何も考えなくなったんだ。


それからはこの部屋にこもって祈りを捧げるだけの毎日になった。


この場所を動くことが許されるのは食事とトイレと沐浴、そして寝る時のみ。しかも食事は10分、トイレは1回3分、沐浴は15分と決められていて延長は許可されない。


沐浴の後に寝る部屋へ行くのだけれど、起床時間が明け方設定。まだ空が暗いうちにジンと響く割れ鐘でたたき起こされるのだ。


そんな生活に何の疑問も抱くことなく、そう、今日で1年と4か月過ごしてきた。


私付きの護衛は扉の外にいて、私を守ってくれている。そう、思っていた。


でも、拘束が解けた今になると、監視をしていたのではという疑いになった。


聖女と言われながら、記憶を奪われるってどうして?


祈りを捧げ、毎日疲れ切って寝るのに暗いうちからたたき起こすのはなぜ?


明け方から寝るまで、延々と祈り続けた挙句にあの食事は少ないと思うけど?


次から次へと疑問がわいてくる。でも、今はそれよりやることがある。


衝撃にほどけていた手指を組みなおし、祈りの形に偽装する。


そろそろ様子をうかがいに来るはずだ。その時にバレたなら、私はどうなるの・・・?


逃げ場のない現実にカタカタと歯が鳴る。


「いつまでこれを続ければいいんですか・・・」


独り言がこぼれ、白い部屋に消える。


「・・・もう、十分尽くしたと思う、けれど・・・」


視線を下げると胸元のメダリオンが光る。


「私は・・・ここから出られないの?・・・」


問い掛けに答える声は、どこからも来ない・・・と思っていたのに。


(やあ!やっと気が付いてくれたね!キミが初めてだよ)



新連載です。とはいっても短めですが。

『覚醒』から始まる反逆の6日間、お楽しみください。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ