電子マネーは必須
日常が不可思議な場所へとなる瞬間がある。
酒を飲んで、ちょっとだるーい気分で駅の階段を降りていた。
喉が渇いた。
ああ、喉が渇いたなぁ。
そういえば、駅の改札の横に自防販売機があったはず。
俺、西山。25歳。
今、夜の11時。
同僚と二軒はしごで飲んだ。
地下鉄への階段をだらりだらりと歩いている。
なんで、ここにエスカレーターを設置しないのかねぇ。
人通りはなんとなく少ない。
喉が渇いている。
ああ。あれだな。酒による脱水状態というものだ。
階段を降りた先に切符売り場がある。
確か、その横に自動販売機があったはず。
ああ。あった。
何にしようかな。やっぱ、口が求めるのはオレンジジュース。
でも身体の事を考えると、ここはスポーツ飲料か。
スポーツドリンク500ミリリットル 150円。
これか。
小銭入れをポケットから出す。
小銭は・・・十円、三十円。百円玉なし。五百円玉があった。
こんな時は、電子マネーが良いよな。
まだ、なんとなく使っていない。
五百円玉を、投入口へ・・・
っと、落ちたーーー。
からの転がって自販機の下へ!
うわーーーーっ。
やめてくれよぅ。
まけにまけてさ、十円なら良いよ。
でも、五百円ってあり得なくない?
俺は入社二年目。給料は決して高くない。
いや、高くなっても、五百円は取る。
ズボンを少したくし上げ、膝を着いて自動販売機の下を覗き込んだ。
近くにあると良いなぁ。
顔の横を地面につけている。
あっ。
時間が止まる。
自動販売機の下の暗闇に、自動販売機の幅いっぱいに広がった目が二つあった。
ばっちり目が合う。
俺は視線を逸らせずにいた。
目が瞬きをした。
頭のどこかで、目玉かと思ったけれど目を見開いていたのか、と納得する。
その瞬間、目が、ズザザザザッと近づき、俺の顔に直撃する寸前で止まった。
「うわあああああああっ!」
思わず悲鳴を上げ飛びずさる。
チャリン♪
え?
自動販売機の下に、五百円玉が他のゴミと一緒に出てきていた。
他に十円玉も二枚ある。
・・・貰っておこう。
俺は、なるべく自動販売機に触れないように五百円玉と二十円を摘まみ上げ、ゆっくり腰を上げ、両足裏が、地面に着いた時点で、ダッシュで逃げた。
翌日に電子マネーにした。
しかし、自動販売機はそれ以来、なんだか怖くて使えない。
駅は仕方なく使っている。
自動販売機を大きく避けて通っている。
しかし、目が行く。
そして時々見つける。
自動販売機の下に、真っすぐに横一列になったゴミの線を。
まるで、下から押し出したかのようなゴミの一列の線を。
そこに小銭があることもある。
しかし、拾えるものではない。
あの時は、押し出してくれたけれど、
もしかしたら、罠かも知れないだろう?
速攻で電子マネーに変えた。
ジュースはわざわざコンビニまで行って買っている。
拾った二十円は、あの日の帰り道のコンビニですぐに使った。
あれから、怖いのに自動販売機を見る癖ができた。
正確には自動販売機の下だ。
やっぱり他の場所でも、本当に時々、ゴミが押し出されている場所があった。
アレは移動するのだろうか。
それともたくさん居るのだろうか。
自宅から水筒を用意しようか検討中だ。