プロローグ
暇潰しに書いてるので、不定期に投稿することと思いますが、読んでみて下さい。
夜明け、白く細かい雨のせいで、地平線がぼやけていた。次来た貨物船にまぎれこんで、とっとと帝国からおさらばしようと考えながら、リキ=ターナーは笑った。やっぱりこの国には、とけ込めない。故郷だけど。
色素の薄い、いわばジンジャーエールのような色の、長くまっすぐな髪。中性的な服装にフード付きマント、青銅器時代に多く使われたデザインの短刀。一応、少女と呼ばれてもおかしくない年齢である。
「誰だ?こんな時間に」
「…ッ!」
ふいに、話しかけられ、反射的にリキは、右腕に魔力の光を纏わせて、背後の人影に叩きつけようとした。しかし、リキはそのまま腕を掴まれ、地面に組伏せられた。
「やぁ、犬。お久しぶり。ギルド本部の方にいると聞いていたけど。さびれた港に何の用だい?」
「いい加減、犬呼ばわりはやめろ。主様にとりあえずここに行けって言われてな。…そういえばギルドの方でお前が嫌がりそうな話を聞いたぞ」
妙に堅い男口調で立ち上がった少女は、ジュリアス=フィッツジェラルド。美麗な黒髪に、腰に日本刀を差している。ちゃんと、二本差しである。
「…勇者関連?」
「あぁフリーの教会で当たりが出たらしくてな。言語の理解度、強さ、知識からして間違いなくニホンから召還されただろう」
「へぇ?それはそれは珍しい」
いまだに組伏せられた時のまま、地面に寝っ転がっているリキは、雨から庇うように片腕で目を覆った。
「一応聞く。状態は?」
「もとの媒体との相性もいい。記憶は前世のもの。当然こっちの世界の記憶は魂もろとも消えている。男性で未成年、本人は生産業にからっきしらしいから文化面での影響は心配いらないだろう。召還されたということも受け入れている」
「…」
「あぁ、あと参考までに。魔力量は桁違いだし、自身が放出した魔力の形成も超人レベル。…はっきり言って私と同等かそれ以上の強さだ」
「ずいぶん弱気だねぇ…そこまで、犬が言うなら会っとけばよかったかな」
「…お前いったいこの国に何をしに来た?」
「嫌だな、そんな怖い顔しないでおくれよ。ちょっと仇討ちの代行を、ね」
よいしょと起き上がったリキは、顔に薄い笑みを貼り付けた。
「共和国の女王様が殺されたんだ。下手人はこの国の勇者。しかも、学生だ。たしか、動機は皇国に拉致されそうになった仲間を救うために、だったかな。拉致の指揮採ったのは、あの共和国王女でね。女王の方に罪着せたのさ。実の親なのににねぇ。で、無事に勇者たちは仲間を助け、共和国に喧嘩売ったのさ。」
「お前、まさか」
「安心しな、仇討ちは失敗したよ。それに共和国の依頼じゃあない。でも、この国の現状はだいたい把握したかな。二年がかりで心に空いた穴が癒えたら急に帝国に来たくなって」
くすりと笑って、リキはジュリアスをまっすぐに見た。ジュリアスはその目を見つめ返し、やがて目を細めた。
「戦争が終わって二年、いったい何をしていたんだ?主様との契約は、もう切れているだろう。ルイス…お前の師匠も死んだ。大方、ルイスの復讐でも計画しているかと思ったのだが、違うようだな。…いったい何をしている、何のために生きている?」
「さぁ…なにやってんだか。とりあえず暗殺とか情報提供とかの依頼を受けたり、面白そうなことに顔突っ込んで引っかきまわしたり。どうせ、私は容易に自殺できるほど罪は軽くないし、容易に復讐できるほど師匠を生きる理由にしていなかった。だからといって、なんらかの快楽に溺れることもできなかった。何の信条も目的もなく、過去を振り返る勇気もなく、ただ前に進んでいる。狂っているなら狂っているなりに続けていれば、いつか道ができて、希望が見えるかもしれないってね。まぁ、足踏みしているだけかもしれないけど」
「…」
「さてと、やっぱりやめた。もうちょっとこの国にいさせてもらうよ。この雨の様子じゃ船が来そうにもないしね。大陸の国にも飽きた。…犬、私はもう、〈帝国の狂犬〉の一人じゃない、全部はがれたただのテロリストだ。…お前としてはここで斬ったほうがいいんじゃないかい」
リキがマントを脱ぎ、ジュリアスはかすかにあごを引いた。リキの笑顔の質が変わり、
「さぁて、どうする?〈千人斬り〉ジュリアス=フィッツジェラルド」
人差し指をチロリと舐めた。