損得勘定
日孁です!
とある方からのアドバイスで、一度短編を書いてみることにしました!
自分の中の短編が国語の教科書あたりなので、若干短いかもです。
『この世の全ての出来事は損するか得するかが必ず決まっている』
これはあくまで私の持論だが、ほぼ真実であると確信している。
だから私は、何をするにも必ず自分に得になるのかどうかだけを考えてから行動していた。
あの時までは──
私は学校の図書館で本を読んでいた。部活がある友人を待つ間、暇だからだ。
私は部活に入っていない。入ると自分の好きなことをやる時間が減る。そこにメリットはなく、デメリットしかない。だから私は入っていない。
高みを目指し練習で流れる青春の汗と涙。部活仲間と励まし合い、時にいがみ合い紡いでいく信頼関係。頑張った努力が報われた時の達成感。報われなかった時の悔しさ。
私はこれを諦めた。いや、諦めたという表現は正しくない。私は部活を行う時間、そして得られるもの二つを比べ、自分の得になるのか逆に損になるかを考えて選んだ。言わば、私は部活という選択肢を自分から捨てたのだ。
確かに多少のメリットはある。でも、本当に部活をやるという理由に足り得るのだろうか。
例をあげるならば、
・新しい友達を作れる。
・賞を取れば将来的に有利。
・精神的に成長ができる。
これらだろうか。
なるほど、どれも正しいだろう。
でも、一つ一つよく考えてみて欲しい。
では一つ目、新しい友達を作れる。
これは部活の規模に関わらず、事実だろう。人と話すのが苦手な者でも機会は必ず訪れるわけだ。
しかし、別に部活で作る必要も無いし部活をやっていなければ友達を作れない訳では無い。クラスにも人と話すことはある訳だし、同じ趣味から人と繋がる場合もある。
小さい頃を思い出して欲しい。部活などなくても友達は作れたはずだ。無邪気だから?そうかもしれない。けれど不可能ではないし、実際に私は友達がいる。だったら部活をやる意味にならない。
二つ目、賞を取れば将来的に有利。
そうだ。どこかの大会で優勝したり、コンクールで受賞すれば少しは有利になる。でもそれは、活動が大きな部活に限る。偏見かもしれないが、当たらずとも遠からずだろう。大きな部活には学校からの部費も多く、より活動に力が入る。そして更に顧問、部員が意欲的に働き結果を出す。良い循環だ。
だがここで、逆を考えてみよう。「賞を取れば」ではなく「賞を取れなかったら」。
もちろん悔しいだろう。何故か、簡単だ。頑張ってきたからだ。そう、頑張ったから悔しいのだ。
つまり、悔しがるだけの時間を部活動に費やしてきたからだ。どれだけの時間なのか詳しくは分からないが、それなりに長い時間だろう。
これを損得に当てはめてみる。
賞を取れるか取れないかは分からないが、とにかく時間を使う。
簡潔にまとめるとこうだ。
では問おう。損になるのか得になるのか。
私は、得にも損にもなり得るとも思ったが、不確定要素を考慮して損になると判断した。
三つ目、精神的に成長ができる。
ようはこれも二つ目と同じだ。精神的に成長ができるのは、本人または顧問が部活に意欲的な人物の時だけだ。顧問が部活に意欲的だから入部した。理由としては別に悪くは無いと思うが、部活自体を楽しめなければただ苦しいだろう。私はマゾではないのだ。
逆に私が意欲的に活動できそうなものは、残念ながらこの学校には無かったのだ。仮にあったとしても、活動が緩ければいずれ流されて意味がないものになる。
ほら、こう考えてみると損になる可能性の方が高い。だから私は捨てたのだ。そう、自分から。
読み終えた本を元の場所に戻すために席を立つ。
私が本を読むのは知識を増やすためではない。
私は、物語の主人公に興味を持っていた。彼らは私と違う、損するか得するかをいちいち考えない。救ってあげたいから助けるし、役に立ちたいから頑張る。そうじゃない。ただ、そうするべきだと動いている。私とは違う。どうしたらそんな行動ができるのか、私にはわからない。どうしても分からない。知りたい。なぜ知りたいのかも分からない。
雨がザアザアと、ガラス窓に打ち付けている音が聞こえている。まだ夕方だが、太陽の光は雲に遮られてしまい既に暗い。
そろそろ彼女の部活も終わる頃だろう。
予想通り、友人の百合奈は数分経った頃に図書館まで私を呼びに来た。
「ごめん利穂。帰ろっか。」
「全然大丈夫。ちゃんと傘もってきた?」
「もちろん。利穂が朝教えてくれたからね。」
急いだのか、肩で息をしている。本当に申し訳ないと思っているのだろう。
百合奈との付き合いも損得で決めた。
彼女は周りを惹きつける。彼女と一緒にいれば周りも味方になる。だから付き合っている。
こんなことを言えば誰だって私を蔑み、貶し、突き放すだろう。私もそうする。
分かっているから絶対に言えないし、言わない。
百合奈には申し訳ないとは思う。理解して欲しいとも思っていない。私はこう言う人間だから。
それぞれ、自分の傘を差し、談笑をしながら堤防を歩いていた。アスファルトに落ちた雨は怒ったように弾けている。川が轟々と音を立てている。
ふと、視線が河川敷で遊ぶ子どもたちに向く。
こんな大雨の中危ないな、そう思った時だった。
強い風が吹き、1人の少年の足を滑らせた。少年は大きな水しぶきを上げて川へ落ちる。少年は咄嗟に近くの雑草に捕まっている。今はまだ流されていないものの、あれでは時間の問題だろう。
「ちょっと、利穂?」
私の体は勝手に動いていた。
傘は放り投げ、落ちた少年を助けるために川岸まで駆けつける。少年は川の流れる力に耐えられずに手を離してしまった。その瞬間、私は川の中へ飛び込んでいた。
冷静に考えればわかる事だったろう。私は別に運動ができる訳でもない。カナヅチとは言わなくても水泳も苦手な部類だった。それに川は雨で増水し、普段以上に荒れている。だから、私が飛び込んだところで遺体が一つ増えるだけ。
案の定、私はすぐに増水した川の流れに抗えずに流されかけた。が、ひたすらに手を伸ばし、片方で少年の腕、もう片方で岸に生えている雑草を掴むことに成功した。でも、川の流れは強い。私もすぐに力尽きてしまう。
「嬢ちゃん。もう少し踏ん張れ。」
声が聞こえた気がした。川の勢いと顔にあたる雨のせいで姿は見えない。口の中に汚濁した液体が入ってくる。息ができな……もう……
意識を手放しかけたその時、跡がつくほどの強い力で手首を掴まれ、体を岸に引き寄せられた。
「けほっけほっ。」
「利穂!」
肺の中に入った液体を吐き出そうと咳が出る。
隣を見ると少年が横たわっている。ゆっくりと、弱々しいが息をしている。良かった。無事だった。
私は安心した途端、疲労で目の前がみるみる真っ白になっていった……
「ん、んん。」
暖かな日差しと、心地よい鳥のさえずりで私は目を覚ました。体を起こそうとするが、全身が痛くて上手く動けない。首を持ち上げ、周りの状況を確認する。
見覚えがない、真っ白で装飾のない質素な天井。周りは薄橙色のカーテンに囲まれている。地面は土やアスファルトのように固くなく、逆にふかふかしている。ベッドだ。
ここでようやく、病院のベッドで寝かされているのだと気づいた。
隅の方に視線を走らせると、百合奈が椅子の上で赤ん坊のようにすやすやと眠っているのが見えた。現状を知るのには彼女に聞くのが最も早いだろうが、起こしてしまうのは申し訳ない。
頭は酷くすっきりしていて、何があったのかは思い出せる。
私は少年を助けるために、無謀にも荒れた川に飛び込んだ。あの時の私はどうかしていたのだろうか。客観的に考えてみなくても、損得で考えるなら確実に損に決まっている。なにせ、未来がなくなるのだから。
「どうして?」
思わず声に出てしまう。
その声を聞いて百合奈がビクリと少し体を震わせた。だが、起きる気配はなさそうだ。
「……莉穂。」
「え?」
相変わらず眠っている。寝言、だろうか?
「……莉穂……」
「…………」
百合奈の頬を1粒の涙が伝った。
私は、貴女を損得で選んだのに。
貴方は私を本当に大切に……?
「……ごめん……莉穂……ありがとう。」
逆の立場なら、私も涙したのだろうか。
想像する。もしも莉穂が……
私の頬にも……冷たいものが流れたような気がした。
ああ、そうか。私は、作りものの友情だと思っていたものは、大切なものだったんだ。
今度は声がさっきよりも大きかったからか、百合奈の目が開いた。
「……あれ?莉穂?起きたの?……ってなんで泣いてるの?」
「ううん、なんでもないよ。」
「そう?」
「うん。それよりもね、百合奈。」
「え?なに?」
「いつも、ありがとう。」
「え?どうしたの?やっぱり頭打った?」
「打ってないって。」
変えよう。百合奈に対しての考え方を。
損得勘定で付き合い始めた友人は、本当に大切な友人になっていた。
そう認識した時、病室の扉が開いて大人が2人入ってきた。
一人は私の母だ。もう一人は記憶にない。
父親は早くから亡くなっているし、まずこの人は女性だ。
「……息子を助けて下さりありがとうございます。」
そのもう一人の女性は、私の顔を見た途端に腰を直角に曲げてお辞儀をし、私にお礼の言葉を述べた。内容からこの方があの少年の母親なのだろう。
「本当に……本当にありがとうございます。」
何度も何度も感謝され、どこかむず痒い気分だ。
けれど、とても気持ちがいい。
少しだけ、物語の主人公の気持ちが分かった気がした。
全てを理解したとはまだ思わない。
とはいえ、何かしらの取っ掛りは掴めた気がする。
これから、私は損得勘定で物事を考えるのはやめよう……いや、損得勘定の他に自分の本心と向き合って生きていこうと思った。
まずは……
「百合奈。今度、部活見学させてよ」
「え?いいけど……どうしたの?」
「ちょっと気になって。」
「そっか。歓迎するよ。」
「まだ入るかは決めてないって。」
雲ひとつない青空には、大きな虹が架かっていた。
初めてで、内容も文章も問題だらけだと思いますが評価を頂ければ幸いです!