弟子入り希望?
『おい!ミツジ!突然何言いだしてんだ?』
とゼフさんが若い料理人の突然の土下座に驚きながらも声をかける。
『いいだろ親父。親父もこのうどんの旨さは真似出来ないだろ?』
なんと、ゼフとこの若い料理人は親子だった。名前はミツジと言うらしい。だが今それはどうでもいい。まゆみが気にするのはそこじゃないのだ。
『ミツジさんで宜しいですか?貴方は料理人で間違いないですか?』
と聞くと間違いなく料理人としての資格もあり、もう何年もこの城で働いていると言う。そんな彼に対し まゆみは今までの和やかな笑顔や空気を一転させて冷ややかな顔と空気をまといミツジを見つめる。
『貴方は料理人でありながら 回りの食事する方達の事を考えないのですか?料理人であるなら和やかな食事の場を提供するのも仕事の内、それとも料理人でもない私が作ったこのような場には食事の雰囲気など関係ないと?』
ここまで言うと ゼフは(はっ)として此方を見る。だが、ミツジはまだまゆみの言いたい事がわからないらしい。そう思いまゆみは言葉を続ける事にした、今度はハッキリと。
『まず、土下座を今すぐやめて下さい。』
『今はまだ食事の途中です。席に着いて突然土下座などして皆さんの食事の手を止めてしまった事を謝罪し、貴方もふたたび(皆の食事の時間)に戻るべきです。』
と ここで止めておく。本当はもっとイロイロと言いたいし、ミツジに対して怒りたい。でもミツジにも言ったように 今は食事中なのだ。
せっかく楽しい雰囲気で食事をしていたのに突然の土下座で空気が変わってしまった、そんな状態で自分が怒り意見を続けるとこの場が台無しになる。
そう思って なるべく冷静に対処したつもりなのだが やはり空気はやや重い。
その空気を変えようと口を開こうとしたら 先にゼフが口を開いた
『すまん、嬢ちゃん。嬢ちゃんの言うとおりだ。みずから食事の手を止めさせるような事をするなんて料理人とは名のれねえ。皆もすまねえ!せっかく旨い飯を食べてる時にこの馬鹿息子が邪魔をしてしまって。』
とまゆみと皆に謝った。
自分の親父が皆に謝っている事で
やっと自分が何をしたのか理解したミツジも
『すいません!うどんが旨過ぎて皆が食べてる途中なのも忘れてました。ただ早く自分の気持ちを伝えないととばかりで、本当にすいませんでした。』
と謝る。
そんなミツジの謝罪に刹が悪戯っぽい笑みを浮かべメアリーと一緒にまゆみを見る
『(気持ちを伝えないと)とはまるで惚れてしまったから早く告白しないと みたいな感じだね?男の胃袋を料理で掴めだね まゆみ?』
『あらっ本当、素敵だわまゆみさん。回りが見えなくなる位胃袋を掴めるなんて凄いわ!』
なんて言うものだから
『確かにうどんで掴まれた』
『うどん以外でも掴まれたけど、』
『これ以上競争相手を増やすな!』
『他で掴めないか試さないと!』
などと まゆみの同居者達までイロイロ言い出した。
皆がイロイロ言い出したので すっかり場の空気も和やかに戻り、メイド達もクスクス笑いながら
『確かに』
『これなら』
『掴まれました』
などと話しながら食事を続けている
皆にまゆみも悪戯っぽい笑みを浮かべて
『うどんや料理も私の一部です。その一部にでも掴まれてくれる皆の心が純粋でおおらかなんです。私の方が皆さんの人なりに心を掴まれそうです』
と自分の胸を掴み照れ笑いをしながら首を傾けると 男性人はやや困った感じで目を反らしたり微妙な反応だったが女性人は嬉しそうな優しい笑顔を返してくれた。
皆食事を済ませ、メイド達が頼まれた茶碗蒸しを持って部屋を出て行き メアリーとアオイ邸の同居者、ゼフとミツジが残った。
『さて、改めて話しを聞きましょう。まゆみさんに弟子入りしたいとは うどんの技術と薬膳の知識を知りたいからなのよね?うどんを食べた時の体への効果ではないのよね?』
とメアリーが聞くとミツジが(そうです)と答える。
そう、昨日うどんを食べた刹の傷が早くも治り始めた事もある。それはまゆみが薬膳の知識を持っていた事でスキルにも反映していて食べる事で効果がでるのだ。
今朝メアリーも目覚めて体調が良い事に疑問を持ち自分のスキルを確かめたところ 薬膳の効果で改善されていたのだ。他の者にも確認すると皆体調が改善されていた。
ゼフもその内の一人なのでミツジが父親からその話を聞き弟子入りしたいと言い出したのかと考えたのだ。
効果はあくまでも まゆみのスキルの効果なのでまゆみにしか使えない。
『確かに薬膳の効果がなくてもあのうどんは美味しいわ。麺も出汁も今まで食べていたものとは全然違うもの。料理人として技術を取得したいのは最もね。どう?まゆみさん』
『技術といっても素材と道具があれば出来ますよ?好みの麺や出汁を作るには感覚が必要になるので別ですが。弟子入りなんて大層な事をしなくても作り方ならいつでも教えますよ?』
と答えると皆驚いていた。(えっ?何故?)と皆を見るとゼフが
『いやぁ、普通嬢ちゃんレベルの味を教わるには弟子入りするのが当たり前なんだ。ましてや職人になると自分の技術は人に教えたがらない、だから嬢ちゃんが普通に教えると言った事に驚いたんだ。』
『え?そうなんですか?でもうどんですよ?私は料理人でも職人でもないし問題ないですよ?』
と言うと全員から
『『『『うどん職人』』』』
と自分のスキルを突っ込まれた。
『あっ、スキルがあったの忘れてました。でもうどん職人とか関係なく教えてほしいと言われれば誰にでも教えますよ?』
と言うと全員から(知りたい)と言われた。なので駄目元で
『なら今から教えましょうか?』
と聞いてみた。




