推理は続く
「セイ、奈良にパワースポットと言われている場所はあるかしら?」
Aは妻の治療に奈良に来た。
Cは奈良の病院に通院していた。
Bも奈良に来ていたかもしれない。
「神社か寺なら一杯あるよ、そりゃあ奈良だから」
「Bさんも奈良に来ていたとしたら、4人共、奈良に、事件の前に、来た事があるのよね」
「3人がいつ奈良に来たのかは、分からないけどね」
「拉致されたのじゃ無い。自分で犯人の元へ行ったのかも知れない」
被害者達は奈良で犯人に出会ったのでは?
「家族の証言が嘘で無いとしたら、被害者達はそれぞれが辛い状況だった。そんなとき助けてくれる人に出会った」
「それが犯人?」
「ええ。週刊誌が『自殺サイト』と書いているのは、前に事件があったからでしょう?」
自殺サイトで被害者を誘った大量殺人の事だった。
「今回の事件は、被害者が犯人の罠に掛かったのは『自殺サイト』じゃなくて、奈良のどこかって事? ……どこなんだろう?」
「色んな可能性を考えてみて。Bさん以外の3人だけなら、病院関係者が、怪しい」
Aが妻を連れて行った病院、
Cが通院していた病院、
咲良春樹の通っていた医大の病院、
その3つの病院に、犯人は出入りしていたと。
聖は父が入院していた病院を思い浮かべた。
そして、<病院関係者>は条件にならないと気付く。
「大病院なら、食堂、喫茶店、広い待合室、誰だって自由に出入り出来るよ。長い待ち時間の間に、話をする場所はいくらでもある」
「あ、そうだったわ」
マユは笑った。
病院生活が長かったくせに、気付かなかったと、自嘲するように。
「犯人は、病院やパワースポットで、深刻な様子の被害者に声を掛けたのね」
「初対面で、色々聞き出せるようなヤツってことか」
「警戒心を抱かせない人物だわ」
「被害者はバラバラな日時に失踪している。犯人の元に、自ら行った」
「そう。……想像してみて。犯人は被害者と話し、救済の手を差し伸べた。自殺の手助けかも知れないし、現実逃避出来る道を示したかもしれない。どっちにしても、誘う『場所』が必要ね」
被害者達が自分の意思で家を出たとして、
行き先は、犯人が、接触した時点で知らせていた筈だ。
「警察は、当然、被害者の携帯電話の履歴は調べているわね。それでも犯人が分からない。形跡がないのだわ。犯人は跡が残る連絡を取っていないのよ」
紙に書いた、メモを渡したのかも?
「たとえばね、『切羽詰まって決心したら、此処に来て下さい』そんな言葉で、或る住所を書いたメモを 渡した……行きずりの、見知らぬ人だからこそ、藁にもすがる気分になるかも」
被害者は奈良で貰ったメモを捨てはしなかった。
家に帰っても、日々は辛いことだらけ。
死んだ方がまし。
いっそ死のうと思う。
ふと、メモを思い出す。
何もかも捨てて、
現実から自身を消して、
メモに書かれた場所に、足が向いた。
「向かった場所で殺され、『耳』を削がれたのか?」
「そうよ。殺された。……記念品の耳は被害者の一人の医大生のマンションにあった。……やっぱり、マンションの住人か、関係者で無いと不可能だわ」
「マンションに医大生以外の被害者は出入りしていない。出入りしていたら報道されている。殺人現場は 別の場所か」
「そうなるわね……マンションの住人か、出入りしていた不審者じゃ無い人の中に、犯人がいる。それだけ は間違い無いわ」
「マンションの住人なら、①昼間自由に動けて、②他に<殺人場所>を持っているヤツが怪しい。住人で 無くても、①②の条件は同じかな」
聖は、明日にでも、結月薫に電話しようと思った。
警察が調べれば、犯人特定は難しくない。
事件の真相は解明すると、思った。