自殺サイトか?
数日、事件について新しい情報は報道されなかった。
だが、複数の週刊誌が「また、自殺サイトか?」と、書いた。
聖は、早速コンビニで購入した。
「被害者は自殺サイトにアクセスしてたの?」
マユは週刊誌を覗き込む。
白い半透明な指でページはめくれない。
「それは憶測。……4人とも、自殺したいと思っても、おかしくない状況だった、らしい」
Aは妻がガンを患っていた。
Bは3才の息子に障害があった。
Cは精神科に通院していた。
「医大生は?」
「大学で孤立していた、友人はいなかった」
「成る程……確かに厳しい状況ね。でも、だから『自殺』は強引だと思うわ。同じ状況でも、『自殺』を選ばない人の方が多いんじゃないの?」
「状況だけじゃ無いみたいだ……家族がインタビューに答えてるみたい。あ、もしかして動画で上がってるかも」
週刊誌の記事に出てるなら、テレビのワイドショーで流されているかも。
「あった。Aの家族だ」
Aの妻が、玄関でインタビューに答えていた。
建売住宅の狭い玄関。
黒いスキニーパンツにゆったりした生成りのチュニック。
顔は映していない。痩せた身体と、震える声が、途中で泣くのが、
病を感じさせる。
(手術は拒否しました。胸を取るなんて、無理です。
主人は、色々病院を調べてくれました。
それでね、1回30万の治療を4回受けたんです。奈良まで行って。
でもね……転移、しました。それが分かったは、今年の初めです。
私、まだ死ねない。母を介護してるんですよ。
90才の母より、どうして私が先に、死ぬんですか?
有り得ない、絶対、嫌だと主人に言いました。何度も言いました。
「死ぬのが、そんなに怖いのなら、僕が先に逝って待っていようか?」
出て行った、前の夜です。主人が、そう言いました)
「Bの旦那の動画もあったよ」
マンションの玄関。
青いTシャツに赤の膝寸の部屋着。
毛深い大男だ。
(アイツは、……頭、おかしなってたと思う。
チビ連れて、パワースポット巡りしてたんや。
障害があると、去年、分かってからな。
神様仏様の力で治せると信じて、入れ込んでた。
でも無理やと分かったんか、あるときに、止めた。
そんで、今年の初め頃かな、
「要するに、お金が必要や」、と言い出した。
「自分が死んだら2千万入るから」って。
また、おかしなった、俺は思ってた。
でもな、今思えば、チビに、手が掛かるから、自分が働きに出られないのを、
気にしていたかも知れない。
アイツの母親、無年金で俺の稼ぎで養ってるねん。それも気にしていたかも知れない)
柔らかい声で、ポツポツと語っている。
誠実で純粋な印象だった。
「Cの父親のもある」
築40年位のマンションらしい。
<父>はグレーの作業服の上下。
小柄な、五十代の男。
(どっかで、死んでいても、仕方ないです。
高校2年から、引きこもりです。
うちのは、病気やから、どうしようも無いです。
去年、近所の医者ともめて、インターネットで調べて奈良の病院に行き始めました。
奈良は気に入ったみたいで、あちこち行ったみたいです。
温厚で、気が小さい子ですわ。
精神病やからね、何を考えていたのか、親でもわからない)
医大生、咲良春樹に関しては、家族のインタビューは無かった。
「近所の人が、喋っているのが、あった」
昭和に建てられた文化住宅の、前だった。
(ハルキ君が死んで、サクラさん、仕事もいかんと、寝込んではるみたいですよ。
ご主人は鉄工所、奥さんは工場のパート。どっちも休んでるらしい。
無理もないね。息子は医者になると、皆に自慢していたからね)
スーパーの袋をぶら下げた、八十代後半くらいの老女が答えている。




