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接点不明

8月20日、夜に結月薫がやってきた。

聖がマユに会った2日後だ。

午後11時、

電話もなく、突然来た。


「セイ、ごめん。ロッキー、すぐに返すつもりやったんやけど」

結月薫はまず、謝った。

聖は、奈良の事件だし、忙しかったに違いないと、労った。

事件の経過が聞きたい。

マユに話したい。

夜半の訪問に文句は言わなかった。


「セイ、近いうちにニュースになると思うけど、『4つの耳』の、身元がわかった」

薫はコンビニで買ってきたらしい、半額弁当、カツサンド、おにぎり、サラミ、チーズ、他と、発泡酒の缶をテーブルに並べる。

そして、まずは発泡酒を一気に飲んだ。


「早いな。さすがだな。1つはマンションの住人の、だったのか」

 部屋のどこかで寝ていたはずのシロが

 食べ物の臭いに釣られたのか、

 傍らにいた。

 聖は愛犬に、サラミを一切れ、食べさせる。

「うん。……セイにそっくりな医大生。咲良春樹や」

「やっぱ、似てるんだ」

 自分では、そう似ていると感じなかった。

 咲良春樹は21才。ネットに出ている写真は肌が綺麗で、若くて知的。

 我が身と、似ても似つかないと、思っていた。

「印象は全く違う。顔の造りが相似でも、年齢と内面の差がありすぎるせいかな」

「うん」

 聖は頷く。


「咲良春樹は、突然、消えたようや」

「消えたの?……ある日突然?」

「ある日、じゃない。3月10日や」


 現場のマンションの、防犯カメラに最後に写っているのが3月10日。

 朝出て行って、それから帰っていない。

 ラインの既読も、同じ日の午後以降無いと、わかった。


「5ヶ月と10日前か。随分前から行方不明って事だ」

「行方不明の届けは出ていない」

「家族や友達は心配していなかったのか?」

「大学で友人はいなかったようや。……退学したと思っていたと、何人かが、言ってた」

「そうなの?……医大でしょ? そんな、簡単に辞めないだろ」

「俺もそう思うけどな。とにかく、彼と親しかった学友はいなかったようや」


 聖は、綺麗すぎる部屋を思い出す。

 潔癖症で、ちょっと変わり者だったのか?


「あ、でも、ラインする友達はいたんだ」

「中学の同級生や。春休みに奈良に遊びに行きたい、案内して欲しいと、そういうやり取りをしていたらしい」

 事件を知って、警察に電話してきたという。

「電話番号からアプローチしたらしい。ライン全部見たけど、咲良の方は良く覚えてないような応対やったなあ」

 咲良春樹は徳島県内の出身だった。

 電話してきた友人は高校は別だという。


「それって、友人っていうより、ただの厚かましい同級生じゃ無いの?」

「厚かましいというか、大胆というか……憧れの男子やったらしい。……女の子や」

「なるほど。だけど、ちょっと怪しくないか? 咲良春樹が最後にマンションを出た後に、誰かが部屋に入って冷蔵庫に『耳』を置いた。そうだよな? 直前に接触した奴は怪しい」


 防犯カメラがあるなら、犯人はすぐに分かるだろうけど、と、 何となく思う。

「マンションは4階建。エレベーターは無い。カメラは、マンション入り口集合ポストを見下ろす位置や。死角はあるが、階段をのぼる範囲はフォローしてる。現場は4階。階段以外に侵入ルートは無い」

「『犯人』はカメラに写っているんだ」

「……そうや、ねんけど、な」

 マンションの住人、それぞれを訪問した人物……友人、家族、知人、宅配業者、郵便配達、営業訪問、全 て調べたという。


「全部?……すごい人数だね」

「そうでもない。1階は管理人室と自転車置き場。2階から4階まで、全部で20室。空室が5。つまりマンションの住人は全部で15人。単身者、学生向けのマンションやねん」

 全て当たったが、今のところ、素性不明の者は無いという。


「厄介な事件やで。もの凄い、厄介や」

 言う薫の目つきは鋭い。

 随分酒を飲んでいるのに、醒めた口調でもある。


「あと3つの『耳』の身元も、判ったんだよね」

「ああ。それも厄介や」

 1人目、仮にA、と薫は言った。

「Aは72才男性。冷蔵庫にあった『入れ歯』はAの装着品と判明。住所は名古屋市。元役所勤めの年金生活者」

 Bは32才女性。住所は兵庫県姫路市。主婦、一児の母。『指輪』はBの結婚指輪。

 Cは19才男性。住所は大阪府南大阪市。無職。『診察券』はCの物で、奈良市内の精神病院の診察券。


「『カード』は咲良春樹の、R銀行のカードやった」

「住所バラバラじゃん。……て、いうか、『被害者』共通点、無いよな」

「そう。……接点が今の所判明していない。……それだけやない。A、B、C、失踪時期もバラバラやねん」

 薫はずっと食べて飲んで喋っていたが、

 此処まで喋って、大きなため息をつき、タバコに手を伸ばした。

 聖は、今聞いた事件の情報を、ちゃんとマユに報告できるように

 頭の中で反芻していた。


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