耳塚
<マンションの一室で人体の一部発見 住人所在不明>
次の日にはニュースになっていた。
3日後には、<人体の一部>が<複数の人体の一部>になっていた。
4日が過ぎた。
薫からは連絡は無い。
あの日、薫は聖の車で出て行った。
当たり前だが、随分慌てて。
その前に、動画を自分のスマホに取り込んで、どこかに(多分、警察署)送っていた。
「カオルさん、大変よね。奈良の事件だし」
久しぶりにマユに会えた。
日付が変わる頃、
パソコンの前に座っていたら、
隣に置いた椅子に……座っていた。
ベージュのダウンコート。
白い顔に長い髪。
マユは変わりない。
初めて会ったときから一ミリも外見の変化は無い。
「早く車を返して欲しいんだ。カオルは動物霊園にバイクで行って、此処までは山田社長と歩いて来たらしい」
バイクは中型。
聖は原付免許しか無い。
山田鈴子が、車を貸すと言ってくれた。
でも、ベンツは運転に慣れていない。
「食料の買い出しに行けないんだ。……スバルが居なくなったから、冷凍庫に何があるのか把握していないんだけどね」
「そうなの。スバル君、……消滅したのね」
マユは、眺めていたニュース記事から目を逸らせた。
悲しげな瞳は、作業室のドアにむいている。
「まあ、消えたんだけど……それでカメが生き返ったから……」
聖は上手く説明出来ない。
「えっ?カメが生き返ったの」
「うん」
一部始終を話す。
が、左手の手袋を外したとは言ってない。
すっかり忘れていたから。
「生まれ変わったのかも知れないわね……奇跡が起こったのかな」
マユは、もう悲しんではいなかった。
「猟奇殺人の可能性、あり、なのね」
「もう、それで決まりだろ」
「ここ、『耳塚』について書いてるわ」
人体の一部が<耳>だと、今は報道されていた。
「昔、殺した敵兵の耳を持ち帰った、アレだな。耳塚、京都にあったよ」
「手柄の証ね。塩漬け、酒漬けにして持ち帰った……今度の事件では、ワインに漬けて保存していたのね」
「そうだよ。記事には出てないけど。あと、4つの袋に……何だっけ。入れ歯と、診察券と……」
あと2つが思い出せない。
「その動画見たいわ」
「それがさ、無いんだよ。薫が消してる」
「成る程ね。刑事さん、抜かりないわね。それで、……随分綺麗な部屋だったのね?」
「うん、」
覚えている限りを話す。
「住人は若い男性。殺人だとしたら……殺害現場はマンションじゃ無い気がするわ。
遺体から耳と小さな所持品を持ち帰った、つまり……別の場所で殺したのだと思う」
「殺人事件だろ?」
「まだ分からない。殺したとは限らない。たとえば……死体を見つけて、耳を持ち帰ったのかも」
「まさか……道を歩いていて死体を見つける確率は低いよ」
と言ったが、
現にマユの死体は森に放置されていると、気付いた。
もちろん口には出せない。
「それぞれの耳が身体から切り取られたのが何時か、調べないと、まだ分からないわね」
「そうか。連続殺人か、一度に4人大量殺人か、今のところは不明なんだ」
「4人?……セイはどうして被害者が4人と思うの?」
「それは、冷蔵庫に4つ、被害者の所有物らしいモノが、並べてあったからだよ。耳は3つ確認出来た。全部で4つに違和感はないよ」
「成る程ね。……とても奇妙な事件ね。4人殺して<耳>と所持品を保管。コレクション?殺人の証?」
「犯人は、まともな奴じゃ無い」
「狂人?……それにしては4人殺して、発覚していないのは凄い事よ……謎が多すぎる」
マユの声はよく透っている。
この事件に好奇心を刺激されているに違いない。
聖は、ちょっと嬉しい。
「絶対、明日にでもカオルは来るよ。車を返しに来る。その時に、事件の事、オフレコで喋ってもらう。……だからさ、」
(だから、明日の晩も会いたい)
続きは、口に出せなかった。
恥ずかしくて言えない。
言えなくて、適当に事件のニュースを検索する。
「あ、速報よ」
マユが言う。
「ホントだ」
……奈良市で人体の複数の<耳>が発見された事件の続報
……<耳>の1つが、消息不明のマンションの住人であると判明。
<咲良春樹 21才 医大生>
猟奇事件に皆の反応は早い。
咲良春樹の画像は、既に流れていた。
「この人、セイに、似てるわ」
マユが呟いた。
「剥製屋事件簿シリーズその九」18禁に相当するとご指示頂き削除いたしました。認識不足で申し訳ありませんでした。15禁に書き換える力量がございません。ボーダーライン無知です。今後も指示があれば削除致します。拙作を読んで下さってる方に、非常に申し訳なく反省しております。この覧でお詫び申し上げます。