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出会ってしまった

「4人は偶然であった。奈良の病院? ……パワースポット?」

マユは、それが一番気になると言う。


「N駅だってさ。Bが子供と線路に飛び込もうとするのを、Aが止めた。それが始まり」

「無理心中しようとしたのね。そこまで心が追い詰められていたのね」

「うん。Aは、B親子をホームから遠ざけようとした」


片手でBの腕を掴み、もう片方の手でBの鞄と幼児を抱え、

改札へ連れて行こうとした。

Bは泣いて、離して下さい、と叫ぶ。

幼児は何が可笑しいのか笑い続けている。

Aは途方に暮れた。

かといって、今自分が放置したら、この母親は飛び込むに違いない。


「Aは奥さんの一泊入院に付き添って奈良に来た。N駅は有名な寺がある。気分転換に、その寺に行った帰りだった。……そこに、医大生も居合わせた」

 咲良のマンションはN駅に近かった。

咲良は三人の様子が変だと、足を止めた。


 Aは咲良に、駅員を呼んできて欲しいと頼んだ。

「当然の流れね。普通は、そこで駅員にバトンタッチして、終わるわね」

「そうだよね。でも実際には、四人は駅前のレストランへ行った」

「……どうして?」


「医大生は、B親子がね、ひどく空腹だと、気がついた」

「そうなの。お腹がグーグー鳴っていたのかな」

「子供が自分の唾をしきりに飲み込んでいたんだ。子供の様子も気になった。ずっと拍手してる。普通じゃ無い……それでね、タバコが吸えるレストランがあると、AとBを誘った」


「二人は喫煙者だったの?」

「うん。医大生は臭いでAとBが喫煙者と判った」

喫煙できる飲食店は希少だ。

時間的にも、昼食の頃だった。

 

Aは思いがけない誘いに戸惑った。

咲良は、自分は怪しい者では無いと、学生証を見せる。

<医大生>と知って、Aは咲良を信用した。

いや、心惹かれてしまった。

ちゃんと見れば、端正で理知的な顔立ちの青年。

B親子に関わり合ったのはトラブルだが、この青年は、良い出会いかも。


こんな息子が欲しかったと、瞬間思った。(Aは子供がいない)


BはAと咲良に優しく促され、泣き止んだ。

改札を出、徒歩5分のイタリア料理の店に素直に行った。


「AはBに、死のうとした理由を聞いた。Bは、息子の知恵遅れを幼稚園で指摘され、保護者からも退園するよう圧力をかけられていると、涙ながらに話した」

 Bの夫は<パワースポット巡り>をしていたと話していたが、違う。

 絶望し、息子の将来を悲観し、死に場所を捜していた。

 数々の死に場所、死に方を当たったが、やはり最後の一歩が踏み出せなかった。

 自身の生への執着。

息子を手にかける躊躇。

 

 そして一瞬で終わる鉄道自殺を決心した。

「重い話ね。……他人が慰めようがないわね」

 マユはため息をついた。

「そう。現実的に救いになるアドバイスは出来なかった」


 料理は美味しかった。

 ワインも皆で飲んだ。

 Bは御馳走とアルコールの力で、少しずつ顔色が良くなり、

 饒舌になった。

 しかし、ハイになっても

 <死>の決心は変わらないと言う。

(この子にも私にも、一生、人並みの幸せはないんです。惨めな、しんどい未来しか無い)

同じフレーズを何度も言う。

次第に声は大きくなる。


「キツい、状況ね。いきがかりで自殺を止めた。親切心から話を聞いてあげたけど……自殺の意志は、変わらないと、そう言ったのね」


Aは、食事が終わった後、どうしたらいいのか考えたらしい。やはり警察にでも電話するべきかと。……Aと医大生が困惑しだしたタイミングで、若い男が話に入ってきた。カウンター席にいた北浦だ」

「……偶然、その店にいたっていうの?」

「診察の帰りだった。病院の送迎バスがN駅発で、彼も喫煙者なんだ。診察日にいつも、そのレストランに立ち寄っていた」

「北浦さんは、……ドクター・モローと『死の偽装計画』を練っていたのよね」

「うん。聞こえてくるBの切羽詰まった話が、人ごとに思えなかったんだろうね」


 ……アンタだけ、消えたら、いいやん

 ……子供が重荷なんやろ?

 ……重たい荷物を、もうこれ以上背負って歩けないんや。

 ……捨てて、逃げたらいいやんか

 ……荷物は誰かが拾うよ。

北浦の言葉にBの顔が、変わった。

 絶望と不満しかない暗い顔に生気が出現した。


北浦はBを<死の偽造>に、誘った。 


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