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お茶会

(この人はサクラ君じゃ無い)

師が子狐に言っていた。

外見が自分に似ている「サクラ」

医大生、咲良春樹か?

このドクターは、事件と無関係では無いのか?


師は、書斎から出て、廊下を先に行く。

聖が付いてくるのが当然という風に。

どうして食堂へ移動なのか説明は無い。

振り向きもしない。


動物好きの好人物と判断した。

それが、今大きく揺れている。


師は廊下の突き当たり近くで足を止め、身体の向きを変えた。

何かと思えば、そこにエレベーターがあった。

これもリフォームの一貫なのか、真新しい。

諸は最上階、3階のボタンを押した。


「シロ、」

3階でドアが開くと、シロが廊下を走ってきた。

嬉しそうに聖に飛びつく。

エレベーター以外のルートで先に来ていた。

リードは外されている。

つまり、師が電話した、<誰か>はシロを自由にしてから、ここに連れてきた。

(お前、知らない人に付いてきたの?)

ちょっと不思議な気がする。


いつの間にか師は先を行き、1つのドアを開け、言う。

「霊感剥製士の神流さん、ですよ」


大きなテーブルの上にケーキが六皿、

紅茶のセットが用意されていた。

白いレースのテーブルクロス。

クリスタルの花瓶には黄色いバラ。

綺麗な部屋で、

四人、

立っていた。

師と聖に、深く頭を下げる。

白髪の大柄な老人と

若い女、

そして若い男が二人。

若い男の一人は、顔立ちが、聖に似ていた。

4人とも、グリーン系のポロシャツにジャージ。

同じ服装だった。

胸に<そよ風>と刺繍がある。

<そよ風病院>のユニホームらしい。

同じなのは服装だけでは無い。

片耳が欠けているのも、同じだった。

だから

四人の素性が判った。


「生きていたんですね……なんだ、そうなのか。……殺人事件じゃなかったんだ」

安堵のため息と共に口から出た。

既に殺されていると、犠牲者だと思っていたのが、

生きている。

……良かった。

嬉しくて、涙さえ滲んできた。

だが、次の瞬間、いくつかの疑問がどっと、頭に沸いてくる。

「あの……皆さんは、世間を騒がせている、『耳事件』の、被害者ですよね」

まず、確認する。

それぞれの欠けた片耳に視線を移しながら。


「被害者ではありません」

と、咲良が答えた。

他の三人も、黙って頷いた。

「そう……、ですか」

聖はあとの言葉が続かない。何から聞けばいいのだ。


「神流さん、……4人は一度、警察に行った方が良いんでしょう? この前刑事が来てました。見つかるのは時間の問題でしょうね」

「……警察が、来たんですか?」

と、しらばっくれる。


「ドクター。さっき警察に電話しました。……迎えに来てくれます」

白髪の男が言う。

「そうなの。じゃあ、時間がもったいない。ケーキを頂きましょう。紅茶も、冷めてしまう」

師が、椅子に座ると、他の男3人も腰掛けた。

女は、聖に

「どうぞ、こちらの席に」

声を掛け、カップに紅茶を注ぐ。

か細い声だった。

太くて短い指が震えていた。


「シロはね、チビと、あっちで食べて」

足下に座っているシロにも声を掛ける。

するとシロは、聖の側を離れ、部屋の隅に行く。

(なんでシロ、と知ってる?)

一瞬、疑問。

すぐに、さっき自分が名を呼んだと、気付く。


シロは異形の子狐の側にいる。

お互い臭いを嗅ぎ合って、挨拶している。

皆の視線は、そっちに流れている。

目を細め、慈しむように2匹の獣を眺めている。


沈黙がルールであるような、お茶会だった。

誰も口を開かないので、聖も何となく喋れない。


でも、ケーキは美味しかった。

スポンジも生クリームも、蜂蜜漬けのラズベリーも

手作りの味だった。


2杯目の紅茶が終わった頃、パトカーのサイレンが聞こえた

次第に近くなり、ぴたりと止まった。


(県道をサイレンならして……山道に入って……もうすぐ、来るのか。パトカー出動は大げさだな。皆無事だし、ここは平和そうだけど)


しかし、当局は何も把握していない。

未解決の大量殺人事件。

被害者を名乗る男から電話。

パトカーどころか、機動隊車輌もやってきた。

彼らはインターホンも押さず、静かに、完全武装で

食堂に突入してきたのだ。


……まるで映画のワンシーンのように、現実離れした光景だった。

聖は、ぽかりと口を開け、息をするのも忘れ

シロが唸って、最初の<侵入者>に跳びかかるのを見た。

実際は一瞬の出来事だった。

だが、

スローモションのように、

ひどく、ゆっくりだと、感じた。

初めて見るシロの<襲撃>

気の毒な警官は、最初の言葉を発する前に……耳を噛まれていた。







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