子狐
飼い主に抱かれ、力を得たかのように、ソレは聖に吠えた。
敵対視してる吠え方だ。
「あの人が怖いのか?……左手の、軍手が嫌なのかな」
<師>がボソリという。
「あ、これは、こっちの手がアトピーで荒れてるんで」
と聖は言い繕う。
(やっぱ、片手だけ軍手はマズいんだ)
自分が<師>を観察している、それしか頭に無かった。
<師>だって初対面の剥製屋を観察していたのだ。
片手だけ軍手は、気になるに違いなかったのだ。
「見た目が汚いから、隠してるんですね。……それなら、『被せ義手』の方が目立たないんじゃ無い?」
「『被せ義手』、ですか?」
聖は、思いがけない事を言われ、
ただ、オウム返し。
<師>が抱いているモノから目を離せない。
(尻尾があるじゃないか。ふさふさで……犬じゃ無い。狐だ。それも子狐。上肢と下肢は膝から切断。下は義手と義足。幼児用の精巧で高価な……左目は義眼。人間用のだ)
「あれ、君、犬を連れてきた?」
<師>は臭いを嗅ぐ動作の後に、言った。
咎める口調では無い。
どちらかというと、嬉しそうだ。
「はい。門に繋いでいます」
「成る程」
微笑んで、スマホを手に取り電話して
誰かに言う。
「門に繋いでる犬を放して、食堂に連れてきて」
と。
そして聖に
「私たちも食堂に移動しましょう」
そう、言うのだった。




