廃病院
「それで、元医者の所へは行ったのか?」
ひたすら食べている薫に聞いた。
焼き鳥、唐揚げ、4種のサラダ、巻き寿司、ステーキ丼、……
スーパーの総菜売り場で買ってきたらしい。
シロは、あじフライを貰っている。
「行ったけど、インターホンに応答無しや」
「留守か」
「居留守、や。でも良かった。セイも食べや」
と勧めてくれる。
そう言えば朝から何も食べていない。
狸に夢中になっていた。
「一緒に食べようと思って買ってきた。夜遅くまで働いていたんやろ。お疲れさん」
と、缶ビールを勧めてくれる。
優しい。
なんで?
あれ?
……さっき意味不明の言葉を聞いたような。
「あのさ、居留守だったのに、何が良かったの?」
嫌な予感がして聞いてみる。
「刑事が行っても出なかった。けど、白衣着た、剥製屋が行ったらどうやろう」
(狸の剥製の事で、教えて欲しい)
インターホンで言えば、中に入れてくれるかも。
「えっ、また俺が偵察に行くのか?」
「そうや、また行くねん」
断る選択肢は無いと、決めつけている。
それが、ちょっと悔しい。
「なんで、俺が?」
と言ってみる。
「ほんまや。何でセイが、また偵察に行くんやろうな。……俺も不思議や。ドクター・モローの作った剝製が、どうしてセイに回ってきたんかな」
薫はニヤリとして、
美味そうにビールを飲んだ。
「あ、でも『ドクター・モロー』の一致だけだろ?」
聖は、客の情報しか手元に無いと気付く。
「『そよ風病院』、っていうねん」
「変わった名前なんだ。……病院、なのか?」
診療所を、想定していた。
「県道の先、一山超えて、和歌山との県境に近い」
「わりと、近いんだ」
「国道沿いに『天道商事』という大きな看板がある。そこから山へ入った所にある」
天道商事の会長が<狸>の依頼主だという。
「調べたんだ」
「2週間前に『天道商事』で病院の事を聞いた。業務用車輌のレンタル会社や。その時に、大きな狸の、人間の目をした、へんな剝製を見た」
「『カツオ』に会ったのか」
<天道商事会長>は、<そよ風病院元院長>と幼なじみだった。
「病院は木造3階建。元精神病院や。廃業して20年程やて」
「廃病院か。……ホラーゲームに出て来そう」
「その通りやで。面白そうやろ。どうや? 行ってみたいやろ?」
薫は嬉々としている。
「面白がるのは、マズくない? ……四人の死体が、あるかも知れないんだろ?」
「うん。あるかも知れない」
薫は、天道商事を通して、アポを取るように指示した。
<剝製の件>でと言えば紹介してくれるかも知れないと。
「思いも寄らない展開ね」
マユは喜んだ。
結月薫が泊まっていった、次の夜に、会えたのだ。
何もかも見ているかのように、事件に進展があると……工房に現れる。
「被害者達は去年同時期に『短い家出』をしている。その間、警察が居所を掴めないのは、ホテルや深夜営業の店では無いから。『廃病院』だったら4人滞在可能……それで、いつドクター・モローに会いに行くの?」
「明後日14時、だよ」
薫の指示通り、今朝、剝製の依頼主の連絡先に電話した。
<天道商事>に繋がった。
依頼主の娘が出た。
1時間後に、<ドクター・モロー>からの返事を知らせてくれた。
「ドクター・モローが、医大生のマンションに耳を?」
被害者の一人、北浦が、他の被害者3人を<廃病院>に誘った。
出会いは奈良のパワースポット?
4人はバラバラに<廃病院>に行き、殺された。
四人の耳を<ドクター・モロー>の助手が被害者の一人のマンションに持って行った?
「犯人の行動は不可解。狂人としか思えない。……『ドクター・モロー』は、殺人狂、なんでしょう?」
(うん)
と、
言えなかった。
精神科に通院していたのは事実だ。
しかし<天道商事>で聞いた人物像は
<殺人狂>のイメージには遠い。
「先生は人間嫌いの変わり者(笑う)。山持ちの資産家で男前なのに、生涯独身。
トモダチも父の他、幼なじみ数人だけ。人間より動物が大事だそうですよ。
昔からだって、父は言っています。
獣医になりたかったらしいです。
精神病院の跡を継いだけれど、無理があったみたいですね」




