闇黒き獣と落ちて
吐き気を誘われる腐った肉の腐敗臭
それが、荒い息遣いと共に漂ってくる。
ハッ……ハッ……ハッ……
木の葉を踏みしめる音が段々近づいて来た。
暗く見通しの悪い木々の陰から這い出した塊
それは……
どんなものでも簡単に切り裂いてしまうであろう鋭い鉤爪
暗闇に同化している毛はボサボサで、所々何かが乾いた跡がある
眼は人間で言うところの白目の部分が墨のように黒く、黒目の部分は血のように赤い
瞳孔は羊のようにキュッと細まり横棒のように一線引き、何をするわけでもなくただ雛菊をジッと見つめている
大きさは、三メートル程と雄のヒグマ位の大きさだが、見た目は狼だ。
裂けた口からは舌が力なく垂れ下がり、絶え間なく滴り落ちる唾液は地面に消えて行く
獣は一歩、また一歩とにじり寄る。
木の葉の踏みしめられる音が響く度に雛菊は、後ろに後退していく
トン……
背中が後ろの柵に当たるのを感じた。
もう逃げ場がない
見たこともないような大きさの獣に足が震える
獣がグチャッと大きく口を開け、その恐ろしい程に尖った三角形の歯を見せて、飛びかかってきた。
雛菊は、咄嗟に後ろへと体重をかける
ガラッ……
謎の浮遊感と、頭上をかすめする鋭い爪に意識を落とした。