日照りと八百階段
人が賑わう都市
太陽が燦々と真上で陣取り、雲一つない青空が空いっぱいに広がっている。
風鈴の涼やかな音を聴きながら、下駄を鳴らして歩くセーラー服の彼女がこの物語の主人公「十六夜 雛菊」。
彼女の手には、溶けかかったアイスの棒が太陽に照らされながら握られていた
彼女は美しい着物を着た舞妓さんを通り過ぎながら人の声を背に、裏路地をくぐり抜けていく
彼女は一つ、長いため息を吐きながら最後の一口を口の中に放り込んだ。
「やっと、一人になれた……」
「此処ならもう追ってこれないよね」
後ろを振り返り人が居ないのを確認して、彼女はフードを取った。
お尻をすっぽり覆い隠すほど伸ばされた黒髪が太陽に照らされながらユラユラ揺らめく
雛菊は自分の目の前の光景に密かに眉を曲げた
其処には、苔がびっしりと生えた階段が見上げた先にずっと続いていたからだ
横の標識には、【八百段あります】とご丁寧に書かれて入るのを見て、更に目が死んだのは言うまでもないだろう。
時間にして数分……
腕を組んで目の前の光景を黙って見上げて居た雛菊は、あろう事か階段を一段、また一段と登り始めた。
頭上をアーチの様に行き交う、緑が生い茂る木々に涼しさを感じ
時折覗く、重なり合った葉っぱの隙間から見える太陽の光に導かれるように、雛菊はどんどん登って行く