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第二話「騎士団長の合図」


聞き覚えの無い男たちの声。

ギシギシと(よろい)でも来て歩いているかのような足音。

冷たく暗い石の床に壁。


鉄の扉の向こうには、(とら)われの身となってしまった桜色の髪の少女がいた。

腕はロープできつく縛られ、横たわるようにいた少女は目を覚ましたようだ。


「……うっ。きもち……わるいぃ。くらいし、誰も居ないし。……あ……そっか。私……」


徐々に蘇っていく記憶に、今の自分の状況が見いだせた少女は、直ぐにでもここから出なくてはと身の危険を感じる。


だが、上手く身動きが取れないだけでなく頑丈で鍵が掛かった扉、窓など一切ない。この密室内からは出られる方法などあるはずもなく、ただの一瞬で地獄に突き落とされた様な気分に襲われた。


一言で表せば、


「最悪……」


何故このような事態に(おちい)ってしまったのか検討もつかない少女は、誰かが助けに来ることをただ願うしかなかった。


もう随分と暗くなってしまった町には、幾つもの明かりが灯っていた。

通りがかった酒場っぽい店は、繁盛している感じでだいぶ人で賑わっていた。


こういう所には何かしら情報を持っている奴が、いる!……かもしれない。

少しでも探しているエノの手掛かりにでもなれば、希望をもてる。


内心入りたくない思いが強いが、当てずっぽうに歩くよりマシだと、ユウキは自分に言い聞かせる。


酒場の入口は簡単に出入りできる風に作られた木造のそれを通り過ぎると飲みっぷりの良い男達がわんさか騒ぎに騒いでいる。


少年の後を付いてきていたシルは、その有様に少しビビっていた。

なんせ、その姿は皆大柄の筋肉質の良い体の者ばかり居たからだろう。


手に汗を握りながらもその男達が飲んでいる席の真ん中を堂々にも少年は通りながら話をして回った。


「飲んでる最中悪いが。ちょっと聞きたい事があんだけど……こう、胸より少し上まで伸びた桃色の髪の……赤い目をした……十五、六歳の女の子、見なかったか?」


店に居た従業員以外の全客層には聞いて回ったが、誰一人として期待していた言葉が返ってくる事など無かった。


「……酒回ってるだろうしな。まともな意見は期待できねーか。まあ、ダメ元でも、残りの従業員達に聞いてみるか」


最初に声をかけたのはここのオーナーであろう、カウンターで客の話を聞いたり酒を出したり威勢の良いこれまた大層立派なごりマッチョオッサンだった。


少年が一通り話をすると、勇ましさを引き立てている顎に生えたヒゲを指で撫でながら、心当たりのあるような口振りで語り始める。


「……なるほどな。その嬢ちゃんはきっと囚われたんだろうな。なあ猫目の若造や、おめえはここらじゃ見ねぇ顔だがよ。聞いたことはねえか、こんな伝説を」




--ある時、

人はある村を犠牲にした。

ある時、

人はある村を見捨てた。

誰一人として、勇気を奮い立たせ救おうとはしなかった。

それらは、呪いだ。受ければ、ただでは済まないだろう。それがどんな災いをもたらすか未だ明かされず。


だが、これだけは覚えておくといい。

見捨てた全てのものに

神秘は怒りを(あらわ)にし、神々は滅び生命の存在は歪み始める。

それらは水明な海に愛された少女を初めとし、全てを狂わせるだろう。


それを阻止できる者は数知れず。

速い事に損はなし。

決断を誤ることは、許されず。




「っていうな、ただの噂だか伝説だかわかんねぇもんがあるんだよ。こんな事は、この世界に生きてる奴なら大抵知ってるもんなんだがな……。って若造、お前顔色悪くねぇか?おい、おいどうしたんだよ!おいっ!!しっかりしろ!」


この時少年は疲労と脱水症状で目眩を起こし、そのまま寝込んでしまった。



□ □ □ □ □



そこは無数の星が流れ、底は先から先まで水面。その場には、不思議と立っていられる。

水面にはひとつしかなかったはずの波紋(はもん)が二つ重なり合うように広がっていた。


誰かが自分に語りかける。

とても切なく、悲しげに。

今にも泡と化してしまいそうな声音で。


「あぁ見えても、寂しがり屋で臆病なんだあの子は。素直じゃなくて取っ付きにくいが……、どうか。頼むよ……」



目を開ければ見慣れない木面の天井。

太陽の光を一杯に吸収したかのような匂いの綺麗な布団や枕。

右側には、白く柔らかい触り心地の良い毛並みが手の下に。


「あ!俺あの後倒れ……たんだっけ。…………っエノ!!アイツは、あいつ、は……」


行き場のない気持ちは疲れきった体と心には少々堪える。

重い足取りで下に続く階段を降りて、看病してくれただろう酒場のオーナーを探す。


降りてくれば食欲をそそる匂いが漂ってくる。見るとそこには三角巾にポニーテール、エプロン姿の細身な女性が料理に腕を奮っていた。

きっとここはあの酒場の奥の方にある構造のキッチンなのだろう。

すると丁度、オーダーをとっただろう酒場のオーナーは料理の名を口ずさみながら少年に気づいたようだ。


「お!目ぇ覚めたか!!まっ。まずはメシ食え。話はそれからだ!」


少年の気持ちを察しながらも、世話を焼いてくれるオーナーの言葉に甘えて遅めの朝食を頂いた。


聞けばこの酒場はオーナーのカドモスさんは料理担当奥さんのハルモニアさん、その他少人数の従業員とで切り盛りしていると言う。

昼間は女性客やら子供連れの親子やらが店に来て夜は、働く男達の憩いの場となっている。


「で、若造。お前は昨日話してた嬢ちゃんを救いてぇって筋なんだな?」


「あぁ。……伝説がなんだか知らないがエノが、その女の子が、何したっていうんだよ!……」


「あんたは信じてるって、事ね」


食べ終えた皿を片付けながらハルモニアさんが、明るい笑顔を浮かべ何やら意味ありげな表現をする。


「それなら、協力するっきゃないね!だろ、アンタ」


「!?」


「まあ、これもなんかの縁だ!手を貸してやるよ」


名も知らない、目的も何をしでかすかもわからない奴を受け入れてくれる、酒場の夫婦の真心に感謝するとともにまだ、エノが(さら)われた理由がイマイチピンとこない。


「あの、それで俺が探してる女の子、エノ……と昨日聞いた伝説?それに攫われた訳。何の関係があるだ?」


「うん?あぁ、どうやらな。円卓の騎士さま達はお前が探してる嬢ちゃんを伝説の少女と見てる様なんだよ。訳は分からないが、囚われた嬢ちゃんが伝説の少女かも。ここの住民達の間にはそんな噂で広まってるんだよ」


--円卓の騎士。よくゲームやアニメで強キャラとして目立ったりするが……。

有名な話、円卓の騎士はアーサー王率いる強力な力を持つ十二人の騎士達の事だが、それって物語の中だけじゃないのか。

……ふう、大丈夫。俺は正気だな、うん。


「ところで若造。手を組む相手に、名ぐらい名乗らねぇのは気に食わねえな。なんて言うんだ?」


「っあー。すまん、すまん。俺は立花ユウキ」


「ほう。いい名前だが変わってもいるな!なんて呼べばいいんだ?」


「じゃあ、ユウキでヨロシク」


「……そんでユウキ。これからどうすんだ?」


そんな事は決まっている。

エノが居る場所までチーターの如く向かい、ジャパニーズアサシン的な忍者のように気配断絶し連れ戻したらこの町?国を出て……それから……それ……から…………。

穴だらけの提案は言ってしまえば駄作で、全くもって現実的でないものとして勿論却下された。


「お前!円卓の騎士を敵にまわすって事を理解してねぇみたいだな。知ってるだろ?あの強さを!しかも、嬢ちゃんは危険人物。いわばこの国の……言ってしまえばこの世界の天敵なんだ。魔法や術のひとつ使えねぇとなると……救出は諦めもんだな」


「あ。俺考えてみたら、(ここ)の事も円卓の(エノをさらった)奴らの事も何も知らねぇーんだった」


話を聞いていた夫妻は、凍りついたような目で少年を見ているが、無謀ながらも勇気と動機と行動力だけは一人前のユウキにどこか期待して止まない思いもあった。


それが例え、とても険しい道であったとしても……諦めずに進もうとするその姿に。


「はっ!しょうがねぇ野郎だなァ。いっちょ元騎士団団長の俺が攻略法を伝授してやるとするかァ!!ユウキ!きっとこれは命の掛け合いになるだろうが……。どうだ?やるか、やらないか?」


とっくに死なんて克服済みだ。

蘇る勢いで、気づけばここにやって来ていた。

そして、最初に出会った桜色の髪の少女にヒトリにしないと言ったのにも関わらず早速約束を破ってしまった。


助けに行くのには、十分な言い訳だ。

少年が出した答えは、




「……そりゃ。……やらない…………

訳にはいかねえ。だから、よろしく頼むよ!カドモスのオッサン!いーや騎士団長!!」


「ふ、おおよ!任しときな、その根性と肉体スーパー鍛えてやるよ!」


カドモスの肉付きの良い大きな腕と比べると細めなユウキの腕とがガッシリと合わさる、それは合意の合図でもあった。





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