第1話
短めです。
『貴方にとって一番嫌いな日はいつですか?』
こんな質問の意図のわからない、する意味あるのかって質問に、もし世界の生存者達全員が答えてくれるのなら、きっと全員、バカにしたような表情で、口を揃えてこう言うだろう。
『2057年4月1日』
この日、あいつら『非人類』が産まれたらしい。
妊婦の腹から、赤ん坊として産まれてしまったのだ。
病院関係者や妊婦の方、さらにそのご家族も、さぞかし驚いたことであろうその事実が、世界中のあらゆる場所で、同時に起こったというのだから、当時世界がパニックに陥ったのは当然だろう。
その後各国は話し合い、産まれてきたあいつらを全員まとめて南極に送ることにした。
これには、今尚人類の間で絶大な力を持つ大企業『ネオパーソンズ』の助言もあったらしい。
「南極に全員送って、そこで研究をしましょう」
という、いかに人が好奇心で作られているかが分かってしまう助言だ。
こんなおかしな名前の会社に唆され、すべての国があいつらを南極に送り、研究がスタートした。
ここまでにかかった期間はたった2日。それもこれも、ネオパーソンズが大量の資金援助から情報操作まで、力を注いだ結果らしい。世界規模のパニックを直ぐに収めたその手腕には、ただ驚くばかりである。
その後しばらくは平和だった。
子供を産めば漏れなくあいつらが産まれてくるから、人類は子孫を残すことができず、退廃の一途をたどっていることを除いては。
これに関してもネオパーソンズが、クローン技術を応用して色々試してるらしいが、詳しいことは知らない。
そして問題は研究スタートから10年後。
あいつらが研究所を破壊し逃げ出した。噂の中にはそれは人為的なものだ、なんて説もあるが、真相は闇に埋もれている。
逃走を果たしたあいつらの数は、全部で約40万。そいつらが少しずつ少しずつ、海を渡ってか空を飛んでか転移をしてか、北上してきたのだ。
あいつらは各地で人々を殺し続け、次々と人類を廃れさせていった。
さらに、あいつらに生殖機能はないはずなのに、どんどんどんどん数を増やしていき、2068年、北上してから僅か1年で、人類の人口を上回っていった。
そして2074年現在、正確な人口はわかっていない。人口を調べる機関である国が滅びたのだ。
だが、少なくとも3900人+αは生きていることを、僕は知っている。
あいつらが北上してきた時、なぜだか襲われず、これまたなんでか今も尚襲われずに残っているセーフティゾーンが、僕が知っているだけでも4つある。
今そこを僕は『エデンの楽園』と呼び、1300人程度の集落のような感じで生活している。
そして4つの楽園同士が細々と交流し、食料、水などの必要物資、ナイフや銃といった武器、情報などをやりとりし、なんとか生きながらえているのが現状だ。
4つ以外の楽園も、もしかしたらあるのかも知れないが、周囲80キロの範囲にそんなものはないし、あったとしても、80キロ以上の道のりを、あいつらに襲われる危険を犯してまでいく必要はない。
ちなみに、+αの人々は、ネオパーソンズの方達だ。
どこからでも見えるんじゃないかと思うくらい高く太いビル。
そのビル自体が、僕の知る4つの楽園の内の1つでもある。
昼でも白く輝くそのネオパーソンズビルで、2000人もの人々があいつらについて研究している。
そしてネオパーソンズは、僕が知らない楽園ともコンタクトをとっているという噂がある。まあ、噂は噂だ。本当かも知れないし、そうじゃないのかも知れない。
それと、僕のいる楽園には、ネオパーソンズの社長の息子なんてのもいる。
ビル内の実験が危険なものばかりだから、こっちに避難してきてるらしい。
こんな世界、どこにいても危険はつきものだと思うけれど。
そんなこの世界の常識を、僕はつい一カ月前まで知らなかった。
あいつらに関することは知っていたけど、それ以外の常識を、一カ月前、走り疲れてぶっ倒れてたところを拾われるまで、ホントにちょっとしか知らなかったのだ。
そいつはなぜかって?
僕は一カ月前、正確に言えば2074年4月1日まで、7歳のときからの10年間を楽園の外で暮らしていたからだ。
僕のことを「大好き」と言ってくれた、僕の大好きなひとと。
僕の、親愛なる師匠と一緒に、僕は楽園の外で、楽園を知らずに、あいつらの世界で暮らしていた。