表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

一度立ち止まって ゆっくり進むも急ぐも自由 

作者: 萌咲

読みやすいように改行とかしました。

初投稿でお見苦しい点もだいぶ解消されたと思います。

「死にたい」

「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」


 俺は男、名はあるが述べるほどじゃない。別にうぬぼれてるわけではない。むしろそういうのは嫌いなタチだ。

 ただ、述べたくないそれだけだ。


「死にたい死にたい」


 止まらない。


「死にたい」


溢れてくる。


「死にたい死にたい死にたい」


 どうしちゃったのだろう。

 周りの目線が目に入る。遠慮気味にこちらを見ている人が見える。ような気がする。

 よく分からない。いまいち感覚がつかめない。霧がかかり前が見えにくい先にある果実へ手を伸ばすが届かない、そんな感じだ。

 だけど、


「死にたい」


 口は動く。

歩んでいた足は段々遅くなる。


「死にたい」


 歩む足のペースが更に下がる。ような気がする。周りの人の動きが高速移動のような、とても自分についていけないスピードでぐるぐる動いてるように見える。

 おかしい、明らかに普段と違う。前はできたのに。前はできたのに。前と同じ風に、そうだ同じことをするだけだ。ほら、動け俺の足。できるだろ?なあ!?


「死にたい」


 また口から声が出る。出したいわけではない。むしろ内容的に出さない方がいい。気がする。

どうしちゃったのだろう俺。何があったか、いや何もなかったはずだ。何もない、何も……


「死にたい」


 ついに歩けなくなってしまった。

俺は路上にうずくまる。

地肌の部分がコンクリートに触れる。


「冷たい」


 この冷たさはまるで体に血が通わなくなったような感覚で、


「死にたい」


 口に出る。


「死にたい」


 止まらない。

肌だけでなく頭も冷たくなってきたような、


「死にたい」

「死にたい」

「死にたい」




?「……」


 なにかいる。ような気がする。

直接目で追ったわけではない。今の俺にはそれをする体力もない。


?「……」


いや、いる。いることを確信する。目で見えてはいない。だが、なんとなくわかるのだ。

まるでいることを体の五感が感じ取るような……


?「・・・」


 それは近づいてきた。


?「どうしたんだい?男」


 それは語りかけてきた。


「ん?」


 驚いて普段出ない声が出てしまった。


?「大丈夫か?男」


 なんなんだこいつ。見た目は猫だ。猫そのものだ。かわいらしいというか、そこらへんにいるというか、どこにでもいる、そんな感じの猫だ。俺は動物を飼う趣味はないが動物を見て可愛いとは思う。いや、愛でたい気持ちが沸くが多分これは皆が思う気持ちだし変わったフェチズムを持つわけでもない。

 ただ、動物が喋るなんてのは聞いたことも見たこともない。目の前のものは猫そのものだ。

なのに口をきいてくる。


「お前はなんなんだ。」


猫?「なんでもいいだろう?」


 意味が分からない。

分からない分からない。

分からないだらけでなんだか腹が立ってきた。


「ふざけるな!」


 大きな声が出た。


「しゃべる猫なんていないだろ!」

「だいたい!そもそも、こんなとヒッグところヒッグに猫なんてグスいないだろうええええええええん」

「うえええええええええええん」

猫?「泣いているのか」

「うええええええええええん」


 堰を切って涙が溢れだす。

なんで泣いてるんだ。

自分でもよくわからない。悲しいわけではない、痛いわけではない。

 しかし、


「うええええええええええええええ」


 涙が止まらない。

ヤバイやつだ。ぜってーヤバイやつ。俺がこんなやつに出くわしたら絶対避けるだろう。

しかし、こんなやつは他でもない俺だ。泣いているのは俺だ。


「うえええええええええ」

猫?「……」


それが近づいてくる。


猫?「……」


 そっと、俺の横に座る。ような、泣きすぎて前がよく見えない。

でも、暖かい。肌から直接温もりが伝わってくる。

心地いい。気持ちいい。体だけでなく心まで温まるような……


「ヒッグ……ヒッグ……」

猫?「泣き止んだか?」

「あ、ああさっきよりか落ち着いたよ。・・・ありがとう」

猫?「なにがだ?」

「いや、俺に寄り添ってくれたことだよ。俺だけじゃ泣き止むことは出来なかった・・・と、思う」

猫?「ふふっ」


 それは笑う。いや、笑った顔など猫というか人間以外の動物じゃ判断できないはずだが、俺には笑っているように見えた。


猫?「それでいいんだ」

猫?「もっと自分の思ったことを正直に、混ぜずに話してごらん?今の君の話はとても素直だったよ」

「はあ」


 なんだこいつ、いきなり語りだした。

しかし、その思いよりも俺に当てはまるというか、図星というかそれが言うことの方が気になった。


「なあ、最初から気になってたんだが。」

猫?「なんだい?」

「お前は一体何なんだ?」

猫「私は・・・にゃんこだよ」


ビュウっと風が吹く。

目の前のそれは猫耳がついた女の子になった。




「じゃじゃーん」

「」


 目が飛び出るとはまさにこのことかなと思う。

今までいた猫風のそれは人になった。

よく分からない。が、先ほど助けてもらった?こともあるしこのよく分からない現象になんだか適応してきてる。


「可愛いな」

「そう、それ、それだよ。それでいいんだよ。」

「すげーかわいい」

「うん、うん」

「可愛いしか言ってないけど、ほんと可愛い。」

「うん。だってその通りだもん。」

「それに!思ったことはそのまま言わないと。何も言わなかったら相手は何もわからないよ?」

「うん」

「それとも、私が女の子に変身したから素直になったのかなー?」

「それもあるかも」

「はは、現金なやつめ。」


 クスっと笑う。

その動作が愛おしかった。


「突然だけど、ここでお別れだ」

「えっ」

「いやだ」

「まだ一緒にいたい」

「そう言ってくれる気持ちはうれしいけど、もう一緒にいることは出来ない」

「なんで?」

「だって、君はもう一人でも歩けるから」

「歩けない!」

「そこは素直になられても困るなー。でも、駄々こねるのはちょっとカワイイかも」


 そんなことを言い、にゃんこが俺の頭を撫でてきた。

温かいし、柔らかい手の感触が伝わってきた。気持ちいいが、なんかいいようにやられてるのがむかついてきた。


ぷにっ


俺を撫でるために近いづいてきたにゃんこの顔のほっぺをつねってやった。


「いひゃひゃ、にゃにしゅんだよー」

「だって頭撫でてきたし、やられっぱなしもあれかなーと」

「だからって、ほっへひっはらにゃくてもいいでひょー」


 それもそうだと思い手を放す。


「いたたた、でも素直に放すところもやきもち妬いてるのも君の素敵なところなんだよ」

「そうなの?」

「そうだよ」

「だから、そういう気持ちを忘れないでほしい」

「忘れたらどうする?」

「また私が出てくる!」

「そんだったらまた忘れようかな」

「そんなこと言っちゃダーメ。大体、さっき泣いてたでしょ」

「うっ」

「大の男が声出しながら泣いてさ。私間近で聞いてたんだからね」

「うっで、でも、寄り添ってくれたし、泣き止んだし、あ、あれ?」

「ふふ、混乱してる?でもいーの、それが君の素直な気持ち」

「もう、大丈夫でしょ?私がいなくても」

「うーん、君は可愛いしそういう意味では一緒にいたいけど、君がそう言うなら俺は君の言うことの想いを尊重するよ」

「ありがとう。やっぱり私、出てきてよかったな」

「ん?」

「いや、私の話。ささ、立って立って。これからは君の足で歩くの。」

「うん」

「これまでもこれからもだけどね」

「うん?」

「だって私は今までいなかったでしょ」

「確かに、でも、これから会う可能性はあるのでは?」

「まだ分からないのかな、うーん、でもいいか。私別に君のこと嫌いじゃないし」

「ほんと?」

「ほんとほんと」

「嬉しい」


 素直に言葉が出る。

自分の気持ちをそのまま伝えるとはなんと気持ちがいいことだろうか。


「うん、それでいいの」


 このにゃんこもよく分からない存在だが、俺に寄り添い、話を聞いてくれた。

今ではとても感謝している。そしてその感謝してる存在が俺に期待しているのだ。

立って歩くということを。


「よし、立とう。立つぞ。」

「おお。でも、あんまり気張らないでね」

「うん」

「疲れたらいつでも休んでいいからね」

「うん」


 例え動機が可愛い女の子に励まされたからでも、いいじゃないか。

だってそれが、俺が一番やりたいことだもの。

スクッ

俺は、立った。




ザワザワ……ザワザワ……

ここは……どこ?


おっさん「おい」

男「!」

おっさん「邪魔」

男「あ、す、すみません」


 すっと俺の横を通る。

太陽はまだ上り始めたばかり、人がたくさんいる道だ。

スーツを着ている人が多く歩く足は速い。

俺「にゃんこは……」


 呟き、辺りを見回す。

足早に歩く人は入れど猫耳をつけた女の子はどこにもいない。


俺「そう……か」


 何か分かった気がした。ほんとは何も分かってないかも。

でも


男「俺は俺でいいんだ、俺で」


 そう言い、俺は歩き出す。

明日に向かって。










いかがでしょうか

これを読んで少しでも何か感じられたら、それを大切に扱ってください。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ