盗難車の末路9
その後も検察官の執拗な質問が続いた。
傍聴席からは、舌うちをする人もいて私の心を乱し始める。
そんな中、検察官が参考人をと言いだした。
検察側の参考人、それは思いもしない人物。
傍聴席の最列に座る、佳苗だった。
なぜ、なぜ佳苗が?
少しだけあった余裕が無くなった瞬間だった。
背中からは汗がたらりと伝うのを感じ、手も汗ばんできた。
弁護士ではなく検察官の参考人?
突然膝の力も抜けて、全身の血の気が引いたようだった。
意識が遠くなりそうな私に、まるで遠くから聞こえるようなエコーのかかった佳苗の声が私の頭にこだました。
「はい、確かに田所さんから聞きました。あの日美晴に会った事を」
何を言っているの佳苗。私は康子になんか会っていない。
立ち上がって、そう反論したいのに全身が脈を打っているように身体がいう事を聞かない。
膝に力がはいらなければ、声さえ上げる事も出来ない私がいた。
誰の声も耳に入る事は無くなっていた。
「立ちなさい」
そんな声と共に身体を揺すられている事に気がついた。
両腕を抱えられ、証言台にやっとの思いで立った私に検察官のいやらしい声が浴びせられる。
「どうです、石沢佳苗さんの証言を聞いて間違いはありませんか?」
間違いって、間違いしかないわよ。
だって私、康子に会っていないのだから。
「私は、康子に、田所さんに会っていません」
か細い声しか出なかった。そんな私に検察官は
「随分と動揺されているようですね」
人の感情をここまで逆なでられる声があるなんて。
私はどうしたらいいのか、解らずというか何が起きたのか全く分からなかった。
途端に胸が苦しくなり、右手で服をわし掴みにした。
段々と呼吸も苦しくなってきてとうとう膝をついてしまった。
山中さんが私の背中に手を当てて裁判官に声を掛けてくれた。
暫しの間の後
「30分間の休廷をします」
という裁判長の声が法廷に響き渡った。
「大丈夫かい? 美晴ちゃん」
どこまでも優しい声だった。