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盗難車の末路8

裁判が始まるまでの間も取り調べは続けられた。

この時は既に接見禁止が出され、面会出来るのは山中弁護士ただ一人だった。


田舎から出て来てからは、一人でいる事を好むようになった。

無論、こちらでできた友人もいるのだが、地元の友人達のようにいつも一緒にいるような関係ではなかった。

彼にしてもそうだった。

束縛を好まない私は相手に対しても一歩置いた関係が多く、よく周りからは

「寂しくないの?」

と聞かれたものだ。

一人でも大丈夫。

それは、間違いだと言う事に気がついたのはここに来てから。


不安に押しつぶされそうで、誰一人として私を理解してくれないこの閉鎖された中にいると人恋しくなる。


父に会いたい

母に会いたい

私に大丈夫だからと笑いかけてくれる人に会いたい


そればかり考えていた。


時は過ぎとうとう裁判の日になった


緊張で昨晩は寝れなかった。

私の運命がこれで決まるのだ。


法廷に一歩踏み入れる。

驚いたのは人人人。

空いている席は無いようだった。


そして、突き刺すような視線だった。

一番前の席には佳苗がいた。

参考人として呼ばれたのであろう。

私は目を合わせる事は出来なかった。


名前を言い、生年月日を言い裁判官の質問に次々と答えていった。

そして公判が始まった。


検察官からの質問にも、正直に答えていった。

そこで、1つ驚きの質問があった。


「貴方はゴールデンウィークに実家へ行きましたね。」


「はい」


「それは、何月何日ですか?」


「四月二十九日です。」


「その日ですが、誰か知っている人に会いましたか?」


「はい、両親に。」


「その他の人は?」


他の人と言われ考えてみる。

誰かに会っただろうか?

あっ


「コンビニのおじさんに会いました。」


「そうですね。加山宗助さんですね。その他には?」


考えてみるも思い当たる人はいない


「車が盗まれてしまったので、警察の方は呼びましたけれど他の知り合いにはあってはいません。」


すると検察官が


「おかしいですね。こちらの調べではその日、田所康子さんに会っているはずなんですが。」


検察官の声に耳を疑った。

康子に会ってるって?


「会っていません。」

私は言い切った。


「そうですか、おかしいですね。彼女は貴方とコンビニで会ったことをある友人に話をしています。洋服まで克明に覚えていましてね。これは貴方のご両親、ならびに狭山さんにも確認をとりました。会ってもいない人の洋服をこれほどまでに当てられることはあるのでしょうか?

貴方はコンビニで田所さんと落ち合い、共謀して盗難車に見せる偽造をしたのではないですか?」


康子と共謀して盗難車に見せる偽装?どうしたらこんな発想が出てくるのか、思いもしない発言に戸惑ってしまった。


「異議あり、検察官は推測の話で被告人を動揺させています。」


「異議を認めましょう。検察官は推測で物事を進めないように。」


「解りました。では質問を変えましょう。貴方が田所さんに最後に会ったのはいつですか?」


康子に会ったのはいつだろうか?

高校は別だった。

はっきり言って覚えていなかった。町で会ったとしても話す事など無かったのだから。


「覚えていませんが、卒業した後は話をした事もないと思います。」

本来だったら在学中だって話をしなかったのだが


「もうひとつ、これは貴方にとったら辛い質問かもしれませんが、貴方は中学の時、田所さんに2年間近く苛められていたと言うのは本当ですか?」


「はい、本当です。」


「それを今まで根に持っていたのではないですか?」


さっきは共謀といい、今度は……一つ呼吸をし

「いいえ、考えた事は有りません。もう忘れたい過去ですから。」

きっぱりと答えた。


「ほーそれでは、忘れられ無いほど嫌な思いをされたと。」


どうしてこう揚げ足をとるような事をいうのだろう。


「確かに苛めは受けましたが、私には友人がいましたから、大丈夫でした。彼女にはもうどうこうするきも全くありませんでしたから。ただ会いたくなかっただけですから」


あれだけ緊張していたのに、意外に受け答えの出来る自分に驚いた。

それは、自分はやっていないという事実があったからだ。

この裁判さえ終われば家に帰れる。

そう思っていたからだと自分自身に納得をした。



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