盗難車の末路7
その後彼と弁護士の間で話し合ったのだろうか。
やっと彼が口を開いたようだ。
私が元カノだと言ったようだった。
無論私は別れ話をした覚えは全くないのだが。
私に懇願されて手切れ金がわりに、もう一切会わない条件で車を捜してやった。
と言い始めたらしい。
なんて男と付き合っていたのか。
やはりあの時別れていれば。
何度考えてもそこに辿りつく。
自分の決断力のなさ故なのだが。
そんなある日私に面会があった。
海外にいるはずの兄貴だった。
「兄貴。」
そう呟くともう枯れてしまったかと思った涙が知らぬうちに溢れてきた。
「兄さんに話してくれるな。」
優しい顔で微笑んでくれた。
ここへ来て初めてみた人の笑顔だった。
私は言葉足らずにならように注意しながら、何度も何度も話した話を兄貴に話した。
兄貴は
「そうだよな、兄さんは解っているから。それに父さんも母さんも。」
そして、少し押し黙った後に
「ただな、母さんが随分落ち込んでいてな。暫く俺の所へ連れて行こうと思っている。」
そう言った。
今や私は殺人事件の容疑者となっている身。
父さんや母さんへの中傷は如何なるものなのだろう。
ここで初めて自分以外の人の心配をした。
なんて親不孝な子なんだろう。
また涙が溢れてきた。
あっという間に面会時間が終わってしまった。
最後に兄貴は絶対諦めちゃだめだぞ。
皆がついてるから。
そう言って帰って行った。
そして、数日後今度は父さんが面会に来てくれた。
「美晴。」
そう言ったきり何も言わずにただただ涙を流す父。
会ったのはそんなに前じゃないのに父さんは一回りも二回りも小さくなってしまったように見えた。
「ごめんね、ごめんね。でも信じて。私何もやっていないから。」
其処までいうのが精一杯で兄貴の時同様溢れる涙を抑えることは出来なかった。
父さんは、保釈金を用意するとまで言ってくれた。
年金暮らしでつつましく暮らしていた父達にいくらだかは解らないがそんなお金まで出させるわけにいかない。
「大丈夫だよ、父さん。私だってやってないだもん。直ぐに出れるよ、日本の警察は優秀なんだから。」
自分に言い聞かせるように言い切った。
「でもな。でも、」
話を続ける父さんを遮った。
「私負けたくないから。康子を殺めてのさばってる奴がいるんだよ。私はやっていない。だから大丈夫だよ。」
ここに来て初めて微笑んだ。
父さん私、信じてもらえるように頑張るから。
そう思って。
後で聞いたのだが、この時は既に実家は売りに出されていて、買う人が現れるのを待つだけだったらしい。
しかし殺人事件の容疑者の家、誰一人として、名乗りを上げた人はいなかったそうだ。
そして、長い拘束期間も終わり、証拠不十分で不起訴になると信じて疑わなかった私に告げられた言葉は
「殺人容疑で起訴される」といったものだった。
私は被疑者から被告人になってしまった。
目の前が真っ暗になった。
追い討ちを掛けるように会社からの解雇通達もその頃同時に送られてきた。
これまでにない不安が一気にやってきた。
どうして?どうしてなの?
自答してみるも答えは出ない。
そうして、私の裁判の日程が決まった。
これから始まる長い長い戦いの幕開けだった。