盗難車の末路5
そこはドラマで見るような机と椅子以外何もない部屋だった。
私は取り調べを受けている。
実際、車をぶつけてしまったのは確かなのだが、肝心の被害者はとうとう現れなかった。
当たり前だろう、死体を運んでいたのだから。
事実は小説よりも奇なりとは言ったものである。
「すると貴方は相田さん名義の車に乗って、自分名義の車に偶然衝突して、その自分名義の車にここから50キロ以上離れた中学の同級生がたまたま死体として遺棄されていたのですね」
警察の人が冷めた口調で私に確認をとる。
「はい。その通りです。」
フッと鼻で笑われた?
きっと私だってこの話が他人の話だったらその人が犯人だって思うと思う。
それ程条件は揃っていた。
康子、田所康子は小、中の同級生だった。
しかもそれだけではない、私は彼女に苛められていた。
切欠は些細な事だった。
中学の頃の康子の思い人が私を好きだったからだ。
執拗に私の中傷を続けた康子。
私よりも遥に容姿に自信のある康子はプライドが許せなかったのだろう。
仲間を巻き込んでのいじめは2年間も続いたのだった。
でも、その頃は早紀たちが一緒にいてくれたので対したダメージは受けなかったのだが、私が彼女に苛められていたと言う事は同郷の人たちは皆知っている。
この上なく私に不利な事実だった。
そして、刑事の更なる一言が私に決定的なダメージを与えた。
「先ほど、貴方の言う彼に会ってきたのですが、彼の婚約者と言う人がいましてね。貴方の事は困っている、一種のストーカーではないかというのですが。」
私がストーカー?彼の婚約者?私には寝耳に水の話。
突然強い頭痛が襲いかかってきた。
追い討ちを掛けるように刑事の口からでた言葉は
「早く本当の事を言って楽になりなさい。」だった。
最初から嘘は何1つ、ついていない。
何がどうなっているのか私には理解が出来なかった。
始めのうちは車をぶつけてしまったのは私だが、逃げる訳でもなく自分で通報した位だ。
ぶつけてしまった車が私のものであったとしても私は盗難届けを出しているのだし、直ぐに帰れる、そう思っていたのだが全く違った方向へと話は進んでいる。
警察は私に共犯者がいると思っているらしい、おまけにストーカー疑惑だ。
車を譲ってくれた相田先輩とやらは実は結婚したばかりで海外へ新婚旅行へいっているとの事。
それにその相田さんと私は面識がない。
何より一番頼りにしていた彼には婚約者。
ここに来るまでは、今日の夕飯何食べようなどと呑気なことを考えていた自分が懐かしくもあった。
一体私はどうなるのだろう。
あんなに行きたくなかった会社の心配をしている自分にも気がついた。
また母さん呆れた顔してるだろうな。
この時はまだこんな余裕もあったのだった。
取調べは一日中続いた。
同じ事の繰り返し、何度説明しても話は堂々巡りだった。
悔しくて悔しくて取調べの最中もずっと泣き通しだった。
そうして、私は逮捕されてしまった。
車の名義といい、康子の件といい偶然とはすまされないという
そして、検察庁へと身柄を送られ検察官との接見が始まった。