盗難車の末路10
私は刑務官に両脇を抱えられ、山中弁護士と共に、小さな部屋に入れられた。
壁際にある椅子に腰かけさせてもらうと、少しだけ動悸がおさまったような気がした。
「大丈夫かい?」
「先生ー」
私と山中弁護士の声が重なった。
「私、私本当にあの日――」
そう言いかけた私に
「大丈夫だよ、分かっているから」
と山中弁護士は背中をさすってくれた。
その優しい声に涙がにじんだ。
でも泣いてはいけないと必死で堪えて天井を仰ぐ。
きっと今この涙が零れたら私は壊れてしまうかもしれない。
父と母の顔を思い浮かべて、しっかりしなくてはと何度も自分に言い聞かせた。
「私はやっていない」
「私はやましい事は何もしていない」
私の言葉に
「分かっているから」
と山中弁護士は背中をさすり続けてくれた。
少し落ち着いた私は、最初の一言に衝撃を受けて、それ以降の佳苗の証言が耳に入っていない事を山中弁護士に告げた。
山中弁護士はゆっくりと聞かせてくれた。
地元で結婚した佳苗は、待ちを出て行った同級生とはたまにしか会わなかったのだが、一番頻繁に地元に帰ってくる康子に数年前から偶然会うようになった事。以前のわだかまりが消えて、連絡を取り合うようになり、康子が地元に帰る時にはお茶をする仲になっていた事を告げられた。そんな話は初耳だった。今まで一度だってそんな話……
「きっと、以前の美晴さんとの関係を知っているだけに話辛かったんだろう」
と山中弁護士はそういった。
それにしたって……
「そう、あの日、美晴さんが地元に帰省した日も田所さんから電話があって、近くの喫茶店でお茶を飲んだそうだ。『さっきね、コンビニの前で美晴に会ったのよ』そういって美晴さんの話を佳苗さんに聞かせたらしい。悪口とは違って、美晴さんの服装を見て高そうな服だったとか、都会の女って感じでカッコ良くなったよねとそんな話をしたそうだよ」
嘘、私は康子になんか会っていない。
あのコンビニだって誰もいなかった。
もう何が何だか分からない事だらけだった。
頭を抱えて沈み込む私に
「大丈夫だよ、真実は一つだから」
山中弁護士はそう言ってくれた。
大丈夫だよ
それは山中弁護士の口癖なのだろう。だけどその言葉でどれ程私が救われているか分からない。
「頑張ります」
そういって私は顔をあげた。