夏の風物詩
久しぶりのお茶会をやり、燐はセイラとアリアに今後の予定について聞いてみた。アリアはともかく、セイラはメリス不在の為帰るのではと考えたからだ。
ところがセイラも泊まっていくという事なので、キャロルも喜んでいるし燐は何も言わずにおいた。丁度聞きたいことも山ほどあるし、燐としても城に行く手間が省けたというものだ。
「アリア。一緒にお風呂にいかない?久しぶりに、ここのお風呂に浸かりたいわ」
「セイラ様がそういうのでしたら、私はどこへでも」
セイラとアリアが仲良く脱衣所の中へと消えていく。その後をキャロルが追いかけていったので、残された燐は後片付けでもしようと台所に立った。
積もる話もあるだろうし、燐は邪魔をしないようにするつもりである。片づけを終えた燐は、まだまだ上がってくる様子のない3人の事を考えながら何をしようかと考えていた。
予定が決まっていないので、ぐーたらと机に伏せていた時に燐は先日の事を思い出し作業の準備を進める。それは水着の製作をしようと考えていたことだ。
さすがに化学繊維であるポリエステルやナイロンは無いので、燐の考える水着は作れないのが残念である。それでも作れない訳ではないので、いろいろと試行錯誤していたが皮製品が一番それっぽくは見えた。
「ん~……なんかの部族みたいだなぁ~」
確かに見た目だけは立派な水着である。燐の固有魔法のお陰で、だいぶ好き勝手に出来るが結局は皮は皮だ。
燐は一先ず製作を中止すると、他に何かつくれないかと考えた。夏といえば水着の他に浴衣なんかも作ってみても面白いではないだろうかと燐は思う。
あまりに専門的な知識ならともかく、浴衣くらいなら男性用だろうが女性用だろうが作りは理解している。それに細部が少々違っていても、着物文化の存在しない世界だし問題ないだろうとも考えていた。
「よっし!!浴衣を作るか!!」
燐はまず宝物庫から様々な生地をとりだし、どれにしようか悩む。
「キャロルはピンクがいいかなぁ……でも、白も捨てがたい。アリアさんは青中心のパステルカラーの生地にして……セイラは赤?」
その他にもエルディアだったら、黒が映えそうだとか考えていると脱衣所の方から声が聞こえてくる。燐は丁度いいので、お風呂から上がったら好きな物を選んでもらおうと考えた。
待っている間燐は、もっと艶やかな柄があればいいのにと考えている。さすがに燐の固有魔法でも、あんな物を再現できるほど美意識は高くない。
いろいろと案を考えていると、燐の目の前に風呂上りで頬を蒸気させた3人が戻ってくる。
「早かったね」
「はい。あんまり燐さんを待たせるのもどうかと思いまして。ところで……この大量の布生地は?」
「あぁ、これね。みんなに1つ好きな柄を選んで貰おうと思ってさ」
「何か作ってくださるんですか?」
燐はこれから作る着物というものの説明を簡単にし、みんなにプレゼントしようと思っている事を告げた。それならばと3人はそれぞれ違う柄の物を選び、燐はそれを聞き製作に取り掛かった。
作り自体はそんなに難しくないとはいえ、3人の体格に合わせるにはどうすればいいかとかがわからない。サイズを図った上で、どのように調整していけばいいのかは裁縫スキルがものをいう。
燐はまず自分用の浴衣を簡単に作って合わせてみることにした。燐は型を頭の中で正確に思い描くと、それを元に目の前の生地を加工していく。
「あれ?案外簡単じゃないか?普通の服を作るより簡単かも……」
燐は手ごたえを感じ、さくっと完成まで一気に仕立ててしまう。見た目は黒を基調とした中に同系色を使った手の込んだ細工をしてある。
「お兄ちゃんかっこいい!!」
「お?キャロルもそう思うか?」
「うん!!すっごく似合ってる!!」
キャロルは素直に褒めてくれるが、セイラとアリアは何も言ってくれない。言ってくれないというか、初めてみる着物に興味深々といった雰囲気である。
やはりどこの世界でも着物は女性の目を引くのか、燐の浴衣を見てはやくと急かしてきた。急かされても一遍には作る事は出来ないので、相談した結果キャロル・アリア・セイラの順で仕立てる流れで落ち着く。
「えーっと、キャロルが選んだのは……これだな!!」
燐は広げてある様々な生地の中から白とピンクを基調とした、たたき染めの生地を手に取った。派手ではないが、落ち着いた優しい感じのする柄である。
それを燐は細部まで細かく型決めしていく。型と製作イメージさえ出来てしまえば、どんなものでも作れてしまうのが燐の魔法の利点である。
但しそんな魔法の使い方が出来るのは燐くらいものでもあるが。
「よっし出来た!!あとは半幅帯がいいかなぁ……キャロル、帯はこれでいいか?」
「それがいい!!」
「オッケー。それじゃぁ、これで完成だからもう少しだけ待っててくれよ」
そう言うと燐は、少し濃い赤紫色の生地を手に取り加工していく。時間にして一瞬の出来事で、先程まで一枚の長い生地だったものが400×15cmの綺麗な1本の帯へと姿を変えた。
これでキャロルの浴衣は完成したので、本人に手渡すと頭に花でも咲いたのかと思えるくらいふわふわとした表情を浮かべている。
「お兄ちゃんありがとう!!次はお母さんのだね!!」
「そうだな。次はアリアさんの番ですよ」
「はい!!お願いします!!」
そんなアリアが選んだものは、白を基調とした中に藍色の花が散りばめられ、それを包み込むように曲線を織り交ぜたようなデザインの物だ。本当ならばドレスにしてもいいくらい上質なもので、手触りもすごくいい。
ただ文化の違いからか、派手さにかけるということで余っていた物をメリスにもらっていたのだ。燐としても、まさか浴衣を作る事になるとは思いもしなかった事ではあるが。
そんな事を考えながらも燐は、キャロルの時のように正確にイメージを膨らませ仕立てていく。イメージさえ出来てしまえばやることは一緒なので、つつがなくアリアの分も完成させた。
完成したアリアの帯はキャロルと合わせて、薄ピンク色の物で作っておく。
「これでアリアさんの分も出来ましたよ。どうぞ」
「わー……。作ってもらって何ですが、本当にいただいていいんでしょうか?」
「アリアさんの為にアリアさんのサイズで作ったんだから、返すって言われたら俺が困りますよ」
「そ、そうですよね!!ありがとうございます!!」
アリアも遠慮はしているが、目線は既に浴衣に釘付けだ。あと残すはセイラの分だが、待っている間が楽しみすぎて目移りし始めている。
「どれにするんだ?」
「ちょっと!もうちょっとだけ待って!!う~ん……赤もかわいいし……でも黒いのも……花柄っていうのもありよね!!」
「……」
セイラが乙女回路全開ではしゃぎまわる様は見ているこっちまで照れてしまいそうな程の浮かれっぷりである。
そんな暴走気味のセイラがやっと決めたのは、黄色の生地に妖精の刺繍がされている一風変わったものだった。
「へー、こんなものもあったんだ。面白いものを見つけたな」
「でしょでしょ!!さぁ早く作ってよ、燐!!」
「わかったから少し落ち着けって。ちゃんと作ってやるから……」
セイラの期待の眼差しを尻目に燐は製作に取り掛かる。型を正確にイメージし、先程の生地に触れると生地の柄が燐の頭の中に浮かんできた。
セイラの選んだ物は刺繍がしてあったので、それが綺麗に見えるように調整しつつ燐は魔法を発動させる。するとあっという間にセイラの分も出来上がってしまう。
あとはセイラにも帯を選んでやらないといけないので、燐は柿色をした物を手に取り帯を作り上げた。
「よっし!!これで全員分、完成だな!!」
「やっぱりかわいい。気に入ったわ!!さぁ、みんなで着ましょう!!燐、着方を教えなさい!!」
「わかったわかった。一番に着付けてやるから、そんなに興奮するなって……」
燐ははしゃぎ回っているセイラを捕まえて、見様見真似で着付けを始める。浴衣は魔法でなんとかなったが、着付けとなると知識だけではどうしようもない。
それでもなんとか3人分の着付けを四苦八苦しながらもやり遂げる。若干汗が滲んでしまったが、燐としても納得のいくものに仕上がったと思う。
キャロル・アリア・セイラは燐に向き直ると、感謝の気持ちを伝えた。
「「「せーのっ、ありがとう!!」」」
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
おはようございます。
今回、浴衣を作りましたがどうでしたでしょうか?
皆さんのイメージとは違うかもしれませんが、
私としては、みんなの浴衣姿が書けてよかったです。
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




