お茶会
燐は全てを経緯を理解した。メリスはメリスでずっと悩んでいたのかもしれない。そして、ずっと何かをするチャンスを探していたのだろう。
そんなメリスの悩みに気付けず、今回のような結果となった事を燐は少し寂しいものを感じていた。しかし、時間があったとしても燐が問いただしたとしても、メリスはこの事を告げなかっただろう。
なぜなら、そんな事を言えば燐が止めていたに違いないからだ。寿命が果てしなく長く死ぬことはないといっても、この時この瞬間メリスはいない。
メリスは遠い未来で目覚めたとき、燐やキャロルがこの世にいない世界を見てどう思うのだろう。それが正しい選択だったのだと誰が言えるだろうか。
それでも燐が確かに感じている事は、メリスへの感謝の気持ちだけだった。
「ありがとう、メリス。俺はここにいるみんなに誓う。メリスがくれた大切な時間を俺達は精一杯に生きる。もう一度話せる時がやってきた時は、改めてお礼を言わせてくれ」
「……」
誰かに向かって言ったわけではない燐の誓いに、誰も口は挟まず皆は静かに見守っている。今はただ、そうする事しかできなかった。
燐の誓いの余韻が皆の心を通り抜けると、ずっとそわそわとしていたキャロルが立ち上がる。そして、しっかりとした足取りでアリアの元へと歩み寄った。
キャロルは真っ直ぐにアリアの目を見つめ、先程の話が本当なのかの確信を探している。目の前にいる少女はキャロルより一回りお姉さんで、見た目は完全にアリアそのものだ。
それでも急に生まれ変わりだと言われても、素直に喜ぶべきかどうか分からずにいた。嬉しい気持ちや悲しい気持ちが入り混じって、落ち着いてみえるがキャロルの心中はぐちゃぐちゃだった。
それでもキャロルは確信が欲しくて、言葉を紡いでいく。
「本当にお母さんなの?」
「そうよ、キャロル。姿は変わってしまったけれど、あなたは私の娘よ」
「帰ってきたんだね……お母さん。うぅ……ひっくっ……」
「ごめんね。あの時は、こんな姿で戻ってこれるなんて思っていなかったの。私はダメなお母さんね。キャロルに何度も何度も悲しい顔ばかりさせて。今回の事で一番弱かったのは……私だったわ」
結果としてアリアは生き返り、キャロルも無事である。しかし、大勢のシャークリアの民は戦争で死んだ。だから、同じ様な悲しみを抱えている者も少なからずいることだろう。
燐達だって大切な人を失った。一緒に戦ってくれた兵の皆、いざって時には頼りになったロンド、そしていつも遠くから見守っていてくれたメリス。
他にもアリアの支えになった昔の友は奴隷にされ死んでいったし、キャロルだって何度も何度もいばらの道を血を流しなら歩いて、やっとここまで辿り着いたのだ。
「俺の世界には、結果良ければ全て良しなんて言葉もあるけど……そんな簡単な言葉じゃないんだよな……」
「燐?」
「セイラもそう思わないか?結果がどうであれ胸を張って歩いていけるのは、凄いことだと思う。でもそれは自分が頑張ったから得られた結果であって、それは偶然なんかじゃない……必然なんだよ。だからこそ、そういった言葉があるんだと俺は思う」
燐はこの言葉の本当の意味はそういう所ではないかと思っている。結果をただただ受け入れるのではなく、自分自身で何かしなければ最善の結果を訪れない。
どんなに悲しい現実でも、乗り越えて頑張ったからこそ幸せな事も見えてくる。今回の事だって、結果として見ればキャロルは元気でいるしアリアも帰ってきた。それに戦争だって勝利を収めている。ただそれは、みんなが頑張った結果なのだ。
もしもこれ以上の事を望み叶う戦争があるとすれば、それは間違いなく紙の上で繰り広げられる絵本くらいのものだろう。
「あのさ、セイラ……」
「なに?」
「さっきは……怒鳴ったりして……ごめん」
「別に気にしていないわ。燐だったらキャロルの為に怒るかなーって思ってたし」
「そう言われると照れくさいな……」
単純に照れくさいという事もあるが、全てセイラの思い描いた通りだった事がさらに燐の顔を赤らめさせた。
そして余計な事も考えてしまう。この数日の出来事もセイラの企てではないのかという疑念だ。家に帰らせたのも今回の事を隠す為の口実だったのではないかと燐は思ってしまう。
勿論セイラもキャロルの事を心配していたのは事実だし、丁度いいタイミングだったのかもしれない。
「もしかしてセイラって、ただのツンデレさんじゃない?」
「ツンデレが何かを知らないけど、絶対バカにしてるでしょ?」
「何をおっしゃりますか。俺が人の悪口なんて言うわけないじゃないですかーーー」
燐が棒読み気味にそういうと、セイラの鋭い蹴りが繰り出された。あいかわらずの息の揃ったコントが、親子の再会という感動的なシーンで繰り広げられる。
そんな二人の様子を、いつのまにかキャロルとアリアが見つめていた。4人の視線が自然に交差すると、互いに見つめあい大いに笑いあう。
燐もセイラもキャロルもアリアも何がおかしいのか、いつまでもいつまでも笑いあった。
「あははははは。さて、みんな!!お茶会でもしようか?実はお菓子をいっぱい作ったんだ」
「お茶会かー。うん!!久しぶりにいいんじゃない?外にいきましょ」
燐とセイラがてきぱきと話を纏め、4人は庭でお茶会をする為に移動する。何も変わらない階段を上っては下り、月光樹の広間を過ぎ外へと出た。
そこには綺麗に手入れされた自慢の庭が広がり、テーブルセットが広い庭のアクセントとなっている。さらに、綺麗に刈り揃えられた芝生にはセイラの似顔絵がきちんと残っていた。
「ななな、なんで私の顔が描いてあるのよ!?」
「いいじゃないか、別に」
「私がお兄ちゃんに描いてもらったの!!」
「あらあら、可愛らしいじゃないですか」
燐の力作にそれぞれが感想を口にする。セイラにとっては青天の霹靂と言った感じだったのだろう、楽しいお茶会がセイラをいじる格好の場へと変貌を遂げた。
しかし、そんな事もあっという間に慣れてしまい、お茶会はつつがなく開催される。
テーブルの上には、ケーキやクッキー・ドーナツが並べられ、セイラとアリアはわくわくとお茶が注がれるのを持っていた。
全員に温かいお茶が注がれたカップが手渡され、燐が「どうぞ」という掛け声と共に、お菓子に手が伸びる。
「これおいしいわね!!バターの風味がきいていて、凄くサクサクしているわ!!」
「セイラ様。セイラ様。こちらも食べてみてください。ふわふわでしっとりしていてとてもおいしいですわ」
セイラとアリアが一つづつ味を確かめながらお菓子をつまみ、お茶を飲み干す。空になったカップにお茶を注ぐ燐と、キャロルはキャロルで自分で作ったお菓子を2人に説明していた。
そんな楽しいお茶会もお腹が膨れるにつれ、終わりが近づいてくる。4人はそれぞれ食べられる量だけいくつか手に取り、それを食べきるとお茶会は終わりとなるだろう。
まるで、いままであった辛い出来事は泡沫の夢で、長い長い悪夢を見ていたのかと思ってしまう程に。
「夢じゃないんだよな……」
燐は一人静かに呟き、姿が少しだけ変わったアリアを見つめる。それに気づいたアリアは生まれ変わる前と変わらない笑みを返してくれたので、燐も笑顔で返す。
また新しい生活が、ここから始まるのだ。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
おはようございます。
メインテーマではないんですが、お茶会という事で書かせていただきました。
少し早足というか、ぐだぐだ感がでていたら申し訳ないです・・・。
もしかしたら改稿するかもしれませんが
楽しんでいただけたらなら幸いです。
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




