復讐の意味
燐達がルガンダンのゼルダン家に到着し、マルタは逃げた後だったがオルディネが話を聞いてくれるという時、物陰から小さな影が飛び出した。
「いやぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
高らかに声を荒げ手に持ったナイフを構えた少年か少女かが、オルディネに一直線に向かう。耳の形からするとエルフのように見える子供が、殺意をこめたナイフをまっすぐオルディネの腹部を狙って突進した。
勿論、聖騎士と言われるような人物がふいを突かれたといっても、この程度いなせないわけない。軽く半身になり、手甲でナイフを滑らせたオルディネは襲ってきた子供を地面に叩き伏せさせた。
「ぐっ……!! 放せよ!!」
「あなたは何者ですか? なぜこのような愚行を……」
「ボクはあんたが殺した……キャナライ村の生き残りだ!!」
「あの村にまだ生き残りが……」
キャナライ村。それは祖国を離れたエルフが集まり村となった集落であり、そのような村や町は星の数ほど存在する。基本は自然と共に生きるエルフ族は、戦いを好まず友好的だ。但し、仲間が傷つけられた時はその限りではない。
今オルディネに押さえつけられているエルフの子供は復讐しに来た事は明白だった。村を襲った理由、それはディランの命令で魔力の心臓を大量に手に入れるために他ならない。その時の犠牲者の生き残りがオルディネに取り押さえられているエルフの子なのだ。
そんな復讐心に燃えるエルフの子は殺意に満ちた目でオルディネを睨みつけている。オルディネは押さえつけていたエルフの子を解放すると、取り落としたナイフを手渡した。
「私がやった事は間違っている。だから私は責任を取らなければならない。君が私を殺したいと願うなら、この命は君にあげよう。その代わり、他の関係ない者達には手をださないで欲しい……」
「勝手な事をいうな!! ボクはお前達、ゼルダン家のやつらをみんな殺すんだ!! ボクの兄弟を殺し、両親を連れ去ったお前らをボクは絶対に許さない!!」
エルフの子に渡されたナイフが再度オルディネに向けられる。そのナイフを返し、振りかぶりオルディネへと振り下ろされた凶器を燐が止めた。
「なっ!? は、はなせよ!! お前には関係ないだろ!!」
「あぁ、俺には関係ない。けどな、そんな涙を流しながらする復讐なんて悲しいだけだぞ?」
「うるさいうるさい!! じゃぁボクはどうすればいいっていうんだよ!! もう、ボクにはこれしか出来る事がないんだ……」
復讐心を宿したのは、ほかに出来る事がなかったから。悲しみに満ちた心が壊れないようにそうするしかなかった。だけどその子は真実にも辿り着いていたのだ。
これまで命令を受けるまま、どんなことでも遂行をしていたオルディネ。実際に手を下すことは少なかったにしろ、総隊長であった事は揺るがない事実だ。けれど、オルディネは魔力の心臓を製造する為に犠牲になった者達を全て、暮らしていた村付近に埋葬していた。
それに数日に1回は必ず花を持って、墓参りに行っていたのだ。そんなオルディネの行動を復讐心でここまでやってきたエルフの子は全て見てきてもいた。本当は心が締め付けられていたオルディネは、必ず墓前に花を供えた後は涙を流し、懺悔を繰り返していたのだ。
「勇敢で心優しきエルフの子よ、私の事がさぞよ憎かろう。さっきも言ったとおり、私は罪を償わなければならない。だから私の命だけで、心をどうか鎮めて欲しい」
「ずるいよ……。最後まで悪人でいてよ……。本当に殺したいのはディランってやつで、その親も最低な奴だった。でもあんたは違った。ボクの家族の為に泣いてくれたんだ!!」
「それでも私がやってきた事もまた事実だ」
その時カナタがそっと、その子を強く強く抱きしめる。カナタはここに来るまでに何度も自問自答を繰り返し、葛藤を乗り越えてきた。本当の強さっていうのは、自分の暗い部分を受け入れ、誰かを許せる事だと思ったからだ。
一時の感情で復讐なんてすれば、絶対後悔する。すぐにはわからないかもしれないけれど、その記憶は必ずどこかで綻びを作り、心を締め付ける縄となるだろう。
カナタはそんな未来を歩ませたくなくて、言葉にはせず強く強くエルフの子を抱きしめてやった。そんなカナタの気持ちが通じたのか、エルフの子はナイフを持つ手を緩める。
「エルフの人達ってさ、大切な人の為に命をかけられる人達だって知っている。私の大切な人も、そうやって大事な人を守って死んでいった。私も復讐してやろうと思ったよ……でもね、誰かがやめない限り永遠に終わらないだ」
「うぅ……うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
「今はいっぱい泣きな。それで、もう終わりにしよう」
カナタはエルフの子が泣き止むまでずっと抱きしめていた。その姿はまるで本当の親子のようで、誰にも邪魔なんて出来るはずもない大切な時間となって過ぎて行く。
程なくして、カナタがエルフの子から体を離すとそこにはもう復讐に満ちた人はいなくなっていた。オルディネはその光景を目に焼付けながら、ただただ二人を優しい目で見つめる。
これで全てが終わったわけではない。ここからがカナタの叶えたい夢への第一歩なのだ。妖精とエルフと人間が共に暮らしていく国の建国。それは苦難な道であるかもしれないけれど、みんながついているんだから絶対大丈夫だ。
カナタが未来を見据えていると、エルフの子がナイフを拾い上げ皮の鞘に収めた。そして、エルフの子はオルディネに近づくとはっきりとこう言ったのだ。
「ごめんなさい!! それに、ありがとう!! 私は聖騎士様の本当の優しさを信じようと思います!!」
「私を許してくれると言うんですか? 我が身はこんなにも穢れていると言うのに……」
「ボクはあのお姉さんのように強く生きたい!! だから、ボクは聖騎士様の事を許します」
ここでまた一人、エルフの子から闇が消え去った。今回それを成し遂げたのは燐の力ではなく、カナタの力だ。でも燐がいなければ、カナタもまた復讐の鬼と化していたかもしれない。
燐という世界の歯車は確かに、この瞬間良い方へと進んで行った。そしてカナタという歯車と噛み合い、エルフの子を助け、新国家設立へと廻り始める。
それに羚という新たな歯車が加わり、また何かが起こる予感がしていた。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
おはようございます。
昨日あらためて、水分補給は大切だと思いました!!
少し涼しいからと言って仕事終わってから深夜1時くらいまで
運動してたんですが、くらっときましたね(笑)
こまめに水分補給してたんですが、コワいですね!!
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




