カナタの夢
燐達を乗せたユグドラシルは、飛び立った場所と同じ場所に降り立つ。戻ってきてみると、あれだけあった簡易テントの類はきれいさっぱり消えていた。
誰かが今回の結末を既に伝えてくれたおかげか、全てが元通りに見える。しかし、燐とメリスが一緒にユグドラシルから降りた時、いや降り立つ前から見えていた事があった。
それは、戦いの勝利を祝う為に、ずっと待っていてくれたであろう人達。何十万人というシャークリアの人々が、様々な声をかけてくる。
「おかえりなさいませ、女王様!! 燐様!!」
「ありがとう……ありがとう……うぅ」
「英雄様のご帰還だぁぁぁ!!!!」
口々に燐とメリスに温かい言葉がかけられた。その後ろをエルディアとカナタが歩き、その後ろを羚が歩き、次いで乗組員のみんなが城へと続く道を歩いていく。
中には花束を持ってくる少女や、握手を求めてくる人だかりでなかなか先に進めないでいる。それでも、燐・メリス・カナタはそれら全てに応えてやった。
それ以外では、直接戦いに参加してなかったエルディアも助力した事は筒抜けだったようで、同じような扱いを受けている。エルディアはそういうのに慣れていないせいか、燐達みたいに上手に対応する事が出来ないでいた。
しかし、そんな対応が逆にエルディアの性格や容姿からクール系のお姉様というキャラが確定されつつあり、一部の妖精の子達やエルフの男性に大人気なのだ。
そんな中、一人だけ状況がわかっていな羚だけが空気のような存在となっていた。しかし、羚はファンタジーの世界を満喫するように、きょろきょろと辺りを見渡していた。
「すごいなぁー。燐一人だけ、こんな世界で楽しんでずるいわ」
「そう思うか?あいつはあいつなりに苦しんで、今この場所に立っている」
「そうだね。燐は強い子だよ。逆にこっちが辛くなるくらいに」
いつの間にか前を歩いていたカナタとエルディアが羚の両隣に来ていて、挟まれるような状態になっている。そして、急に話しかけられた言葉を聞いて、羚は一旦冷静になった。
「燐のやつ……何かあったんですか? それと、何となく聞こえてましたけど、あいつの事を英雄だって」
「うん、そうだね。燐は立派な英雄だよ。でもね、私達の為に我が身を顧みず、つっこんでいってしまうから急にいなくなっちゃうんじゃないかって心配でもあるんだ」
「そうですか。俺はあいつがこの世界で何をしてきたのかは知りません。それでも、他人の為に何かする時は決まって無茶をする奴だって知っています」
カナタとエルディアは羚の言葉を聞いて、納得した。この男もまた、本当の燐を知っている人なんだと。カナタとエルディアと話し、少しだけ落ち着いた羚は自分の行動を思い返し、はしゃぎすぎた事を反省した。
それでも羚の心の奥にある、わくわく感は止められそうにない。そして、やっと城の入り口らしきものが羚にも視認できる距離までやって来た。
見えてきた入り口にかけられた、色鮮やかな花々のアーチを燐とメリスが抜けて中に入っていくと、3人もその後をついていく。そしてこれから行われるのは、シャークリアの今後についての話しあいだ。
いつものように女王の間へと向かうと、テーブルにつき話し合いが行われる。しかし羚は、少し離れたところで待っていてくれたセイラと何かを話していた。
「それでですね……話しはまとまりましたが。何か聞きたい事とかありますか?」
「あのね、燐。私……いいかな?」
「カナタさん? はぃ、どうぞ」
意外にも最初に食いついてきたのはカナタであった。カナタはカナタなりの考えがあり、その全てを終わらせてきたものだと燐は考えていたのだが。
正直カナタは、言うべきかどうか悩んでいる様子で燐とメリスの顔を見ては、下を向いてしまう。そんな様子のカナタを燐は急かす事はせず、ただひたすら待ち続けた。
それでも長い沈黙のせいで、カナタも言いにくくなっているのでないかと思い、燐が優しく語りかける。
「カナタさん。思ったことを言ってくれればいいんですよ? 何か助けがいるような事でしたら手伝います」
「燐……。わかった!! あのね、燐!! 私、やりたい事があるの!!」
燐の手助けを受け、やっとカナタも堅い口を開いてくれた。何かをやりたいと言う気持ちが燐だけではなく、メリスやエルディアの心にも響く。
「馬鹿にされるかもしれないけど、私さ。人族と交流をもっと持ちたいと思うんだ!! お互いにもっと、歩み寄っていけば今とは違う未来に辿り着けるかもしれない!! その為に燐の力は必要なんだ!!」
「ゼルダン家と同じ様に、力で押さえつけると言う事ですか? カナタさんは見せかけだけの、平和が欲しいと?」
燐の口調は怒るでもなく戒めるでもないが、静かな力強さを宿していた。それくらい、カナタが話している問題は重たいという事だ。
燐はまだ、この世界の事をちゃんと理解できていない。悪意があるのはどこの世界でも一緒だし、そこにはそこのルールが確固として存在する。
そんな世界のルールと言ってもいい概念を否定する存在は排他されてしまう。どんなに素晴らしい考えやどんなに強大な力を持っていても、いつかは世界のルールに飲み込まれ歴史の片隅に追いやられてしまうだけだ。
カナタがやろうとしている事はそういう話であり、場合によってはシャークリアを滅ぼす未来へと誘う選択肢になり得る。カナタは、それを理解した上で発言しているのだ。言ってしまったからには後には引けない、後は突っ走るだけである。
「違うんだ、燐!! 私がしたいのは、そういう事じゃない!! あのね、同盟国みたいなのを作りたいと思っているんだ」
「カナタさん、わかっていますか? 同盟国、しかも種族の違う者同士が互いに利益の上で繋がるという事は一歩間違えればそのバランスは一瞬で崩れてしまうんですよ? それでも、出来ると思いますか?」
「出来る!! いや、私の一生を使ってでも成し遂げてみせる!! これが私の見つけた……夢だから!!!」
カナタの提案をただただ静観していたメリスがそっとカナタの手を取った。メリスが求めていたのは、平和で国民が不自由なく暮らせる国。その中には人族はいなかった。
メリスはカナタの言葉を聞いて、ここで逃げてしまっては何も変わらないのではないかと思っている。勿論これまでみたいに現状維持する方が簡単だし確実だ。それでもメリスはカナタの夢を一緒に歩みたいと思ったのだ。
そう、それは物語でしか聞いた事がない世界。人も妖精も動物も、皆が笑いあう本の中だけの夢の世界。メリスは本当の戦いを始めようとしているのだ。
「私もカナタ様の夢を尊重したい。いばらの道だって事はわかっています。その夢を叶える為に今回以上の血が流れるかもしれない。それでも私は、いえ私達は戦います!!」
「メリス、カナタさん……。分かりました、それでいいと言うのであれば俺も力を貸します。カナタさんの言いたい事はなんとなくわかりました。同盟を結んだら気に入らない国々が出てくる。だから、守って欲しいと」
カナタは茶化す事はせず、まじめな顔で頷く。いつもなら「さすが燐だね!!」とか言ってくるカナタも、今回ばかりはそんな素振りは見せなかった。
一切口を挟まなかったエルディアも、少し難しい顔をしているが賛同してくれるようだ。エルディアの国も、ズバ抜けた魔法技術を持っていたが結局は平和な国を作ることが出来なかった。それでもエルディアの中には、その夢の先を見てみたいと気持ちが残っている。
カナタの話しが終わり、メリスも何か言い出そうとしていたが、言葉を飲み込んだ。少し気にはなるが、メリスの顔には穏やかな笑顔が浮かんでいたので、燐は気付かないふりをした。
そんな一致団結している傍で少し寂しそうにしている2人がいる。
「ねぇあんた、羚とか言ったっけ?私達さ……あれだね……空気だよね」
「そうだな。完全に俺達の事を忘れているよな。せっかく燐と会えたのに、寂しいわ……」
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
おはようございます。
活動報告でもお知らせした通り、一応健康です。
心配をおかけいたしました。
改めて、待っていてくれた方がいらっしゃれば
お待たせいたしました!!
いろいろ書きたい事があるんですが、これくらいにしておきます。
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




