それぞれの辿る未来
燐はキャロルを抱きかかえユグドラシルに帰艦した。そして、キャロルを簡易的なものではあるが寝室に連れて行き寝かせてやる。
元々居住空間や倉庫部分はかなり簡素の作りにしていた。それは時間がなかったせいもあるが、現状必要になるとは思わなかったからだ。それでも新造艦であるという事と、ほぼ100%木材で作られているせいで温かい味のある部屋と思えば別段気にはならない。
「燐様、キャロルちゃんは?」
「眠っているだけです。外傷はある程度治してもらったんですが、心の方が……」
「心の傷……何があったんですか?」
「メリスは忘却草というものを知っていますか?どうやらそれのせいで、これまでの記憶を全く覚えていないようなんです。自分の名前さえも……」
メリスは燐から現状報告を聞くと、一言「そうですか」とだけいい燐と共にブリッジに戻った。メリスも思うところがあるだろうが、忘却草の名前を出したときの反応を見る限りだとディランの言っていたとおりだという事もわかる。
何も出来ない事を理解した上で、今はやるべき事をしようという決意の表れだろう。
「それで燐様、どういう話になったんですか?」
「簡単にまとめると奴隷の解放と制度の廃止。それと不可侵条約を取り付けました」
燐の言葉に、耳を傾けていた乗組員達からも歓声の声が聞こえる。長年の悪習に終わりを迎える事が出来た事で、本当の勝利をやっと実感したのだ。
勿論それは小さな一歩であり、同じ事はどこででも行われている。それほどまでに人間の勢力や力は恐ろしいものなのだ。滅びと繁栄を繰り返し、絶滅する事はない種族。
それでも燐は今回の勝利を共に祝い、遺恨を残す戦いにならなかった事が救いだとも考えていた。
「ところで、カナタ様は?」
「あぁ、カナタさんなら……けじめをつけている真っ最中ですよ。大丈夫、カナタさんならきっと打ち勝てると信じている。それでも傷つき帰って来たときは……笑顔で迎えてやってほしい」
「勿論ですとも」
メリスは燐に笑顔でそう答えると、カナタがいるであろう場所を見下ろした。その間燐は、予め準備しておいてもらったカナタ印の料理を宝物庫から取り出す。
現状維持であれば、誰一人として操縦をしていなくても問題ないのだ。勿論、何があるかは分からないので見張りと食事を2班に分けて行う。
戦勝祝いと言った感じで料理は豪勢で、果実酒も何本も揃えてある。アルコール度数が低いため、酔いつぶれることはないだろうが燐は一応釘を刺しておく。
「もう大丈夫だと思いますけど、あまり飲みすぎないで下さいね?」
「これくらい大丈夫ですよぉ~、燐様も一緒に飲みましょうよ!!」
「そうですよ、英雄様!! あなたが主役なんですから、わたくしに酌をさせてください!!」
「すまないけど、もう少しする事があるんだ。その後でなら……シャークリアに帰ってからだったら、付き合いますから」
燐はやんわりと誘いを断り、メリスの羽を使いカナタの元へと戻っていく。どうやらけじめはついたみたいで、燐を待っているようだった。
「ただいまもどりました。それで、もういいんですか?」
「私は私なりの答えを見つけた。これから、頑張るよ!!」
カナタの目からはくすぶっていた黒い影は消え、今は優しい光と強い信念の光がいり混じっているようだ。燐は、そんなカナタを見て優しく頭をなでてやる。
「なんだい、燐。私は、こんな見た目だけど年上なんだよ? 恥ずかしいじゃないか」
「ええ、わかっています。でもたまには、こういうのもいいじゃないですか」
「うん、そうだね。ありがとう……」
何回か頭を撫でられたカナタは、ふっと燐の手の届く範囲から離れ空へと舞い上がった。緑色の羽が太陽の光を反射して、やわらかな光を纏いながらユグドラシルへ向かっていった。
護衛の者達にも一緒に戻っておくように燐は言ったのだが、マルタとオルディネのいる所に残していくわけにはいかないと断固拒否された。
それでも燐の意見を尊重するという事で、護衛を一人だけ残し、あとはユグドラシルに帰艦させる。
「……わざわざ、残ったのは私に用があるからだろうが……何かね?」
「最初っから気になっていた事がある。魔力の心臓の事もそうだが、どうやって結界を無効化した? ディランの固有魔法か?」
「あれは、遠い祖先の遺産。先人の知恵。失われた魔法。呼び方は様々だが、その類のものだ。ある時、黒いフードをかぶった胡散臭い男が尋ねてきてね……そして、それらの魔法や技術を無償で教えてくれたのだよ」
マルタも黒い男の正体は愚か、一度も素顔を見せようとしなかったので年齢もわからないという、もしかしたら、女性である可能性もあるようだが、どっちにしろ全てが謎であるという話だ。
そしてそのフードの男は、近場に素材が山ほどある事を示唆したという。奴隷をいたぶるのが好きで、何人も拷問のすえ殺してしまうディランだったが家畜と蔑んでいたせいもあり、奴隷狩りはあまり積極的ではなかった。
積極的ではなかったディランは、この男の助言を得てからというもの奴隷狩を進んでやるようになったという。魔力の心臓を作るには魔力値の高い固体が必要。そして素材を手に入れるためには結界は邪魔以外の何物でもない。
その魔法までも、無償で教えてくれるとなると不信を抱くのは当たり前である。けれどディランは全てを天命か何かと受け止め、傲慢の限りを尽くした結果が今の状況なのだ。
「私は悪党だが慎重派なのでね、真意がわかるまでは奴隷狩りの頻度をだいぶ減らしつもりだったんだが。少し前に久しぶりに奴隷狩りをした時も大失敗してしまったがね。報告にあった獣人のハーフを連れた人間の男……貴様の事だったんだな」
燐は肯定はしなかったものの、そんな珍しい組み合わせが何組もいるわけがなくマルタは確信を持っていた。そしてマルタは教えられた魔法や技術の説明をし始め、全て教えられたまま燐に伝える。
燐は黙秘できる事柄をわざわざ言った意味を考えてみた。間違いなく腹を割って話をしようという事であると、燐は思い至る。
マルタが知りたいのはユグドラシルの秘密についてだろうが、燐は使った魔法や技術・原理に至るまで全てを黙秘した。黙秘はしたが、キャロルを救い出すために作り上げた物である事は伝える。マルタに何隻も造船が可能だと暗示する為だ。
「ふふ、確かにそれでは釣り合わないな。人狼族と人族のハーフは確かにノドから手が出るほど欲しいが、それで国が滅びるとなると話は別だ。手を引かざるおえないよ。勿論譲ってくれるというのであれば、喜んで頂こう」
「さすが1代で国をここまで大きくしただけあって、肝が据わっていますね。この状況でそこまでの口がきけるんだから。だけどキャロルを譲る気はない」
「それは残念だ」
燐はマルタから必要な情報を聞く事が出来たので、ユグドラシルへと飛び立つ。それをマルタは視線を外すことなくずっと見つめていた。
やがて燐が帰艦し、シャークリアへと戻っていく様子を確認し、マルタはオルディネに命令する。
「私はこの国を離れる。仕度を頼む」
「かしこまりました」
「準備が出来たら、後は好きに生きろ。前当主との契約はこれで終わりだ」
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
おはようございます。
今日久しぶりにコンビニに行きました!!
知らないスイーツがいっぱいだぁー・・・
おにぎりにしようと思ったんですが
わらび餅と無糖カフェオレが朝ごはんになりました
ワラビモチ…・ω・)つ■゛ソロリ
読者様厳選の、一押しスイーツとかあれば教えてくれたら嬉しいです(笑)
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




