念願の魔法
楽しい探索の日々はあっという間に過ぎていく。燐はあれからもいろいろな所を巡り、面白い場所を見つけた。時には農作業をしているエルフと一緒に野菜を収穫したりもしていたのだ。
それで分った事はこの辺りと言うかこの国は妖精とエルフが共に生活をしているという事である。中には行商をしにやってくる人間もまばらに見かけはしたが、本当に極少数の許可された人達だった。
国の情勢は何となく分ったが、燐としてはそんなことよりも散策していない場所がまだまだ存在する為そこに足を運んでみたいと思っている。
それと美味しいもの探しも燐の重要な散策ポイントだ。今日はどこにいこう、明日は何をしようと計画を立てているとメリスが呼んでいるとリアから伝言を受け行ってみる事にした。
「こんにちは。燐さん。この国はどうでしたか?」
「とても素敵な場所だと思います。どこに行っても活気があり笑い声が絶えませんでした。それに皆優しいですし、凄く気に入りました!!」
燐はメリスに率直な感想を述べる。そんな率直な感想に対しメリスはイタズラっぽく笑うとこう切り返してきた。
「国民の皆さんには、燐さんを邪険にすると襲われますよ~って伝えておきましたから」
「メリスの冗談も初めは肝を冷やしましたが、さすがに慣れてきましたよ?」
燐は、ここ数日で何度もこういう冗談でいじられている。さすがにもう慣れたが、メリスなりの気遣いだったのではないだろうかと燐は思っていた。
女王という立場ではなく気兼ねしない相手となるよう接してくれた節がメリスの言動から読み取る事が出来たからだ。
それはそうと燐がメリスに会いにきたのは世間話をしにきたわけではない事を思い出す。呼ばれたという事は燐も念願の魔法デビューなのだ。
改めてメリスが燐に資質を見せるが、みたところ数日前と遜色はないようである。変化自体はないが、前回見せてもらった時に一切説明を受けていなかったので書かれてある事についてきいてみることにした。
やはり目を引くのは固有魔法や特技・技能と言った所であろう。名前だけなら固有魔法の創造主は凄そうである。特技・技能欄には創作魔法と記されているので創造主専用のスキルだと燐は予想した。
他にも加護属性が火と言う事なのだが魔法どころか知識すらない燐にはそれに関する魔法を習得しているわけがない。なので今は特技・技能欄に火を関する魔法は存在しないわけだ。
もうひとつ宝物庫というスキルが燐の目には入ってきたが、正直どんな魔法かは予想出来そうで予想出来ない。予想するよりも素直にメリスの説明を聞いたほうが早いと思い、探究心を一旦心の奥底へと沈める。
「早速なんだけどメリス。固有魔法や加護属性、特技・技能について教えてほしいんだけど」
「勿論です。まず固有魔法についてですが、これを使える方はあまりいません。と言っても私も固有魔法を持っていますし、とりわけ珍しい事でもありません」
「へー。メリスも何か使えるんだ」
「そうですね。私は主に国を守る力として護聖光という魔法が使えます。燐さんのは確かに使える方はかなり少ない珍しいスキルなのですが……」
「えっ、何か問題でも?」
言い淀むメリスの顔はどこか申し訳なさそうに見えた。少しの間。静寂が流れ、メリスが意を決したように説明を始める。
「今更隠すつもりはありません。ですが、せっかく楽しみにしていただいていた燐さんを裏切ってしまうものかもしれません」
メリスが固有魔法の創造主について知っている事を燐に話し始めた。メリスの説明によると創造主という固有魔法を持つ者は物作りに特化した職人であるということらしい。
一見素晴らしい固有魔法に聞こえるかもしれないが、実際の所は作業効率の向上であったり完成形を正確に思い浮かべ把握する程度の力だという事だ。
「じゃぁ、もうひとつの宝物庫というのは?」
「こちらも創造主専用のスキルで持ち物なんかを魔法である程度収納出来るという力なのですが魔法技術が確立していて、いい物であれば20個程度の物を収納出来る袋や宝箱が既に存在しています。勿論媒体がない分、使い勝手は良いかもしれませんが別に使えなくても困らない魔法という位置付けになります」
話を聞いた燐はあからさまに落ち込む。メリスの説明を聞く限りだとファンタジー的な魔法ではなく、凄く現実的な魔法であったからだ。
それでも落ち込んだ所で資質を変えられる訳もないので、燐はメリスに宝物庫の使い方を教わり実際に使ってみることにした。
使い方自体は凄く簡単で、頭の中で箱を連想しながらそこへ出し入れしたいと考えるだけでいいらしい。そこまで出来ると燐の頭の中にアイテムボックスの様なものが浮かんでくるが、今は何も入っていない為からっぽだった。
説明を更に詳しく聞くと若干の差異があることがわかる。一番の違いは盗めるか盗めないかだ。燐の宝物庫は本人以外では絶対に手を出すことが出来ないが、袋等は違う。奪ってしまえば誰でも使用する事が出来る。
なので、仮に追剥目的で燐を殺したとしても宝物庫を使っている限り絶対に奪われることはない。あとは宝物庫も魔法の為、使用者は中に入っているものを形で捕らえることが出来る。宝物庫の原理を利用した高級な宝箱でもリスト形式でしか表示することが出来ないそうだ。
「なんとなく理解しました。俺の使える魔法はしょぼいって事ですね……」
「確かに優秀な固有魔法は数多く存在しますが安心して下さい。先程も言ったとおり固有魔法は使える人と使えない人がいます」
「それはどういう?」
「魔法というものは本来長い時間をかけて習得していくものです。ですので燐さんも特殊な魔法以外なら習得が可能だと言う事です。それに燐さんの能力値は他の人族に比べて高いので騎士でも魔道士にもなれると思いますよ」
ハズレ魔法を引いたと思っていた燐だったが、普通に魔法も覚えれると聞き少し安心していた。習得に関しても特に加護属性の魔法は覚えが早く、同じ魔法を使っても効率がいいと言う話だ。
それに資質も一般人よりも高いらしいので、自立する時がきてもこの世界で生きていけるんだな別の懸念も解消した。
しかし燐にとっては些細な内容である。なぜならば、燐が楽しみにしていたのは魔法を使えるかどうかであって将来の事は二の次だからだ。なので燐が第一にしたい事は魔法の勉強である。
勉強というものは何事も早くからやった方が効率的なのだが、燐は先に知識だけ知ってしまうと我慢出来なくなりそうだったので自粛していた。探すは魔法教法である。
「私からは以上ですが、燐さんはこの後どうしますか?」
「そうですね。まずは図書館で魔法に関する本を探してみようと思います」
「どうぞお好きに見てください。別に隠すようなものもありませんので」
メリス直々に許可がでたので、燐は図書室の場所を聞き本を探しに向かった。燐が図書室のある場所へ向かう足取りは最初こそ軽かったのだが、ふと心配事を思い出す。それは本を探す以前の問題で、この世界の文字が読めるかどうかである。
燐はここへ来る途中に見た掲示板を思い出し、確かに何を書いているのか理解出来なかったし結構難解な文字だった覚えがあった。しかし図書室に到着すると書庫と書かれた看板をきちんと読むことが出来たので、悩んだ時間を返せと心の中で思い物言わぬ看板を睨みつける。
実は図書室に来るのはこれで2度目だったのだが、掲げられた看板を読めなかった為に来た事を忘れていた。そんな図書室の中に入ると夥しい量の蔵書が所狭しと保管されている。
燐はそんな本の山の中から立て札を頼りに目当ての物を探していく。立て札を頼りにいろいろ見て回っていると伝説や物語の本が多かった。そんな本の中に数冊気になる物がある。そこにはメリス著と書かれた数冊の分厚い本なのだが、燐はタイトルを見るのが怖かったのでその本棚を素通りした。
「なんか……見たら後悔する気がするというか……フラグだろう……」
燐は取扱厳重注意の本棚を離れ、順々に探していると漸く目当ての本棚群を発見する。他の本棚に比べたら蔵書量は少ないが、それでも小学校の図書室分くらいはあるだろう。
燐も正直どれを読めばいいのかわからなかったが、魔法原理や魔法構築の流れという堅いタイトルから入門書といった感じの本を無造作に手に取ると手頃なスペースで読み始めた。
図書室にきて何時間たっただろうか。燐は基本的な魔法の原理や使い方を頭に叩き込むと、読み終わった本は元の場所に戻し他のものもその場でパラパラとめくってみた。
「ん~……蔵書量は申し分ないけど……内容は似たり寄ったりって感じだな。これなんて内容一緒なのに、書いた人が違うし」
本を読み漁って例外もあるが分かった事はこんな感じだ。簡単にまとめると、この世界の常識としては魔法陣と詠唱により『魔法』が発動する仕組みである事。魔法陣と詠唱を掛け合わせることにより何らかの効果を発揮する現象を魔法と言うらしいが、云わば化学反応に似たプロセスだという事だ。
複雑な物になればなるほど、魔法陣もそれに伴いより一層複雑な幾何学模様を描き詠唱もそれだけ長くなる。魔法陣は一度構成し覚えてしまえば、魔法を発動する際自然に発動できるようにする事も可能。但し向き不向きはあるので要注意。
詠唱にも意味があり、攻撃性のある魔法を使う場合なら威力・形状・効果範囲・魔力量等と意味を持たせた詠唱をしなければならない。
矛盾があったり、設定が曖昧だと魔法が中途半端になったり最悪魔力を消費しただけで何も起こらないなんて事もあるのだ。
魔法とは高度な技術と豊富な知識の上に成り立っている。この世界ではありきたりな物ではあるが、そうそう簡単にいくものではない。
更に知ろうと応用書や専門書らしき本も山積みになるくらい読んだが役に立たなかった為、燐は実践をすべく外へと向かった。
「暖かな光よ 我が手に集え 光は火となり力を以て “光火”」
外に出た燐は先程頭に叩き込んだ魔法の練習を始める。入門魔法ではあるがまさか一発で成功するとは思っていなかったようだ。手の平には小さな火の玉……というよりかは大きなライターの火といった感じのものが乗っている。
火の玉は燐の手の平で揺らめきながら熱を発し続け、消える様子はない。燐は試しに火の玉を投げてみたところ、岩に当たり弾けとんだ。弾けとんだ火の玉だったものは空中で霧散した。
「おおお、すげー。魔法使えた!!」
魔法を使えた事で気をよくした燐は、入門書に書かれていた魔法を次々と成功させていく。加護属性だから上手くいったと思ったがなんのことはない、火をはじめ水・土・風といった魔法も難なく発動した。
しかし水魔法は少しの水が湧き出ただけだし土魔法はただの泥団子しか出来ず風魔法もうちわで扇いだようなそよ風しか起こせなかった。
魔法を使えたのが本当に嬉しくて時間を忘れて没頭していたら、だいぶ日も落ちてきたので燐は練習を終える。そこでやっと燐は自身の姿を見て汗だくな上に泥や草木で汚れていることに気付く。
汚れきった姿を見て燐は苦笑いを浮かべお風呂へと向かう。燐は今日も一日の疲れを風呂で癒すのであった。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
自分の中で更新を18時にしようと思ってるんですが
今回も0時更新としました。
それでは次回更新でまたお会いしましょう。
※改稿致しました。