戦艦ユグドラシル
この作品はファンタジーです。
始めて読む方はご注意下さい。
あの時の戦いは、シャークリア防衛戦として歴史に刻まれるらしい。それは兎も角、戦いから3日が経ち燐はついに完成にこぎつけた。
全長は軽く300m程度あり、燐の知っている戦艦と比べても遜色はない大きさだ。けれど形は船と呼べるような形はしておらず、巨大なペットボトルや缶のように丸みを帯びた凹凸のある円柱といった雰囲気である。
材料は妖精樹なので、綺麗な色をしていたのだが、燐の作戦で色を黒と赤で統一する事により威圧感を増しておいた。
この世界に飛行機という文明はないのだが、あえて羽根を付けたりする事はなかった。バランスは全て重力魔法によってコントロールされているので、安定面も旋回面も全てこの魔法で解決出来るのだ。
「ついに完成しましたね、燐様」
「あぁ、これだけ巨大な物を作れたのは皆のお陰です」
「謙遜しなくても宜しいではないですか。燐様が次から次へと加工をして、組み立てを行うのを手伝っただけですから。それに私が燐様の力にならないと仰っても、作り上げたでしょう?」
「確かにメリスの言う通り、一人でも作る事は出来たでしょう。ですが、時間はもっとかかるだろうし、その間にキャロルに何があるかわかりません。今こうしている間にも……」
燐はキャロルの事を思い、拳を固く握り締める。きっとこの数日は燐にとって苦しい時間だったに違いない。
セイラが燐に生気を与えてくれたお陰で、気持ちは落ち着き良い未来を選択できた。もし燐があのままだったならば、人間を捨てキャロルを助ける為に修羅道へと突き進んでいたに違いないのだ。
それでも燐をこの未来へ導いてくれたのは、一人の力では決してない。みんなの力があって初めて今の燐がここにいる。
そして燐は最後にメリスに頼み、一緒に戦ってくれる仲間を募集した。正直、燐一人でもこの戦いに勝つ事は出来るかもしれない。無差別な殲滅という最悪の遺恨を残す戦いとなっても。
戦争なのだから、仕掛けられた上で報復して何が悪いという人もいると思う。けれど燐は、そんな誰も幸せになれない悲しい未来なんて求めていなかった。
それでも燐達がこの船でやる事は戦争だ。何人の人がその命の火を消すかもわからない。けれど逃げていては誰も先へは進めない。キャロルだって、助けてくれると信じているのだから。
「それで燐様。この船は何と言うんですか?」
「ん?まぁ、俺の想像の産物だし。メリスにSFと言っても伝わらないだろうしなぁ~」
「いえ、そういう事ではなく。この船の名前は何て言うんでしょうか?」
「名前?あぁー、船名は……うん!!この船の名前はユグドラシルです!!」
燐が名づけた船名は『ユグドラシル』。それは北欧神話で登場する架空の木で、9つの世界を内包し体現していたとされる巨大な木。
ユグドラシルは世界樹とも呼ばれ、妖精樹から作った船にはぴったりだと燐は感じた。勿論それだけではない。9つの世界を内包する木という話から燐はこの世界の人達が1つになってくれるようにと願ってこの名前にしたのだ。
「いい名前だと思います。なんとなくですが、力強く優しい名前だと思います。きっと、この船も喜んでいるはずです」
「ありがとう、メリス。それじゃぁ作戦にうつ……」
「どうかされましたか?」
燐の言葉が途中で止まり、燐の視線を追っていくとメリスは全てを理解した。まだメリスは一緒に戦ってくれる人達を募集はしていない。
それなのに、こちらに向かって大勢の妖精やエルフ、中には人族の姿まで見えた。その気迫を感じ、燐は聞かなくても一緒に戦う為に集まってくれたのだと理解する。
ゆっくりと燐とメリスの目の前に数百人からなる人達が集まり、膝をついた。そんな人達に燐が声をかけようとすると、先頭にいる初老のエルフがゆっくりと立ち上がった。
「メリス女王様、八神燐様。私達は、此度の戦いで何も出来ませんでした。他の大勢の者達もそうです。戦いという事をほとんど知らず、恐れ逃げ隠れていました。けれど、そんな私達を守る為に戦った者達も大勢いました!!」
穏やかな口調なのに、その言葉には1つ1つに力がこもっており、燐とメリスに突き刺さる。
初老のエルフの瞳から涙が頬を伝い、歯を強く噛み締めている事がわかる。体も握った拳のせいか、小刻みに震えていた。
燐はそんな姿をみて、みんな一緒なんだと感じる。恐いけど戦った者。恐いから逃げた者。他にも様々な気持ちが渦巻く中、今回の戦いは一旦の終わりを迎えた。だからこそ、燐の目の前に立つエルフは自分の不甲斐無さを恥、今から始まる戦いに参じる為に集まったのだ。
「私達もこの国を愛する者達です。お二方は優しい方だ……戦いに参加してくれなくても責めたりはしないでしょう。けれど一緒に連れて行って欲しい。また私達が見えない所で戦い傷つき、助けられてしまうのかと思うともう……」
「燐様……」
「……わかった。一緒に来てくれないか?ただ、どんな戦いになっても目を背けないで欲しい。きっと見たくないものも見るかもしれない。半分は俺の我が儘の戦いだ……それでも一緒に戦ってくれますか?」
「ありがとう……ありがとう。私達はその為にここへ来たのだから!!」
燐とメリスの前に集まった勇士達は静かに頷いた。これから始まる戦いに向け誰の目にも後悔はしないと訴えてきている。
出航は現時刻より1時間後、各自乗り込み戦いへと赴く。
全員が乗船し、燐は各自の役割や使い方を説明する。勿論、使っている魔法や技術は教える事が出来ないので、戦うための最低限の知識だけだが。
操縦は燐が巨大な魔法玉に触れることで操縦が可能だ。その魔法玉を通して、各所に埋め込まれた重力の魔法玉によって制御する。
ここで魔力切れが心配になる所なのだが、妖精樹の持つ魔力は微力ながらこの船の各魔力を補える程のものだった。それを燐が魔力タンクの仕組みをエルディアに教えてもらい溜め込んでいる。
操縦は燐一人でも可能なのだが、武装については手動で行わなければならない。この船には計34ヶ所の砲台が設置されている。
前方下部に3ヶ所、後方下部にも3ヶ所。前方上部に4ヶ所、後方上部に6ヶ所。側面中腹に左右6ヶ所づつ、側面後部に左右3ヶ所づつ設置されている。
この砲台それぞれに魔力タンクが内臓されており、燐の魔法玉を任意の数だけ装填すると魔力がタンク送られる仕組みだ。
魔法玉によって溜められる魔力は属性固定されているので、火ならば火の魔法、水ならば水の魔法が放射される仕組みである。
各砲台に施してある魔法陣により、属性に応じた任意の魔法が発動するようになっているので、攻撃手段は結構豊富なのだ。それに加え放射モードと連射モードを準備しており、1発限りという訳ではない。
基本的なこの船の機構はそんな感じであり、これ以上の説明は教えてはいけない事だ。なので燐は予定時間には少し早いが、出航する事にした。
「ユグドラシル、浮上!!」
「……いよいよですね、燐様」
「あぁ……」
ついに浮上を始めた戦艦ユグドラシル。これから最後の戦いが始まる。燐達を乗せたユグドラシルは人間の国『ルダンガン』へ向けて、ゆっくりと飛び去って行った。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
さてさて、ついにキャロル救出に向けて動き出しましたね。
絵でもあれば一層わかりやすいのかもしれないんですが、
私にそんなCG画とかの技術はありません!!
SF好きの男性とかで、かっこいいの描いてくれたり
してくれたらいいんですが贅沢言っちゃダメですね(笑)
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




