それぞれの運命
翌朝燐は日が昇る前に起床し、窓から外を見た。するとそこには、何十何百という人達が忙しそうに作業に追われていた。よくみたら炊き出しの様なものから、簡易テントの様な物まで建っている。
燐は状況が掴めず、部屋から飛び出した。戦いの後で、睡眠時間は3時間も取れていないせいか足元がふらつく。それでも、燐は城の正面入り口に向かった。
息を切らしながら正面入り口に着くと、忙しそうに作業をしていた人達が燐に挨拶をしてくれる。
「あっ!!燐様、おはようございます!!女王様の命により、只今全力を挙げて準備をしていますので、あちらで朝御飯でも召し上がってください」
「えっ?あぁ、うん。わかった……」
燐が言われるまま近くのテントに向かうと、中では濃厚なシチューとパンを食べている人達がいた。それを呆然と眺めている燐に、どこから現れたのかカナタが話しかけてくる。
「おはよう、燐。よく眠れたかい?」
「えぇ、まぁ……」
「そうかい。そりゃぁ、よかった」
どう見ても疲れが取れているようには見えないが、カナタは燐に優しく笑顔を向けるとシチューとパンを手渡してきた。
どうやらカナタがみんなの食事を作ってくれているらしい。燐はカナタからシチューとパンを受け取ると、空いている席へと押し込まれた。
燐は受け取ったシチューとパンを食べながら、現状確認をし始める。テントの中には簡易ベッドの様なものもあり、休息を取っている者もいた。広さは十分に確保できており、燐が寝ている間にこれだけの変化があるとビックリしてしまうだろう。
流されるまま燐が食事を取っていると、メリスがテントの中に入ってきて燐の元へと歩いてくる。
「おはようございます、燐様」
「おはよう、メリス」
「もう少しで準備が整いますので、燐様をお呼びしようと思ったら部屋にいなかったので、近くの者に聞くとここだと言われたんですが。お食事中でしたね」
「いや、大丈夫。すぐに食べ終わるから」
燐は残ったシチューとパンを急いで食べると、カナタにお礼を言ってテントを後にした。メリスの案内で少し開けた場所までいくと大量の木材が積み重ねられている。
おそらく皆で協力して集めたのだろうが、凄い量である。これだけあれば大豪邸を建てられるであろう量に、燐はみんなの力に感謝した。
燐はその木材を見つめ、どこから運んできたのだろうかと考える。これだけの量を伐採したとなると、目に見えてわかるはずなのだが。
「すごいですね。こんなに大量の木材どこから持って来たんですか?」
するとメリスの目線が少し上を向くと、指を上に向ける。燐はよく意味がわからなかったので、メリスに聞いてみる事にした。
「どういう事ですか?」
「ですから、上から持って来たんです」
「う……え?上って何かあるんですか?」
「勿論ありますよ。これは、この城……妖精樹の枝ですわ」
メリスがこの太くて真っ直ぐな木材の正体が妖精樹の枝だという。燐は意味がわからないと目を白黒させ、メリスと木材と妖精樹とを視線が行き来する。
当惑の色を見せていた燐だったが、改めて妖精樹を見上げると「まぁ……おかしくはないよな?」と一人ぶつぶつと言い納得した。
妖精樹の生命力は兎も角、燐の為に集められたこの枝もとい木材を船の材料にしていいのだろうかと燐は考える。確かに燐が考える中でもメリスが考える中でも最上級の素材なのだから。
妖精樹と言っても同じ木のはずなのだが、魔法の火炎や冷気の類でも傷つける事しか出来ず、本体から斬り離しても内在する生命というべき息吹のおかげで自然治癒させてしまう。
だからこそ国の神木のような存在なのだが、それを提供するというのも前代未聞ではあった。
「本当にこれを使ってもいいんですか?」
「何を今更言っているんですか?大切な人を助けるために、出し惜しみなんてしません」
「わかりました。それなら俺も全力で応えないといけませんね……作業開始します!!」
燐は固有魔法『創造主』の力で、木材に触れて頭の中に描いた形に加工していく。次々と加工され積み重ねられた木材がパズルの欠片の様になり、広場を埋め尽くしていった。
知らないうちに燐の力は強化されており、作業範囲や加工技術は著しい成長を遂げていたのだが、ステータスプレートは宝物庫の中に眠ったままだ。
燐が作業をしている間にも、どんどん新しい木材が運ばれてくる。木材の他にも鉱石が次々に運ばれ、簡易倉庫に運ばれていく。
確認はしていないが、あの倉庫の中には造船に使うための鉱石があるのだろう。燐はとりあえず鉱石の事は置いておき、骨組みとなるパーツを次々と作り出していく。
燐がキャロル救出作戦に向けて、準備をしていた頃。縄に縛られ、魔法の力を抑制する魔道具を嵌められたキャロルが目を覚ました。
キャロルが今いる場所は、人間の国『ルダンガン』。そして、そこの国を治めるマルダ・ゼルダンの屋敷の門前まで来ていた。馬車に揺られながら、キャロルは意識を取り戻しかけていたのだが薬か魔法を使われており、意識がはっきりしない。
そんな状態のまま門をくぐり、屋敷の入り口の前に馬車を止めるとキャロルに何かの魔法をかけだす男がいた。この男の正体はディランでも知らされておらず、マルタの命令で戦いに加わっていたのだ。
「起きろ!!」
「うぅっ……」
キャロルがディランに髪を掴み持ち上げられ、呻き声を上げる。意識がはっきりしたかと思えば、急に髪を鷲掴みにされたキャロルは状況を理解出来なかった。
キャロルが最後に覚えているのは、戦いの最中に背後から襲われた所までだ。その後は意識が朦朧として、靄がかかったように思い出せないでいる。
「降りろ!!自分の足で歩け!!」
ディランに髪を掴まれたまま、馬車の外に放り投げられた。馬車から地面に叩きつけられたキャロルの口から小さな声が漏れる。そんなキャロルを見ながらディランは馬車から飛び降りた。
ディランはキャロルに結び付けられている丈夫なロープを引っ張り立たせると、屋敷の中へと入っていった。
「お父様戻りました!!ディランが今、戦いより戻ってまいりました!!」
「すいません、ディラン様。只今当主様は大切な約束でお出かけしております」
「ん?どこにいったんだ?まぁいい……」
屋敷の中には使用人と思われる女性が数人いて、その中の一人がディランに受け答えをした。どうやらマルタは外出しているらしく、この事がキャロルにとっての幸か不幸か時間的猶予が生まれた。
ディランは着ていた鎧やローブといった物を脱ぎ捨てると、キョロルを引き摺り奥の廊下へと進んでいた。その廊下を進むにつれ抵抗をしていたキャロルの顔がだんだんと影を落とし、体が震えだす。
最初は明るかった廊下も奥へ奥へと進むに連れて、その廊下は薄暗く蝋燭の数も減っていった。まるで闇の中へとゆっくりと吸い込まれるようなその場所にも関わらず、ディランは楽しそうな笑顔を浮かべている。
ディランの態度とは逆にキャロルは記憶の片隅に追いやっていた、昔の出来事を思い出しかけていた。そして、ゆっくりと立ち止まった廊下の突き当たり、真っ黒な扉がキャロルの記憶を揺さぶる。
ディランがゆっくりと開いた扉の先にあったのは、簡素の机とイスと大量の本。部屋の中は明るかったのだが、キャロルにとっては見えなくてもいいものだったのである。
イスに染み込んだ黒々とした血の痕、背もたれも肘掛も血が染み込んだ痛々しいそれはキャロルの記憶を鮮明に思いださせるには十分なものだった。
キャロルは何度も見せられてきた姿。アリアがイスに縛り付けれら、口答えや間違いをするたびに暴行を受けていた事を。食事を与えられず、寝る事も許されず、何日も何日も続けられる教育。
全ての秘密を知っても、アリアの存在が人の目に映らなくなるのはまずいと思っていたマルタは教育を続けた。それにキャロルへ恐怖心を植え付ける事で反抗の意志を始めから持たせないようにしていたのだ。
「今日から、ここはお前の部屋だ。うれしいだろう?奴隷の分際で、自分の部屋をあてがってもらえるんだからな。かつて、お前の母親にしたように可愛がってやるからな?」
「あぁぁぁ……うっ……お願い……帰して!!」
「はぁ?お前はもう私達のモノなんだよ?お前に帰る場所はない!!」
「違う!!私の帰る場所はお母さんとお兄ちゃんがいるところだもん!!」
キャロルの奇声とも言える声がディランに向けられる。それを不快におもったディランはキャロルを足蹴にすると、連れていた者に命じ地下へと連れて行くように言った。
魔力を封じられ、身動きも出来ない状況でキャロルに出来る事はなかった。口で何を言ってもこの状況が変わる事はない。
ディランとキャロルはゆっくりと地下への階段下り、更なる闇へと消えていった。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
連休2日目ですね。
昨日はお出かけから帰ってきたら暑さからか
爆睡してしまい更新出来ず申し訳なかったです。
これからも読んで下さると嬉しいです!!
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




