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勝利の意味

 戦争に勝った。けれど燐の失ったモノは大きい。アリア・ロンド・キャロルという大切な者を続けて無くした燐は絶望よりも自身の力の無さに腹が立っていた。


 理由はわからないが、ディランはキャロルを欲しがっていたのは確かだ。きっと生きているはずだと、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、燐はキャロル救出に向かうのを一旦中断した。


「アリアさんをあのままにしてはいけません。おやっさんも……」

「そうだね。二人を連れて、城へ帰ろう」


 アリアとロンドを連れて帰った二人を見てメリスもセイラも顔を背ける。燐は何と言っていいのかわからず、ただただ謝った。


 自分の力が及ばなかったばかりに2人を殺してしまったのだと、燐は自分が情けなく思う。キャロルも連れ攫われてしまい、悔しくて悔しくて悲しくて……燐の目からは涙がとまらない。


「何が……自分の手の届く範囲は守るだ……。出来てないじゃないか!!うぅ……」

「燐様……」


 メリスが何と言って声をかけたらいいのかわからず、伸ばした手は空を切る。慰めの言葉、勝利の労い……きっと何を言っても逆効果になるとメリスはわかっていた。


 慰めの言葉なんて意味を成さない。勝利の労いも、燐の心を癒す事は出来ないだろう。


 いつの間にか救護班のリアが騒ぎに気付き、駆けつけてきた。恐らく、アリアと一番仲が良かったリアがその亡骸を確認し、頬を一筋の涙が静かに流れる。


 声にだす事はしないが、どうしようもない現実に打ちひしがれている事だろう。しかしリアは、アリアの髪をそっと撫でるとこう言った。


「おかえりなさい、アリア。今はゆっくりお休み。あとは私達が頑張るから」

「リア……」

「……」


 セイラに取っては仲の良い友達でお姉さんで、しっかりと芯を持った大切な人。アリアの死が悲しくないわけがない。それなのにリアは笑顔でアリアを見送った。


 セイラは本当の覚悟が出来ていなかったのだと、改めて認識する。大切な人を失ったのは私達だけじゃない。先の戦いで何十人もの同胞が命を落とし、その家族や友人もセイラと同じ気持ちなのだ。


 それに比べてリアは本当に強い。アリアの死に対して笑顔で見送ることが出来る強い心の持ち主だ。それに気付いたセイラは自分に出来る事を一生懸命に探す。力も無い、覚悟も半端だった……けれど、燐を導く事くらいはしたいとセイラは思う。


「あんたいつまでそうしているつもり?」

「セイラ……」

「手の届く範囲は俺が守る?あなたは何?神様?違うでしょ。燐、あんたが私に教えてくれた事をもう忘れたの?」


 セイラはこの世界に来て、燐がやってきた事を言っている。みんな支えあって生きているという当たり前の事を燐は教えてくれた。燐一人の力だけ、セイラ一人だけの力では何も成し遂げられない。


 心に蓋をして、自身を責めても何も変わらないのだ。未来を切り開いていく力は、強い意志と前に進む勇気だけなのだから。


 そして、希望を失った者は生きることに無関心になる。今の燐みたいに。


「このままじゃあんたダメになっちゃうよ!!キャロを助けるんでしょ!!こんな所で立ち止ってていいの!?」

「よくない……。キャロルを助ける!!」

「じゃぁ顔を上げて、前を見なきゃ。ふふっ……あんた酷い顔よ。ほらっ、顔を拭いて!!」


 セイラの優しい笑顔が燐の目に光を蘇らせる。空虚だった燐の心にセイラの温かい気持ちが流れ、溢れ出していく。


 城に戻る道中で燐の見る風景は、一歩踏み出すごとに色褪せていっていた。そんな色褪せた世界を、セイラの温かい気持ちが打ち破ってくれたのだ。


 メリス・セイラ・リア・カナタ・キャロル。ここにはまだ燐の守りたい人達がいっぱいる。戦いはまだ終わっていない。そう思ったとき、燐の目に映る風景が完全に色を取り戻した。


「ありがとう、セイラ」

「これで貸し借りなしだからね。さぁ、作戦を立てましょう。今はあんたが私達の大将なんだからね!!」

「おう!!」


 燐は立ち上がると、アリアとロンドの元へ行き誓いを立てる。もう挫けない、二人に負けない強さを見せると。だから見守っていて欲しいと燐は心の中で冥福を祈りながら、キャロル奪還作戦に闘志を燃やす。


 そんな燐の元にエルディアも近寄ってきた。忘れていけない、燐の大切な人達に加わったドールタークの元女王エルディア。この作戦にはエルディアの助けも必要だ。積み重ねた経験は、牙城を崩す力となる。


 作戦会議に向かう前にメリスがアリアを、カナタがロンドをそれぞれ連れて行く。燐は二人の顔を心に焼きつけ、やるべき事を成すために女王の間へと向かった。


 作戦会議はメリスとカナタが来るのを待ち、その間エルディアから助言等を仰ぐ事にした燐。


「今伝えるべき最低限の事は伝えたはずだ。まさか空の上にくるようなやつが、この国の事以外何も知らないなんてね」

「まぁ……はぃ。世間知らずでした」

「君はこっちにきて日が浅い。しょうがないといえばしょうがないのだが。それともうひとついいかな?これは私からではなく私に教えて欲しい事なんだが」

「?」


 先程まで、歴史や世間一般で知られている様な情報を教えてくれていたエルディアが急に鋭い目付きになる。その瞳の奥には色々な感情が混ざり合い、エルディアが何か大切な事を言おうとしている事がわかった燐は気を引き締めた。


 エルディアは燐のそんな態度を確認して、ゆっくりと話し始めた。


「君は今回の戦いで魔法剣と呼ばれる武器を用い、戦いに勝利した。そして私は、それらを準備している姿をずっと見ていたんだ。あっ、勘違いしないでくれよ?君の事を信頼していないわけじゃないし、監視するつもりもなかった。ただ君がどんな戦いをするか、見たかったんだ」


 そう言ってエルディアは燐の傍までよってくると、頭を撫で始める。それは別に燐の事を子供扱いしているわけではない。ただエルディアが燐と触れ合っていたいと言う、信頼の証のような行為だった。


 燐もエルディアのしている行動に驚きつつも、悪い気はしなかったので成すがままになっている。それでも少し照れているのか、燐は薄く頬を染めており、それを隠すように下を向いた。


 いつまでもこうしていたいと言う気持ちをエルディアは押さえ、話の続きをはじめる。


「それで君は他にもいろいろしてたね?重力制御魔法と……あれは、君の考える神の槍だね」

「そこまで見られてましたか……。この戦いが始まっても俺はあれを実践で使う気はありませんでした。仮に使っていたら、安定して使える重力魔法の存在を知られていたでしょう。これを……」


 燐は宝物庫から1本の刀を取り出した。刀身から柄まで全てが黒の日本刀のような武器。それは紛れも無い重力魔法を宿した魔法玉を使った魔法剣。


 燐はエルディアにその武器を手渡したまま、距離をとりおもむろに宝物庫から原木を取り出し投げつけた。


 エルディアに向かって飛来した原木を、慣れた動きで刀を抜いたエルディアが両断しようと刃を振るう。その瞬間、何の抵抗もなく原木が真っ二つになった。


 ただ切られた原木はほぼ残っていない。一般的な切り株程度の大きさがあったはずのそれは、手に乗る程度の残骸しか残っていなかった。


「これは……重力魔法……なのか?」

「それは間違いはありません。理論はドールタークを消滅させた時のものと似ています。その効果範囲を刃が振るわれた範囲に絞り、対象を空間ごとねじ切ります」

「それじゃあ……切られたものは……もう」

「エルディアさんの想像通り。この世界から完全に消滅します」


 エルディアはその武器に戦慄を覚える。明らかにこの世界の常識から逸脱しているだけにとどまらず、これが出回れば世界の均衡が傾く事になると瞬時に理解した。


 そんなエルディアに燐は驚くべき事を付け加える。空間を切り裂くと言う事は、そこにあるものがどんなものでも消滅させられると燐は言った。


 それは暗にどんな魔法でも打ち消せる事を意味している。もし仮にドールタークが地にあった時、この魔法技術が完成していれば歴史は変わっていたかもしれない。


「俺は確かに強力な武器を作ったかもしれない。それでも、皆に渡した武器はある意味それだけ・・・・の物。だけど、今エルディアさんが持っている武器はその人の生きた痕跡を無くしてしまう残酷で無慈悲な武器。だから使うのは止め、俺は心の内にこの存在を葬ろうとした」

「……」


 エルディアも確かにこの武器は存在しない方がいいと燐と同じ意見だった。けれど何故か燐は、後悔の念に蝕まれているように見える。


 燐は考えていた。もしこの武器をロンドに渡しておけば、ロンドは死ななかったかもしれない。大切な人の命を守れたかもしれないという思いが燐をまた深淵の淵へと誘おうとする。


 しかしそれは後悔してもどうしようもない事。燐は苦しくても皆と前へ進むと決めた。だからうつむかない。


 そんな時、扉の向こうから近づいてくる足音が聞こえる。燐とエルディアは話を一旦終わらせると、これから始まるキャロル救出作戦に思いを寄せるのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

感想・意見・誤字報告ありがとうございます。


おはようございます!!

今日もむしむししていますね……。

さてさて、なんとなくわかっていましたが、書く時間なんてなかった……。

寝る前に書こうか、起きて書こうか悩みましたが

5時に起きて執筆開始。

でいつもの様にチェックを始め……あれ?セイラどこいった?

という状況です(笑)

そんな感じで頭の回ってない子(?)ですが、応援してくれると嬉しいです。


それでは次回更新でまたお会いしましょう。

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