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圧倒的な勝利

 燐が先陣を切り、敵へと一気に迫る。その気迫はディランを怯えさせるには充分な力があった。肉体強化をかけた燐の身体能力を持ってすれば、300mという距離も10秒とかからず到達してしまう。


「わ、私を守れ!!何をしている!?はやくいくんだ!!」


 ディランが苛立ったように命令を下したが、無理矢理に従わせている影響なのだろうか、若干のタイムラグがあるようだ。


 その隙に燐はディランへ一直線へ向うが、黒装束の兵士達が間に立ちふさがり剣や槍を振るってくる。それらを軽々と避けた燐に、様々な魔法を打ち込もうと準備している集団がいた。


 それに気づいた燐と魔法が行使されるのはほぼ同時だったが、直撃を受けるも大した傷はない。燐の肉体強化を突破し、ダメージを与えるには魔法より通常打撃の方がまだ有効なのである。


 直感でそのことに気づいたディランは、魔法ではなく武器による攻撃を中心に攻めるよう命令した。ただそれも、当たらなければ一緒である。


 見た限りだと燐にその刃が届く事はなく、一撃で無力化する事も不可能に近い。少々の傷を負わす事が出来たとしても、その間に迫り来るシャークリア軍も控えていた。ディランは分が悪いと感じ、騎士兵にも戦いに加わる様に命令する。


「お前達もいけ!!あんな狂犬に用はない!!皆殺しだ!!!!」

「はっ!!」

「我が剣を主様の為に!!」


 騎士兵達がディランに剣を捧げると、乱戦の中に飛び込んできた。しかしシャークリア軍も燐に追いつき、次々と黒装束の兵を凪ぎ殺していく。苦しまないように、死んでも道具として扱われないように心臓を正確に潰していった。


 辺りは一瞬で血で染まり、生臭い匂いが充満する。


「ディラン。奴隷を解放し、二度とこの国へ攻めてこないと約束出来るならばチャンスをやる。今回だけは見逃してやろう」

「何を馬鹿な!?害虫どもが……調子にのりやがって!!勝てるとでも思っているのか!?」

「勿論だ。我らが振るうは無双の剣。貴様みたいな小悪党なんかには絶対に負けない!!」


 燐が威勢よくディランに啖呵を切るが、冷や汗を流すものの引く気は毛頭無いようだ。ゆっくりと騎士兵が鋼の剣をぎらつかせて、間合いを詰めて来る。


 その距離は7mに接近し、黒装束の兵は様子を窺っていた。そして燐の視線が黒装束の兵に一瞬移ったと同時に、騎士兵が距離を詰めると、鋼の剣が真上から振り下ろされる。


 勝ったと思った騎士兵だったが、燐の手にはどこから出したのかダガーが握られていた。勿論燐は宝物庫から取り出しただけなのだが、騎士兵にとっては何もない所から表れたようにしか見えない。


「くっ!!この……」

「……」


 燐は無言のままダガーを力任せに横薙ぎにすると、騎士兵の持っている鋼の剣ごと首を切断する。燐にとっては初めての殺人なのだが、不思議と恐怖や後悔はなかった。


 燐の剣筋が一閃すると、空気を焦がす熱波が放たれる。シャークリアの兵に持たせている剣よりも強度も使用回数も劣るが、その振るわれる威力は比べようもない物だ。


 この武器は現段階では、宝物庫から好きなだけ取り出せる燐だけが有効に使える武器の1つであり、所持数は50本を超える。


「これでもまだ戦うか?」

「貴様は何者だ!?この化け物め!!……何をしているお前達!!私を守れ!!」


 ディランは黒装束の兵と騎士兵に時間稼ぎをさせて逃げ出すみたいだ。当然であるが、ただ逃げるのであればシャークリア軍は逃がすつもりはない。


 それぞれ自身の武器を強く握り締め、撤退するディランを追いかけようと刃を振るう。


「やぁぁぁぁぁぁ!!!」

「弓兵!!万軍の射手放て!!」


 ディラン目掛けて天を埋め尽くす魔法の矢が降り注ぐ。何本かは連れている騎士の防衛を抜き、背中や腕に突き刺さる。


「ぐはっ!?ちゃんと叩き落しやがれ!!この無能が!!」

「がっ……申し訳ございません」


 致命傷を負わすことは出来なかったが、あれだけの魔法の矢を防ぐのは至難の技だろう。断続的に弓兵は魔法の矢を放ちながら、歩兵が掃討戦を繰り広げている。


 シャークリア兵の持っている武器だって相当に強力なのだ。炎の剣を持つものは騎士兵を担当し、風の剣を持つものは魔法兵を担当し、氷の刃を持つものは武器破壊をしながら確実にその数を減らしていった。


 頭を失った敵軍は少しづつ瓦解していき、規則的な不意打ちではシャークリア兵を止められる訳はない。


「燐……私達の魔力もそろそろ限界みたい。弓兵が使えるのは、普通の矢が各自20本程よ」


 カナタが燐に戦況を報告し、これからの事を相談する。燐は無駄に矢を放っても、この距離じゃ防がれると考え攻撃を中断させた。


 歩兵が確実に敵戦力を殲滅しているが、このままではディランに逃げられてしまう。燐とシャークリア軍が一点集中で活路を見出せないかと探すがそう上手くはいかなかった。


 一応小隊を作り、背後に回らせてはいるがどうなるかはわからない。まさか、早々に逃げ帰るとは思っていなかったからだ。


 ディランの姿が完全に見えなくなり、残った敵勢力を完全に制圧した。シャークリア軍は圧倒的な勝利を納める結果となった。


 敵は残すところディランと数人の騎士だが、燐達はこれ以上分隊するのは危険と判断し固まって逃走経路を予測する。


 そのうち背後に回ってもらっていた小隊と合流したが、ディラン達を確認できなかったようだ。


「あいつら……どこにいったんだ?」

「右の森が怪しいけど、あそこは多めに兵を回しておいたよ」


 確かに右手には広大な森があり、逃げるにしても隠れるにしても丁度良いだろう。しかし、この国で生まれ育った者がいるというのは凄いアドバンテージなのだ。


 歩きやすい道や隠れることの出来る場所をほぼ把握しているのだから。そんな森を初めて入る敵兵が知る由もない。


「土地勘があると助かります。カナタさんだったら、どっちに逃げますか?」

「そうだね……川沿いに下るか……。ないと思うけど、遠回りして城へ向かう方向はがら空きだね。でも城には残してきた300人の兵がいるし、燐の作った武器も持たせてある」


 もし仮にやつらが城へ玉砕覚悟で突っ込んでも300人の兵士が守りを固めている。それに気付き商業区の方へ向かったとしても、そちらにも約200人の兵力があるはずだ。戦いになれば挟み撃ち状態となり、確実に息の根を止める事が出来るだろう。


 意味がない事かもしれないが、燐達は捕虜にしている騎士兵にディランの行方を問いただした。しかし騎士としての誇りか口を割ることはせず、殺せと何度も言っている。


 無理に口を割らせるには拷問を加えるのが一般的だろうが、誰もそのような事はするつもりがない……カナタを除いては。カナタは持っていた短剣を構えると、一気に手の甲へと振り下ろした。


「ぐわぁぁぁぁぁ!?!?」

「あの男はどこ?」

「答えぬ……。ぐぅっ!?うっ、ぁぁぁぁあああ!!!!」


 カナタは突き刺した短剣を一気に抜き上げ、もう片方の手の甲に突き刺した。そしてもう一度抜くと、流れるまま耳に刃を置き、それを切り落とした。


 痛みと出血で顔を歪める騎士に追い討ちをかけるべく、カナタの持つ刃が反対の耳に添えられる。


「わ、わかった!!言う!!言うから止めてくれ!!」


 カナタは笑顔を浮かべると、もう片方の耳もばっさりと切り落とした。地面には2つの耳だったものが転がり、それを踏みつける。


「あんた達はあの子達にこんな事をしてきたんだよ……。まだ私の気は納まらないけど、あの男の居場所を知っているなら直ぐに教えなさい」

「ディラン様は、とある親子を探しにきたんだ。名は確かアリアとキャロル……。私が知っているのはそれだけだ……」


 燐とカナタがお互いに頷き合い、瀕死の騎士達は部下に任せ城へと向かう。何もない事を祈りながら、燐とカナタは走り始めた。

いつも読んで下さり有難うございます。

感想・意見・誤字報告ありがとうございます。


土曜日です!!

今日は7月8日です!!

毎日何かの記念日とか○○の日なんですが~

今日は那覇の日とか、ナンパの日とからしい

……です!!


それでは次回更新でまたお会いしましょう。

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