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無慈悲な侵略者

「お疲れ様です、燐様」


 燐が魂の抜けたような顔でメリスの元へと戻ってくる。誰の目から見ても満身創痍であることは間違いなかった。


「お兄ちゃんかっこよかったよ!!」

「……ありがとうキャロル。でも俺の精神値はレッドゾーン突入してるよ……」

「???」


 キャロルが燐の言っている意味が分からず、首を傾げる。メリスはなんとなく分かっているのか「とても素敵でしたよ」と茶化してきた。


 最近はメリスにいじられる事がめっきり少なくなっていたので、久しぶりの追撃に頭を抱えうずくまりたい燐。


 それでも、黒歴史の1つや2つなんだって言うんだと燐は心を落ち着けるために城を見上げた。そこには、いつのまにか姿をくらましていたセイラの姿が見える。


 セイラは燐の視線に気付き、面白いものを見せてもらったわっと口元を手で押さえ笑う仕草をした。燐の精神値がガリガリと削られ、戦いが始まる前に悶絶死するかもしれない。


 そこへエルディアが空から舞い降りて来ると、いつも通り光を放ち人型の姿になる。


「エルディアさんも……俺の事を笑い者にしにきてくれたのかな?」


 燐が少し皮肉を込めて、目の前のエルディアに向かって言葉を投げかけた。燐に謎の言葉を投げかけられたエルディアはよくわからないと言う感じで疑問符を浮かべる。


 そしてエルディアは、そんな事態ではないと報告を始めた。


 どうやら、敵の勢いは激しく数人の捕獲には成功したが、解呪されるのも時間の問題だと言う事である。


 ただこちらも準備は整っていた。急ぎメリスと燐が軍を二分し片方は敵陣へ、もう片方は城と商業区の守りへと回した。


 恐らく、全てを食い止める事は不可能。間違いなく避難場所へと脅威が訪れるのは明らかだった。


「……っという感じで向かえ討ちましょう」

「私もそれで問題ないと思います。燐さん、指揮をお願いします」

「わかりました!!」


 燐率いる軍が敵陣へと向かう。そこへエルディアが駆け寄り共に戦うと言ってくれたが、メリスを守って欲しいと燐が伝えると、納得して戻って行った。


 メリス達の事はエルディアと兵士の皆に任せ、燐は隊列を組み一直線に敵陣へと向かう。


 そして、その時がやって来た。燐率いる戦闘軍総勢600名、それに対峙する侵略者総勢350名。にらみ合うも、始めに仕掛けたのはシャークリア側だった。


「弓兵前へ!!」

「はっ!!我が放つは 神速の矢 光纏いて敵を穿て “神弓の雨”」

「我が放つは 歴戦の矢 偉大な英霊よ 顕現し全てを奪いされ “万軍の射手”」


 真っ直ぐに放たれた神速の光の矢が敵に襲い掛かる。その後ろから、空を埋め尽くす程の矢の壁が襲い掛かる。


 これが魔法を使えない相手ならば勝利は確定していたはずだ。本当に魔法が使えないただの蛮族であるならばよかったと思う。


 敵は何人かの黒装束の兵を盾にして詠唱する時間を稼ぐと、負傷した仲間共々、炎の壁を立ち上らせ対抗してきた。


 戦いである以上、こちらも殺す気で魔法を行使しているが、それとこれとは話が別だ。回復魔法やポーションを使えば回復する者もいるはずなのに。


 それに、使い捨てにするには彼等の戦力は低くない。エルディアの話では賢者レベルの使い手だと言っていたはずなのにだ。


 燐は腑に落ちない何かを感じながらも、カナタ指示の元、攻撃を続ける。確かに炎の壁を越えて、確実に魔法の矢を命中させていくものの、致命傷を負わすのは難しい。


 敵も魔法で応戦してくるのも攻めあぐねている要因の一つでもある。魔法の応戦程度ならば、歩兵が攻め入るのだが、炎の壁が消えない。


 既に3分は経っているというのに、勢いが弱まっているだけだからだ。意を決して、あそこに飛び込むのも、仲間もろとも灰にした威力を見れば危険である。


「燐様。あれは恐らく、炎帝の盾だと思われます。私達の中にも、同じ魔法を使える者が数人いますので間違いないかと」

「……あとどれ位で消える?」

「わかりません。あれは数人で行う事で初めて使える、大規模魔法。同じ事をこちらが行使しても、1分と持ちません……」


 燐の不安は半分的中しようとしている。彼らは異常だ。既にその魔力量は人族としてずば抜けていると言われていた燐の魔力量を大きく超えている。


 例で例えるとこうだ、通常の魔術師の力を1とする時、燐の魔力量はその50倍を誇る。賢者と言われる存在でも5と言った所が限界だ。


 燐の保有魔力量は、この国を覆う結界を維持しているメリスにも引けを取らない。この世界に住まう全ての種族の中でというのならば兎も角、人族の中で燐は魔人と恐れられていいような存在なのだ。


 敵が放つ魔法は燐が試したことがある物も多く、逆算すると相手の魔力量は3倍近く……いや、使い切っていないのだから、それ以上だと言う事になる。


 それでも炎帝の盾が消失し始めた。5分以上も燃え盛り敵の姿を隠していた炎の壁が、あと少しで消え去ろうとしている。


「全軍後退!!所定の位置まで下がれ!!」

「はい!!!」


 こちらから敵の正確な位置を把握できないと言う事は、相手からもこちらの姿が視認出来ないという事だ。ならば、姿が露らになった時こそ攻撃のチャンスなのはどちらも同じ。


 燐は歩兵を突っ込ませようという作戦も考えていたが、炎の壁が消え倒れた黒装束の兵士の後ろには、同じ黒装束の兵士達が腕を伸ばし火球を浮かべている姿を確認して作戦を変更する。


 燐の居た場所より後方に下がったシャークリア軍と火球が放たれるのは、ほぼ同時だった。火球が迫り、眼前3mほどの所でそれは霧散する。


 よく見るとシャボン玉のような膜に覆わていて、殺意を持って放たれた火球は全てシャークリア軍に届くことはなかった。


「なんとか間に合ったか……」

「燐……これは、なんだい?魔法?」


 カナタが不思議そうな顔をしつつ、今起こっている状況の説明を燐に求めた。エルディアの事は詳しく言えないので、魔法障壁とだけ言う。


 ただ知られている魔法障壁という物は、肉体強化の様に魔力を身に纏うのが普通である。慣れた者は自身の目の前に不可視の壁を作ることが出来るが、非効率であり炎帝の盾の様に既存の魔法を使ったほうが効率が良いのだ。


 それを燐は数百人単位をドーム状の魔法障壁で包み込むという異常な事をしている。しかしこれは燐の力などではなく、かつてドールタークを守っていた魔法障壁の簡易版なのだ。


 理論はともかく、術者が魔力を注いでいる間だけ発生させられる障壁な上、魔法攻撃しか防ぐ事が出来ない代物である。


「攻撃が止んだ今が好機です!!歩兵!!」

「はいっ!!はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 燐の合図と共に魔法剣を装備した歩兵が敵陣へと駆ける。敵はまた疲労している兵を盾にし、反撃に備えるようだ。


 だが遅い。魔法詠唱している間に足の速い者が敵陣へと突っ込む。特攻隊長のごとく、炎を纏った剣を振るい次々と黒装束の兵を薙ぎ倒していく。


 敵陣に乗り込んだ数人に対して、火球に交じり氷柱が乱れ舞う。どうやら同士討ちしても構わないというスタイルらしく、その爆風をもろに受け20名近くが弾き飛ばされた。


「衛生班!!負傷者を連れ出して、回復を!!動ける者は弓兵の後ろに避難!!」

「わかりました!!」

「こっちは火傷が酷い!!はやく!!」


 あっと言う間に、血の匂いと肉の焦げる匂いが充満する。見た限り、さっきの爆発で数名は即死しただろう。


「貴様ら、何をしている!!私の顔に泥を塗るつもりか!!こんな女子供みたいなやつらに何をしている!!殺し尽くせ!!」


 相手の将と思われる男から怒声が投げかけられる。その声を聞き、膝を付く仲間ごと風の刃を放つ黒装束の集団。


 風の刃が黒装束の者達を四散させながら、迫り来る。ただでさえ視認出来ない風の刃が、死角から放たれるのだ、全て避ける事は不可能だった。


「やばいよ燐……あいつら無茶苦茶だ。こんなのは戦いじゃない!!」


 怒りを露にしているのは、燐の傍で戦況を分析しているカナタである。カナタは非人道的なやつらに怒りを覚え、強く握った拳からは血が滴り落ちていた。


 確かに敵の数は減っているのは確かだ。けれど三分の一は自滅というか、都合のいい使い捨ての道具として殺されている現状である。


 戦いは既に始まってしまった。情けをかける訳ではないが、余りにも残酷なやり方にシャークリア軍の戦意はがれ、危険と感じた燐は一旦兵を下げる。


 現在の戦果、敵勢力約100名死亡。自勢力約50名死亡、100名以上が戦闘不能及び治療中。

いつも読んで下さり有難うございます。

感想・意見・誤字報告ありがとうございます。


時間が経つのは早いですね……。

1週間が早く過ぎるのはいいんですけど

やることがいっぱいで困りますね(汗

さぁ 今日も元気に頑張りましょう!!


それでは次回更新でまたお会いしましょう。

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