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儀式

 見学を切り上げた燐は1時間程して女王の間の扉の前に立っていた。豪華な芸術品の扉を前にしても2度目ともなると緊張なんてしない……訳がない。


 それでも緊張をほぐすべく燐が深呼吸をしていると、音もなく両開きの扉がゆっくりと開いていく。意を決して中へと足を踏み入れた燐は、昨日とはまた趣の違う藍色と白色を基調としたドレスで着飾ったメリスが真っ先に飛び込んできた。


 よく周りを見てみると、メリスの後ろには護衛か侍女かは分からないが4人程控えている。それに記憶の片隅にかすかに覚えのある物が女王の間でぷかぷかと浮いていた。それは大きなシャボン玉のような物で、今更ながらその存在を認識する。


「ほぉー……」


 そんな女王の間でメリスを見た率直な感想は水を司る女神がそこにいるのかと思ったほどだ。そんなメリスを燐はじっと見つめ、幻想的な雰囲気と相まって見惚れてしまっていた。


 あまりにも燐が女王の間へと入ってきてから微動だにしないので、メリスが先に挨拶をしてくれる。朝の挨拶とわざわざ出向いてもらった事への感謝の言葉だ。


「俺の……私の方こそ部屋まで用意して下さりありがとうございます。本来ならば私から御礼の言葉を差し上げるべきでしたのに、遅くなり失礼いたしました」

「燐様。そんな固くならずに我が家だと思って楽にしてかまわないのですよ。これは正式な式典や面会の場ではないのですから」

「それでしたら私の事も様付けでなく燐と呼んで頂けますか?」

「燐さ……。そうですね……燐さんとお呼び致しますわ」


 燐としても好きに呼んでくれて構わないのだが、さすがに様付けとなると体が痒くなってしまう。2人それぞれが照れた空気を作るので、のほほんとした時間が永遠に続きそうな感じがして燐は話を先に進め始める。


「ところで俺は……何を話せばいいんですか?」

「そうでした、そうでした!! 燐さんはこの後どうするか決まっていますか? もう元の世界に帰るのでしょうか?」

「俺も帰りたいのは山々なのですが帰り方がわかりませんし、もう少しこの世界を見て回りたいと思います」


 帰り方がわからない以上これと言った目的がない燐はこの世界を見て回りたいという事を希望した。食料は果物や魚を釣って食べればいいと考えていたのだが、どうやらメリスはお人好しの部類に入るらしい。


 どこの馬の骨ともしれない燐にびっくりするくらいの高待遇の条件を並べてくれたのだ。


「それでしたら泊まられた部屋は余っていますので、好きに使って下さい。足りないものや食事をしたいときはリアに言ってくれれば準備してくれると思いますので」

「えっ。さすがにそれは悪いですよ!!」

「気にしないで下さい。私が好きでやっていることですので。それにこの国の女王は私ですよ?」

「わかりました。ありがとうございます」


 一応寝る場所と食事の心配は無くなった。だからこそなのか、心に余裕が持てたお陰で少し気になる事が燐の頭に浮かぶ。


 それは大した事ではないのだが、妖精の国だというのに燐が寝ていた部屋の装飾品や家具のサイズについてだ。手のひらに乗るような子もいれば、大きい子でも高校生かどうかという程度の子達しかいない事との矛盾である。


 その子達に比べて燐は一般的な男性として、彼女らと比べたらそれなりの身長差はある。それなのにベッドの長さやドアや窓の大きさも燐が使うには問題なかったことだ。


「あの部屋は客室って事は妖精以外にもここに来るんですね」

「勿論です。ですが使用頻度は極めて稀ですのでご心配なく」


 燐は他にも人が来るんだなと呟くと、メリスはどこか悲しそうな目をして人族はこないと言った。忘れそうになっていたが、あまりいい関係ではないという事実も思い出す。


 この世界の妖精と人間が不仲なのは理解できるが、それならば何故燐はこんなに高待遇を受けているのかも謎である。それに加え監視付きであったり軟禁状態にあるわけでもない事も変な話だ。


 燐がこの世界の情勢を考えていると、質問したりしたことからメリスは燐の考えている事を理解し少しだけ意地悪な事を言い出した。


「正直、燐さんが何をしでかすか気が気で眠れませんでした。粗雑な対応をして暴れられたらどうしようかと」

「へっ!?」


 燐が間の抜けた返事をすると、メリスはクスクスと笑いながら冗談であると言う。しかし燐にとっては一瞬で心臓を握られたような感じがしてドクンドクンと心臓を高鳴らせた。 


 まさか不意打ちでダイレクトに不安さんにダメージを与えてくるとは思わなかった燐の精神的ダメージは計り知れない。


「冗談はさておき、燐さんは魔法とか使えますか?」


 冗談の次は唐突な質問にびっくりした燐だったが、魔法というものは架空の現象で元いた世界では物語の中だけの話だと伝える。


 そんな説明を聞き少し考え込んでいたメリスだったが燐にとっては嬉しい提案をしてきた。


「魔法……使ってみたくはありませんか?」

「えっ、俺にも使えるですか!?」

「絶対ではありませんが使えると思います。この世界に生きているものは神々や精霊と言った存在にこの世界に生まれ出た時祝福を受けます。それは人であろうと動物であろうとも例外はありません。ですが燐さんは別の世界から来たので、そういう祝福をまだ受けていない様なのです」


 メリスは燐の返事を聞く前に「宜しければ私が儀式を行い、祝福を授けますよ」と言ってくれる。燐は魔法という未知の存在に興味津々で是非にとお願いした。


「それで、儀式って何をするんですか?」

「説明する程のものじゃありませんわ。準備さえ整えばすぐに終わりますもの」


 どうやら燐自身が特別な事をするわけではないらしが、儀式の前に身を清めておいてほしいという事だけはお願いされた。


「それでは今から準備を致しますので、燐さんも準備お願いしますね」


 メリスが近くの侍女を呼び燐を案内するようにお願いすると、一礼して燐の下へとやってきた。そして案内されるがまま浴場に到着し、お世話をさせていただくと言われたが燐は恥ずかしいので丁重にお断りする。


 しかし浴場からは出て行かず入り口の所で待機されてしまい燐は落ち着かないので浴場の奥へ奥へと進んでいく。


 侍女の姿が湯気で見えなくなったので燐は改めて浴場の作りを確認する。全体的に白い石で作られており、大理石の浴場といった感じである。


 しかし壁を伝い天井へと伸びる木の枝か根っこを見ると、ここがあの巨大な木の中であることは間違いないようだ。それに入浴してから気になっていた花の良い香りはお湯からしている事も判明する。


 燐は一旦湯船から出ると体を軽く洗い流し、再度湯船に入ると更に奥へと進む。中央付近までいくと騎士服を纏った妖精の像が建っていた。その雄雄しき姿はワルキューレを彷彿とさせる。


 燐はその像をもっと近くで見るべく近づいてみると、土台部分からお湯が湧き出している事に気がついた。ここが何階にあたるかはわからないが、当たり前のようにこぽこぽと音を立ててお湯が湧き出してくる様は不思議なものである。


 不思議ではあるが考えたところで憶測の域を出ないので、気持ちがいい風呂だし燐はあまり気にしない事にした。


「はぁー……生き返るな……。こんな風呂があるんだったら昨日も入ればよかったなぁー……」

「燐様! 儀式の準備が整いましたのでもうそろそろ上がって頂けますか?」

「……わかりました!!」


 日本人としては、もう少し浸かっていたかったのだがリアがわざわざ呼びに来てくれたのだから上がるしかない。名残惜しいが、ゆっくりと石像のあった場所を離れ脱衣所へと向う。


 脱衣所が近づくにつれ、侍女やリアの姿が見え始める。燐は本当に名残惜しそうに湯船から上がるのでリアに「ここは儀式用ですが、ちゃんと大きなお風呂がありますので今夜の楽しみにでもしておいてください」と笑われてしまう。


 燐は照れくさそうに脱衣所に向かい渡されたタオルで体を拭いた。そして燐は着ていた服がない事に気づき探していると、リアがこちらをと衣類を手渡してくる。


 衣類に目を落とすと全体的に緑を基調としていて、上着の胸元には大きめのリボンがあしらわれていた。肩の部分もティアード・スリーブ状になっており少々着るには気恥ずかしい衣装である。シャツも乳白色の物で確かにかわいいのだが……。


「自分の服じゃダメかな?」

「よくお似合いだと思いますよ」


 どうやらダメなようだ。しかたがなく燐は渡された服を着ると、確かに着心地はすごくいいのだがこんな姿友達には、ましてや羚には見せられない姿である。


 燐はここに羚がいると想定してみたら、腹を抱えて笑っている姿しか想像できなかった。ただ着てしまえば着心地はいいので、そこまで嫌じゃない。複雑そうな顔をしているが燐は内心では楽しんでいるのだ。


 渡された全ての衣装に身を包んだ燐はリアに感想を聞いてみると、お世辞かもしれないが似合っていると言ってくれた。それでも燐は褒められて顔がほんのり紅く染まっている事に気づき、その表情を隠すために足早に女王の間へと向う。


「お待たせしました」

「準備はもう出来ていますよ。どうぞこちらへ」


 出て行った時と別段変わった所はないようだが、水の入った台座と空の台座が置かれていた。一応ここに来るまでに簡単な説明はリアから聞いている。


 準備万端で儀式が始まると、まずはメリスが何やら言葉を紡ぎ始めるが燐には何語なのか理解できない。今まで普通に会話ができていたので言葉は通じる物だとおもっていたが、必ずしもそうではないようだ。


 燐はメリスが紡ぐ言葉なのか音なのかわからない歌を聴きながら、ただ呆然と儀式の進行を見守っている。


 そして歌だったのか祝詞だったのかわからない祈りらしきものが終わると、メリスがそっと手をこちらに伸ばしてくる。燐はリアに教えられた通りに片足をつき頭を垂れ口上を述べ始めた。


「名を八神燐。メリスの名のもと我が魂を持って万物が神々・精霊に誓い奉る。我が魂が朽ち果てようと全ての恵みに感謝し研鑽けんさんを深めより良き行いをすると宣誓する。願わくば我に大いなる祝福加護の光を……」


 教えられた通りに祝詞を捧げると、燐の体がわずかに発光を始めすぐに消えていく。あまりにも一瞬の事だったので、燐はこれで終わりなのだろうかと首を傾げる。特に魔力ちからを得た感覚はないので、ダメだったのだろうかと燐はメリスを見た。


「燐さん、あとはこの台座の中の妖精樹液フェリクアを手ですくって空の台座に移して下さい」


 燐は言われた通りそっと手をいれて、妖精樹液フェリクアをすくうと隣に並べられた空の台座に移し変える。移し変えた妖精樹液は、すぐに無くなりまた空の台座へと戻ってしまう。どうやらこれで儀式終了のようだ。


「燐さんお疲れ様でした。これで儀式は終了となります」

「こ、これで終わりですか?別段何も変わった感じはしませんけど、これで俺も魔法が使える?」

「ちょっとだけ待ってください。私の力は守護や加護を与えること以外にも他の者の資質や能力を見極める事も出来ますので」


 メリスが目を閉じ少しすると体が淡く発光し始めた。緑光色に輝くメリスを見つめながら燐は期待に胸を躍らせつつ1分程眺めていたが、相当待ち遠しいのか目がキラキラと輝いてまるで少年のようである。


 じーっと燐がメリスを見つめていると、ゆっくりと閉じていた眼を開けていく。


「おまたせしました。燐さんの現在の資質はこんな感じになります。魔法で数値化しますのでこちらへどうぞ」


====================================

名前:八坂 燐 年齢:23歳 性別:男 レベル:1

加護属性:火

固有魔法:創造主クリエイター

体力:500

物攻:500

物耐:500

魔力:300

魔耐:300

敏捷:300

特技・技能:宝物庫

      創作魔法

====================================


 燐はメリスの前に浮かび上がったSFでよく見る、ホログラム映像の様な物を見た。名前・年齢・性別と順に見ていきそこに書かれている事に心が躍る。


 属性は火で固有魔法というものが使えるらしい事は燐にも理解できた。しかし能力値はよくわからないので、どうなんだろうかと首を傾げる。


 最後まで一通り見て浮かんでいる映像から燐は顔を離した。するとそのホログラムの様な物も、音も無く消えていく。


「どうでしたか?」

「ええ、よくは分からないけど魔法は使えるみたいです!」

「もちろん練習や知識が必要になりますが、燐さんならきっと大丈夫ですよ」

「はい!!」


 燐ははやく魔法が使いたいと言う気持ちが行動に出てしまい、片手を真っ直ぐに伸ばしたり両手を上に上げたりしてしまう。燐は浮かれてまくっている自分自身の行動に気がつき、照れながらメリスの方を振り向くと彼女は優しく微笑んでくれた。


 この世界でまた1つ前進したが、これから起こる前途多難な運命を彼はまだ知らない。そう、人生で一番長く一番大切な生活がここから始まる。

いつも読んで下さり有難うございます。

感想・意見・誤字報告ありがとうございます。


ついに燐が魔法(?)を習得しました。

少しづつ進展していきますのでこれからも読んでくれたらうれしいです。

ステータス表記については、見にくいと思うのでおそらく変更します。


それでは次回更新でまたお会いしましょう。


※改稿致しました。

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