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平穏のカケラ

 燐はセイラを追いかけている。しかし、絵面的には非常に宜しくない光景でもあった。


 なぜならば、裸のセイラを裸の燐が追いかけているという構図なのだから当たり前だ。それでも2人はお構いなしにおいかけっこを続ける。


 そんなやりとりを続けること数分、やっと燐が裸で追い回している事を客観的に自覚する。燐は走りながら、タオルを巻きつけセイラに呼びかける。


「セイラ、もうおいかっけっこはやめよう。よく自分の姿を見てみろって!!」

「何よ!! どうせ、私はみんなと違って子供体型よ!!」

「いやっ!! そうじゃなくて、服!! 服!!」

「えっ……」


 頭に血が上っていたセイラもやっと、裸で飛び跳ねていた自身に気付き、ゆっくりと羽を羽ばたかせ降りて来る。


 そんなセイラに燐はバスタオルを掛けてやり、頭をなでてやる。


 普段であれば子供扱いしないでと怒鳴られる事もあるが、今はそれどころではない様子だった。顔を真っ赤にしたセイラは、言葉を一言も発さず下を俯いている。


 そのまま、脱衣所にとぼとぼと向かうセイラの姿は歴戦のボクサーが敗北に肩を落としている様であった。


 それでも問題ないだろうと今度は燐がアリアに丸投げして、食事の準備をする事にした。セイラとのおいかけっこをしていたせいで、プールで遊んでいる妖精の子達がもうそろそろ来てしまう時間なのだ。


 燐は手早く、米をぎ炊き出しにかかる。あとはてんぷらなのだが、ある程度時間が経ったせいで重要なサクサク感が失われつつあった。


 これを普段食べ慣れている人からすれば、出来合いの物でもそれなりに満足できるのだが、せっかく始めて食べてもらうのだから美味しい物を食べて欲しいと思うのが作り手というものだろう。


 燐は2度揚げしてもいいかとは思ったのだが、フライパンで焼く手法を選んだ。これならば経済的だし、なにより手軽だ。


 さっそく燐が準備を進めていると、脱衣所の方から心地よい騒がしい声が聞こえてくる。忘れていたわけではないのだが、セイラはあの後出てこなかったので燐は若干心配していた。


 そんな燐の思いとは裏腹に一番に扉を開け放ったのはセイラだった。セイラは燐を鋭い視線で射抜き、燐お手元を見ている。


「私の分もあるんでしょうね? なかったら、許さないわよ?」

「ん? あぁ、大丈夫。いっぱい作ったから平気……」

「あっ、そう」


 燐はビクビクしながらセイラに受け答えした。当のセイラは、椅子にどっしりと腰掛けじーっと燐の背中を見つめている。


 もうすぐ、燐の背中に穴でも開くんじゃないかと思い出した所で脱衣所から第2陣がやってきた。キャロルが妖精達と手をつないで、戻ってくる。その後ろからゆっくりとアリアが顔を覗かせていた。


 だいぶ広い作りにしているといっても、7人もいれば少しは手狭に感じてしまう。そんな大家族のような空間に燐の声が響く。


「もうすぐ出来るから、セイラと……妖精3人組。テーブルについてまっていてくれ」

「「「は~い」」」

「もう座ってるじゃない」


 セイラの憎まれ口とは裏腹に妖精の子達は元気な返事をしてくれた。いろんな意味で燐はくすりと笑い、準備に取り掛かる。


 どうやらお米もふっくらと炊けたようで、甘い匂いを拡散させながら白煙を立ちのぼらせた。ゆっくりとかき混ぜながら、燐は出来具合を確認していく。


 問題無さそうなので、燐は丼にご飯をよそいその上に熱々のてんぷらを乗せる。その上からつゆをかけてやると、天丼の完成だ。


 燐はそれらを2つづつ両手に持って、配膳していく。


「おまたせ。どうぞ、食べてみてよ」

「はい!!」

「相変わらずおいしそうね……。これは?」

「それは白身魚を開いて揚げたものだよ」


 セイラは成程と頷きつつ、一口頬張る。口の中にふわふわの食感と甘いつゆとが絡まって、なんとも言えない幸福感が襲う。


 本当はご飯と一緒に食べるのだが、セイラはそれを食べきってしまった。勿論山菜のてんぷらも美味しいのだが、ある意味メインディッシュなので少し見た目が寂しくなる。


「セイラ、まだあるけど……いる?」

「いれて!!」


 セイラがどんぶりを突き出したので、燐はそっと2枚目の白身魚のてんぷらを乗せてあげた。当然、つゆも大量にあるのでかけてやる。


「セイラ様ずるい!! 燐様、燐様? 私達にも頂けないでしょうか?」

「んっ? あぁ、いいよ」


 燐がセイラと遣り取りしている間に、3人が燐の隣にどんぶりを持って並んでいた。燐は順番に1匹づつ乗せてやると満足そうに自分の席へと戻っていく。


 そんな様子をアリアとキャロルが見つめていた。なんとなく燐は恥ずかしくなり、二人にあるものを手渡した。


 乳白色をした何かが小さな器に入っていて、スプーンが添えられている。アリアとキャロルが同時に何だろうと、スプーンを片手につついている。


「それは、プリンと言って甘いお菓子です。牛乳と砂糖と卵があれば簡単に作れるので、よかったら後で作り方教えますね」

「プリンって言うんですね……あむっ……うわぁー、凄く甘いです。ミルクセーキに似てますね」

「材料一緒ですからね」


 燐はそりゃそうだと言わんばかりのポーズで答える。キャロルはまた新しい食感に言葉が見当たらないようだった。


 アリアも食べたことないはずなのだが、別段疑問を持ってないようにみえる。本当はそう見えるだけで、かなり気に入ってるのだが。


 本当は冷たい方が美味しいのかもしれないが、温かいままでも美味しいので問題はないだろう。勿論プリンも人数分以上作ってあるのだが、一部で取り合いが起こりそうなので秘密にしておく。


「私達にもそれちょうだい!!」

「天丼の後にプリン……。変な食べ合わせだな」

「「「「……」」」」


 8つの目が今か今かとプリンの登場を待っているご様子だったので、燐はアリアとキャロルに食べてもらったのと同じ様に荒熱を取ったばかりのプリンを手渡す。


 初めはやはり、スプーンでつついてその感触を確かめていたのだが、すーっとスプーンでそれを掬い口に入るとあっという間にカップを空にしていく。


 燐は満足そうな皆をみて、エルディアがいない事に気づき探してみる。辺りを見渡すもエルディアの姿がないので、まだ露天風呂にいるのだろうかと燐は心配になった。


 のぼせている可能性がないわけではないが、なんとなく様子を見に行く足取りは重かった。ところがそれに気がついたキャロルが燐に話しかけてくる。


「エルお姉ちゃんを探しているの?」

「エルお姉ちゃん? あぁ、エルディアさんの事か。そうなんだ、まだお風呂に入っているのかな……」

「ちょっと前に、どこかに出かけていったよ?」


 キャロルが教えてくれた事に、燐はビックリしていた。浴場から外に出るには必ず、今いるダイニングキッチンを横切らないといけない。それなのに、燐は一切気づかなかったのだ。


 別に好きな所へ行ってかまわないのだが、一言くらいかけてくれてもいいのにと燐は思う。


 窓の外を見るとだいぶ日が落ちてきていたので、燐は少し心配ではあったがエルディアなら大丈夫だという確信もあった。


 何かあってもエルディアの力があれば、大抵の事はそよ風のごとく受け流してしまうだろう。問題があるとすればコミュニケーション能力が低いというか、よく言えば孤高の存在といった感じだ。


 あれは何千年の間、誰とも話していなかったせいではなく元来の性格なのだろうと燐は思っていた。それでも、エルディアの良さをわかる人は確かにいる。


「さて、今日は寝るとしますか」

「え? もう寝てしまうのですか? はやいんですね」

「さすがに疲れてしまって……アリアさんはどうしますか?」


 燐の質問にアリアは指をアゴに当て少し考えると、せっかくなのでみんなで寝ようと提案してきた。


 燐としては寝るつもりだったので問題はないのだが、すぐには寝られないなと覚悟を決める。せっかくなので、妖精の3人組も泊まっていけばと誘ってみた。


「いえ、さすがにそこまでしてもらうのはちょっと……。女王陛下にも報告をしないといけないですし……」

「んー……。それじゃあ、報告の件は俺がメリスに言っておくから泊まっていけばいいよ。部屋はいくらでも余ってるんだからさ。それと朝ごはんも、いい物作ってあげるからさ」

「泊まらせて頂きます!!」


 光よりも早い即答でお泊り会は決定する。燐はあえてセイラには聞かなかったが、何度も泊まっているので確認は必要ないだろう。


 そしてこれから長く騒がしい一夜の幕が上がる。そして翌日に茶色い悪魔、もといパンケーキを燐は大量に焼かされる事になるのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

感想・意見・誤字報告ありがとうございます。


今日も雨が降っていて、梅雨らしくなりましたね。

気温は下がっておるみたいですから、じめじめして

やっぱり暑いです……。

湿気に負けずに頑張りましょう!!


それでは次回更新でまたお会いしましょう。

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