新しい明日
体調を崩したり忙しかったりと1週間休養致しました。
待ち遠しいと言って下さった方々ありがとうございます。
これからも頑張ります!!
「――ますか」
「――しゃいますか?」
燐の耳に声が届く。誰かはわからないが最近聞いたことがある声にぼんやりと声の主の招待を探る。とりあえず誰の声かはともかく、それが女の子の声だという事までは理解出来た。
しかし寝ぼけているせいか『何故俺の家に女の子がいるんだ?』と思いつつ燐は重たい瞼を持ち上げていく。
そこには見知らぬ天井が……。燐は目が覚めたばかりだというのに『そうか俺もついに大人の仲間入りか』とお約束な事を考えながら、ゆっくりと体を起こした。
ゆっくりとだが頭が正常に働きだし、昨日の出来事を一気に思い出す。ここが妖精の国で女王メリスの城にある客室だという事をだ。そんな部屋に燐は厚意で一晩泊めてもらえる事になって今に至る。
「おはようございます燐様。お目覚めでしょうか?」
意識がはっきりしてくると外から聞こえる声が幻聴ではないと分かり返事を返す。おそらく昨晩この部屋に案内してくれた子だろうと燐は思ったからだ。
「あ、あぁ。今起きたところです」
「お食事をお持ちしたのですが、入っても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
ガチャリと音を立てドアがゆっくりと開いていく。ドアが開ききるとやはり昨日案内してくれた子が見慣れたサービスワゴンの上に色鮮やかな何かを載せゆっくりと入ってきた。
「おはようございます。昨晩はよくお休みになれましたか?」
「よく眠れたよ。ありがとう」
「いえいえ、私は何もしていません。御礼でしたら女王様にでも言ってあげてください」
「勿論メリスにも言うよ。でも君にも迷惑かけちゃったみたいだし」
「?」
そうなのだ。昨晩燐はこの子に軽食を頼んでおいて熟睡してしまったのである。なんとなくだが声をかけられた覚えもあるし、もしかしたら何度か部屋に来てくれたのかもしれない。そう思うとこの子にもお礼を言うのは人として当たり前の事だと思った。
仕事なのかもしれないが、燐は優しい子なんだろうなと笑顔で見つめていたら、少し照れたのか頬を薄っすらと朱色に染め顔を俯かせる。その反応を見て、あんまり見つめるのもどうかと思い燐は部屋の中へと彼女を通した。
「昨晩もしかして、何度か食事を持ってきてくれなかった?」
「はい。返事がなかったのでお疲れなのかと思い3度程声を掛けた後は自室で待機しておりました」
「もしかして寝てないとか?」
「確かに寝てはおりませんが、休ませてはいただいておりましたので大丈夫ですよ」
真っ先に謝ろうとした燐だったが「問題ありません」と笑顔で返されると、ありがとうとしか言えなかった。
それによく見ると運んできてくれた食事は、朝食にしてはあまりにも量が多い事がわかる。どう見ても1人どころか2・3人食べれそうな量を積み上げてきているのだ。恐らく昨日食べていない事を考えて多めに持って来てくれたのだろう。
やっぱりこの子は気が利く優しい子なのだと燐は、まだ覚醒しきれていない頭でそう感じていた。
せっかく持ってきてくれたので、燐は改めて運んできた物に目をやると、色や形が様々な果物が積み上げられており異世界である事は夢でも妄想でもない事を再認識させられる。
ただ見た目が多少違うだけで、南国の果物のような甘い香りが燐の鼻腔を刺激し目覚めたばかりだと言うのに腹の虫をきゅーっと鳴かせた。どれもこれも見覚えのない物ばかりではあるが、匂いだけでとてもおいしそうである事が分かる。
中には林檎っぽいものや桃みたいなものも確かにあるのだが、漂ってくる強い甘い香りからすると別物である事は確かだった。燐はそれらの果物を物珍しそうに見つめていると、運んできた彼女が台の下から果物ナイフを取り出し果物に刃を当てる。
「それではお切り致しますね」
「お願いします」
積み上げられた果物が素晴しいナイフ捌きで手際よく次々と皮むきやカットしていく彼女を見つめていると、あっという間に皿の上にはフルーツ盛りが出来上がっていた。時間にして5分も掛かっていないというのに、恐ろしい手際の良さである。
折角なので燐はそばにあったフォークを使い、遠慮なく盛られた果物の1つを適当に突き刺し口へと運んでいく。見た目はともかく味は見知った感じだったのだが、糖度がまるで違っていた。
燐はこんなにもおいしい果物がこの世に存在するのかと思う程の衝撃を受け、色や見た目が怪しかった物までどんどん腹の中に収めていく。お腹いっぱいになるまで果物を食べたのなんて、燐にとってもこれが初めて経験だった。
そして一人では到底食べきれないと思っていたフルーツ盛りをぺろりと平らげてしまい、お腹はいっぱいなのにまだ食べたいという欲求が込み上げてくる。
「すごくおしかったです。ありがとう」
「いえ。満足していただけたのならよかったです」
「君たちは毎日こんなにおいしい物を食べているの?」
燐は毎日こんなものが食べられるのなら幸せだなと感じ、率直な疑問を聞いてみた。
「そうですね……毎日とはいいませんが毎日食べれますよ。ここに来る途中、月灯り通りを通ってきませんでしたか? 特にあそこには毎日様々な成熟した実が実るんですよ」
「それはすごい!!」
毎日実るなんてさすが異世界だと感心しつつ、燐も1本そんな木が欲しいなと本気で思ってしまうほどである。ただあそこは神聖視されてると言っていたので、勝手に折ったり持っていったりしたら今度こそ牢獄への階段を降りる事になるだろう。
それでもここに滞在している限りは食べ放題だなと燐は内心ほくそ笑んでいた。
食事を済ませた燐は朝の時間を有意義に使うにはどうしたらいいか考えてみる。さすがに朝早くからメリスの所に行くのも失礼にあたるだろうし、問題なければ散策させてもらえないか考えた。
誰に聞けばいいかは分らないが、今聞ける相手は目の前の彼女だけなので勝手に出歩きたいというのは不安だったので案内をしてほしい旨を伝えてみる。
「案内ですか? それなら是非私が、いろいろ紹介致しますわ」
意外にも是非にと言うので、燐は心の中でガッツポーズを決め何があるんだろうと妄想を膨らませていく。それに案内をしてもらった方が助かるし、迷う自信が大いにあったのでとても助かることである。
ちなみに案内役を即答で受けてくれた子の名前はリア。そんなリアに案内されるまま燐は城の中を見学し始めた。改めて見て回ると木の中だというのに図書館に食堂に風呂まであり、本当にどうやって作ったんだと疑問がいくつも沸いてくる。
冒険みたいで楽しいし、初めて見るものはどれも興味をそそられる所ばかりなのだ、ただひとつだけ難点がある。それは移動が大変だという事だ。この大樹の1階部分だけでも恐ろしく広いのだが、階層も恐ろしく多い。
例えるなら高層ビルを歩いて最上階まで上がるようなものである。エレベーターやエスカレーターっと言った文明の利器の凄さを燐は改めて再認識する結果となった。
当たり前の物がない世界だったが、燐自身そこまで不自由を感じることは正直なところない。元の世界で名残惜しい事といえば大好きだったオンラインゲームが出来なくなった程度の事だが、リアルファンタジーの世界に来て何を考えてるんだと燐は苦笑する。
見学を続けていると日もだいぶ昇ってきたので散策を切り上げ、燐はメリスに会いに行く事にした。それに、あんまり待たせるのも失礼だろうという考えもなかったわけではない。
「もうそろそろメリスの所に行こうと思うんだが、案内してくれないか?」
「わかりました。では連絡虫を飛ばすので少々お持ち下さい」
そういうとリアは小さな蛍の様な生き物を呼び寄せ、何か呟くとその連絡虫はあっという間にどこかへ飛んでいってしまった。これで大丈夫ですと微笑むリアを見て、燐は姉がいればこんな感じなのかなと考えてしまう。
優しい姉も欲しかったなと思いながら燐はリアに早くいこうと促したのだが、ゆっくりいきましょうと釘を刺されてしまう。
「女性の準備には時間がかかるんですよ?」
「そういうものですか……」
リアが笑いながら燐を嗜めると、足早に向おうとしていた足がとまる。どこの世界でも女性というものは時間がかかるものなのだ。燐なんて身支度に30分も掛からないというのに、女性とは本当に大変である。
ただ時間が掛かると言っても今何階に居るのかもわからない状況であんまりゆっくりしているわけにもいかない。結構歩いたはずなのでゆっくりしすぎて待たせる結果となっては本末転倒なので、キリキリと燐は歩いていく。
場所が分からないのでリアの後を追っていくという形で女王の間を目指している燐はこんな事を考えていた。昨日の様子から何かされる心配は恐らくないというのは分かったが、お姫様とはまるで逆の反応なのが気になっていた。
泊めてもらい、果物も山ほど食べさせてもらい、今は城の中を好き勝手に見学させてもらっている。燐はこれだけ自由にさせてもらえてるのだから捕縛されたりはしないだろうとは思うが都合が良過ぎる展開に不安が拭えないでいた。
これが最後の晩餐なんてオチだけは勘弁願いたいと燐の顔に嫌な汗が浮かび流れる。そこまで考えて悪い方に考えるのは止めにして、前向きに考える事にした。
まずはメリスがどんな話をする気なのかと燐は考えたが答えの出ない疑問を考えるのはすぐ様やめる。予想が出来ない事ばかりで少しだけ不安ではあるが、ゆっくりとメリスの元に向かう燐の足取りはしっかりとしていた。
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
そのうち活動報告も使ったり使わなかったりしようと思います。
それでは次回更新でまたお会いしましょう。
※改稿致しました。