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心の呪縛

 誘拐グループに勝利し追い返す事に成功した燐とキャロルはメリスに報告する為、餅つき会場へと向かう事にした。勿論、瀕死の状態だった子はいつの間にか後ろで様子を窺っていたメリスの配下達に任せ手厚い処置を受けている。


「いつからそこにいたんですか?」

「お恥ずかしい話ですが、あの連中がボロボロの状態で逃げようとした所からです……」


 その隊の隊長らしき人物が申し訳なさそうに燐達に謝罪をする。


「いえ、そんな事ないです。あなた達が来てくれなかったらあの子は死んでいたでしょう。本当に感謝しています」

「そ、そんな!?燐様とキャロル様が居てくれなかったら恐らく私達では返り討ちにあっていたはずです!!ここに辿り着くまでに感じた殺気が……それを証明しています」


 どうやらあの凄まじい殺気を感じ取っていたらしく、不甲斐なさに萎縮してしまっている。それでも、回復魔法をまともに使えない燐とキャロルではあの子を救えなかったのは事実なのだ。


 皆それぞれに支えあって頑張って生きている。当たり前の事なのに、日々を過ごしているとその事を忘れてしまう。それなのに世界の頂点だとか、君臨者だとかに拘り他者を貶め嬲り私利私欲の為に利用する輩が後を絶たない。


 燐は先程の連中を思い出し、苛立ちを露にした。キャロルや目の前の子が心配そうに燐を見つめてくるので苦笑いを浮かべた。


「それと、あそこにいる子達も被害者なのでお願いします。今は人間の俺が行かない方がいいでしょう」

「……わかりました。心遣い感謝します!!」


 これ以上ここに居ると心配を掛けるだけなので、燐は話を切り上げキャロルと共にメリスの元へ向かう。だいぶ体力を使ったせいか、肉体強化をしても最初のような勢いは無い。


 それでも危険が一先ず去った安心感から、燐とキャロルの顔はだらしなく緩んでいる。


 1時間以上掛けてメリスの元へ辿り着いた2人は、起こった事を説明した。最悪死者、良くて数人は連れ攫われると覚悟をしていたメリスにとって、一人の重傷者はいるものの追い返す事に成功した事で燐達に何度も感謝の言葉を送る。


「また燐さんとキャロルちゃんに助けられてしまいましたね……。私はあなた達に何で報いればいいかわかりません」


 メリスの潤んだ瞳からは、今にも涙が零れ落ちそうだった。


「俺達は当然の事をしたまでです。メリスだって、見ず知らずの俺を城に住まわせてくれたじゃないか?」

「私も!!私も皆が助けてくれた……。今はお兄ちゃんが建て直しちゃったけど、メリスは家もくれたよ!!」


 燐もキャロルも元々はメリス達に助けられ、支えられてきたのだ。だからこそ今の自分達がいるんだと、感謝と共にメリスに伝えた。


 言葉にしないと伝わらない事だってある。それは難しい事じゃない……言葉にすれば何かが変わるかもしれない。もし足りないものがあるとすれば勇気だけだ。


「この際だ、そこに隠れているお姫様!!」

「ふぇっ!?ばれてたっ!?」

「あぁ、ばればれだ。セイラも心配だったんだろ?安心しろ、一応みんな無事だ」

「盗み聞きしてたから知ってるわよ。悪かったわよ!!」


 ブツブツ言いながらセイラが木陰から出てくる。燐はそんなセイラの背中を押し皆のいる所へ連れて行く。


 いつの間にかアリアも燐とキャロルの姿を見つけ、話を聞きに会場から戻ってきた。燐はアリアに軽く手を振り安全を知らせる。


 そして燐は唐突にある提案を始めた。セイラにとっては寝耳に水の話で口をパクパクとさせる。


「なぁセイラ。俺は改めて思ったんだ……気持ちは言葉にしないと伝わらない。思いだけがすれ違うのは悲しい事だと俺は思う」

「なななっ!?何を急に言ってるの!?」


 見るからに慌てふためくセイラを燐は優しい眼差しで見つめる。セイラは困ったような泣き出しそうな表情を浮かべ、アリアに助けを求めようとしたが笑顔を返されるだけで助けてはくれないようだ。


 キャロルに目線を移しても、ガッツポーズに小声で頑張ってと言われセイラはどうしようと頭を抱えて悩み始める。


 それは5秒だったか10秒だったか、セイラは顔を挙げ燐・アリア・キャロルと見てメリスに視線を合わせた。


 セイラの口からは「うぅ~……」っという呻き声だけ聞こえてきていたが、開き直ったように声を荒らげる。


「わかった……わかったわ!!おおお、お母様!!私はこれまで……自分の苛立ちを女王と言う立場にあるお母様を感情のけ口としてきました。……ひどい事もたくさん言った」

「はい……」


 セイラは燐に促される結果とはなったが本当の心を開いていく。何年も閉ざされていた心の呪縛が零れ落ちる涙と共にゆっくりと溶け出すのを感じていた。


「でも自分でもわかっていた……それが間違っている事だなんて。それでも、何かにこの感情をぶつけないとおかしくなりそうだった。毎晩夢の中で、目の前で殺されていった子が私に言うの。『なんで助けてくれなかったの?なんであなたは生きているの?私も笑っていたかった』って」


 零れ落ちる涙は勢いを増し、セイラの意思では止める事が出来なくなっていく。


 流れ落ちる涙と共にセイラは幻影を見た。助けられなかった友人達が笑顔でそこにいるのだ。手を伸ばしても、もう取り戻せない大切な友人達がセイラに手を伸ばしてくる。


 笑顔で佇む友人達が口を動かし、何かを言っている気がした。『助けてくれなかった』『なんであなただけ』……違う、そんな言葉じゃない。


「あ・り・が・と・う?がん……ばって?」


 聞こえるはずのない声がセイラに届く。


『ありがとう、頑張ってセイラ。あなたはあなたらしく笑顔で生きて』


 その時やっとセイラの心の呪縛は解けたのだ。伸ばしてくれる手を取ると、友人達の姿は消えセイラはメリスの手をしっかりと握っていた。


 メリスはセイラを優しい笑顔で見つめ、そのまま抱きしめた。セイラも感情のままメリスに抱きつき嗚咽する。


「ごめんなさい、私の力が足りないばかりに長い間あなたを苦しめてしまって」

「ひっくっ……。私が……私が悪いの!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「あなたは優しくておせっかいで、人一倍我慢強くて頑張り屋さんの私の大切な娘。あなたはもっと強くなれる。私も、もっと強くなるから一緒に頑張りましょう」


 笑顔のメリスと泣き顔のセイラを、燐をはじめアリアやキャロルもそっと見守っていた。


 落ち着いたセイラはメリスから離れ、周囲を見渡し自分が守られていた事に気付く。セイラも燐もアリアもキャロルも護衛隊の皆も二人のわだかまりが無くなった事を心から祝福している。


 そんな二人に自然と拍手が送られ、セイラが気恥ずかしそうにしている。


 メリスは拍手の中、ゆっくりと燐に近づき深々と頭を下げた。いくら親しみのある女王だと言っても、女王として相応しくない姿だが誰一人止める者はいない。


 そしてゆっくりとメリスは頭を上げ、燐と向き合う。


「燐さん、ありがとうございます。私は何もしない事が最良の手段だと思っていました。けど、私からもっと早くあの子に歩み寄っていれば、こんなにも傷つける事はなかったのかもしれない」


 メリスは目を閉じ、燐との間に沈黙が流れる。そして見開かれた目には強い意志が宿り、真っ直ぐに燐を見つめ声を言葉に変えていく。


「待っているだけじゃ何も変わらない事を私は改めて思い知らされました。だから私は辛くても燐さんが教えてくれた勇気を胸に前を向いて歩いていこうと思います」


 メリスはその白く細い腕を燐に差し出し、燐はその手を取り強く握り返した。


 手を強く握ったままメリスは歩き出す。まだ涙の跡が残っているにも関わらず、イベント会場の壇上へと上がっていく。


 イベント会場は今笑顔で溢れている。そんな中にメリスはある決意の元、燐と一緒に壇上へと立った。


「あなたが私とセイラの関係を取り持ってくれた様に、私も出来る事から始めようと思います」


 それはどういう意味だと燐が聞き返そうとしたが、メリスによって口を塞がれる。メリスはゆっくりと深呼吸をして、会場を見渡す。


 楽しい声、明るい笑顔、温かな雰囲気……みんな幸せな時間を過ごしている。メリスはこのまま何もしなければ幸せな時間が幸せな思い出になっていく事を知っている。知らなくてもいい事だってあるのではないかという考えが頭を過ぎったが強く心の中で制した。


 メリスはもう一度会場を見渡し笑顔を浮かべた後、弱い心を奮い立たせ決意を込めた声で叫んだ。


「皆さん聞いて下さい!!」

いつも読んで下さり有難うございます。

感想・意見・誤字報告ありがとうございます。


皆さんは小説を読むときは、風景や声は浮かぶタイプですか?

私は風景も声も頭の中で再生されるタイプなんですが

皆さんのタイプも聞いてみたいです!!


それでは次回更新でまたお会いしましょう。

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