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セイラの思い

 月下の光が差し込むとある広場に2つの人影が。一人は燐、そしてもう一人はセイラである。


 ここは月灯り通りの一角に存在する広場。誰かが来ることはまずないそんな場所で燐とセイラは密会をしていた。


「ごめんね、呼び出して」

「別にいいよ。それでセイラ、話って言うのは?」


 セイラは周りを見渡し、話すタイミングを図っている。燐もそれを見つめ、セイラが話し始めるのを待っていた。月明かりが交差する場所に立ち、漸くセイラがポツリポツリと言葉を紡ぎ始めた。


「あなたは今、この国で英雄だと言う者がいる事は知っているかしら?」

「俺が……英雄?」


 緘口令を敷いていても、噂が立ちそれが真実だとわかるのにそう時間はかからなかった。ただでさえ事件から2ヶ月程度経とうとしているのに隠し切るなんて到底不可能な話だ。


 だからこそ、話が広まった時には救世主を英雄視する声が囁かれ始めた。そして、救ったのが燐だったと知ると、話は爆発的に広がり情報規制をしようにも既に不可能な状態だったのだ。


「あなたは今、この国を救った英雄として知名度が上がっているの。でもね……」

「でも……?」


 燐に心の底から感謝しているようなセイラの瞳の奥には、悲しい感情が見え隠れする。その事に燐も気がついていた。悲しい笑顔とはこういう顔の事を言うんだと燐は思う。


 それでも燐は、セイラの話から何があるのかわからなかった。英雄視される事は少し恥ずかしいが、素直に嬉しい事だし燐自身気持ちが楽になると感じていた。


 そして、ここからが本題だと言わんばかりに今までより強い視線をセイラは燐に向ける。燐は何を言われるのかと戦々恐々だが、ここまで前振りされて聞かないって訳にもいかないだろう。


「あなたを英雄とする話とは別に、あなたに悪意を持つものもいるわ。でも安心して、犠牲になった子達の友人や家族がって事じゃないから」


 燐は思い当たる節がそれだったので、それだったら理由はなんなのかと不思議に思う。


「あなたと初めて……私と会った時の事を覚えてる? あの時は、あなたの事を知らなくて酷い事を言ったわね」

「初めて? あぁ……うんっ」


 燐がこの世界にきた時、たくさんの妖精達に囲まれているとセイラがやって来た。そして憎しみを込めた目を向けてきたのだ。


 あまりに衝撃的だったので記憶には残っていたのだが、最近のセイラは友好的だったのでその記憶は遠い過去のモノになりかけている。


 その事と今回の事に何の関係があるのかわからない燐は、ただただセイラの次の言葉を待っていた。幻想的な月明かりも、今だけは燐を不安とさせる要因となっている。


「あなたも感じていると思うけど、この国にいる人族は限られた極小数だという事。それは、女王がこの国への人族の行き来を規制しているからなの」

「規制しているっていうのは、どういう?」


 ゆっくりと息を吸い込み、セイラは語り始めた。この国の事を。


「人族にとって、私達妖精種は奴隷や家畜と同列に扱われているの。だから、あなたの事を見たときは敵意が先行して感情を剥き出しにしてしまった」

「俺が人間だから……」

「でも、安心して。あなたは、そんな奴らとは違うって……心の優しい人だってわかっている。アリーやキャロと一緒に暮らしている様子を見ればすぐにわかったわ。あなたはあいつらとは違う!!」


 セイラは背中の羽を羽ばたかせ、燐と少し距離を取ると微笑んだ。軽蔑の対象である人族である燐を信じ、認め笑顔を向ける彼女は月の光と相まって月下の妖精と比喩するに相応しい美しさだった。


 セイラはゆっくりと視線を燐から外し、更に森の奥を見つめている。その瞳は濡れ、どこか憂いを帯びた顔をしていた。


「……この先に何があるか知っている?」

「近くまで来たことはあるけど、何があるかは知らないかな」

「そう。この先はね、墓地よ。ここが神聖視されているのは、ここが美しいだけの場所じゃなくてね……死んでいった子達が安らかに眠れるようにって願いを込めて作られたのよ」


 セイラの顔は、はっきりとは見えないが背中が少し震えている気がした。燐も声をかけるべきどうかなやんでいたらセイラが振り返り笑顔を向けた。


 少し瞳が濡れている気がするが、勘違いではないだろう。それでも燐は、セイラが話し出すまでじっとその時を待った。


「この先にある墓地のいくつかは中身がなかったり、ひどい状態の物があるの。さっき言ったわよね?人族が私達を奴隷にするって……。奴隷になった子達は他の人間の奴隷よりも酷い目にあわされるわ」

「なんで……そんな事を……」

「簡単よ、私達が人間じゃないから。自分達がこの世界の頂点だと君臨者だと、そんな事を考えるやつらがいるから。そして、その思想は中流階級の人達や市民に伝染していく。悪意が悪意を作るのよ」


 セイラは小さな手を力強く握り、涙を零した。それは単に人間が非道だと怒りを露にしているだけではない。セイラも被害者なのだ。


 人族からの、自分勝手な言い分で傷付けられそれでも尚どうする事も出来ない現実にセイラは全てを呪っている。


「私の友達や……私の事を姉と呼んでくれていた子達もいなくなった。あいつらがこの国でしている事は奴隷狩りよ。阻止しようと飛び出した事もあるわ……でもね、私の前で手を伸ばした子達はその場で殺された……」

「そんな事許されるわけ……」

「許される訳ないでしょ!!でもね……あいつらは、悪魔なのよ!!それ以上に何もできなかった私自身が情けないの……うぅぅ」


 セイラは泣き崩れ、地面に涙の痕を残す。強がりでいじっぱりで、それでも誰かの為に一生懸命な彼女は溜め込んでいたものを吐き出した。


 燐はそっとセイラを抱きしめてやり、謝った。何度も何度も燐の口から謝罪の言葉が紡がれる。セイラだって、わかっているのだ。燐は何も悪くない、悪いのはあいつらだと。


 それでも、燐が謝ってくれたおかげか溜め込んでいた物を少しでも吐き出せたからなのかは分からないが、感情の爆発は勢いを弱めていく。


「なんで……なんで……。なんで、あなたが謝るの……?あなたは悪くない、むしろ私達に光をくれた。全ての人が悪意の存在じゃないと、私に思い出させてくれた」

「そうだな……」

「アリーやあなたのような人がいるって事を思い出させてくれた。私は全ての人を憎み続ける人生は寂しいものだとアリーに教えられた」


 燐はセイラの言葉を聞き、震える肩を抱いた。


「それでも私は憎しみを消すことは出来なかった。それでもアリーが言った言葉も私の中から消えることはなかった。そんな時、あなたが現れたの……。アリーと同じ優しい心を持つあなたが」

「……」

「誰もが心の中に悪意を抱えていると思ってた、でもそうじゃないと信じさせてくれたあなたが今ここにいる。私はもう一度信じたい……」


 燐に抱きしめられ泣いていたセイラはもういない。今はただ燐を見上げ強い瞳だけが、光を反射して輝いている。


 セイラ・アリア・キャロル・メリス。燐にとってかけがえのない存在は確かにいる。そして、みんなを守りたち願う燐の気持ちは本物だった。


「でも一つだけ。もう、無茶をしないで。私は、あなたが……燐がいなくなっても嫌だって事を」

「あぁ……わかってる。もう無茶はしないよ」


 燐とセイラは月明かりの差す広場で約束を交わした。


 その約束はとても小さいけど、とても大きなもの。大切に交わされた思いは、何ものにも代え難い唯一無二の絆だ。


 燐とセイラは約束を交わし、笑いあった。


「これまでありがとう。で、これからも宜しく」

「変な言い方ね。でもこれからも宜しくね」


 再び二人は笑いあった。静寂が支配する、月明かりだけが二人の存在を示すこの場所で。

いつも読んで下さり有難うございます。

感想・意見・誤字報告ありがとうございます。


先週末は少し涼しくて過ごしやすかったですね。

薄着だったせいか風邪(?)になり、安静にしてたら

背中が痛くなって困っています!!(現在進行形

そんなぐだぐだ作者ですが

続きも頑張りますので宜しくお願いします。


それでは次回更新でまたお会いしましょう。

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