快気祝い
まったりまったりなお話です。
燐は生死の境から戻って来て以来、リハビリを頑張っている。魔法によるダメージは肉体と精神、両方の回復が必要だ。
それでも1週間もすれば、ぎこちない動きがあるものの普通の生活は難なくこなせるようになっていた。さすがにダンジョンに潜る気分にはなれないので趣味の料理をしている。
せっかくお米が大量に手に入ったのだから、これを使わない手はない。赤飯に豆ごはん、餅つき大会を開いてもいいだろう。
いろいろと作りたい物があるが、燐が今作っているものはおはぎである。幸いなことに醤油に続き餡子まで存在したのは運命の出会いだった。
「餡子まであるとは思わなかったな……。さすがにきなこまではなかったけど、それっぽい原材料はあったし問題ないんだけど」
燐の呟きに返事をしてくれるものは誰もいない。それはここが自宅ではなく城だからだ。帰宅してもいいのだが検査の度に足を運ぶのが億劫なので、今は城を拠点としている。
それでも毎日のようにキャロルやセイラが遊びに来てくれるので、暇を持て余すことはなかった。と思っていた燐だったのだが、人の業とは深いもので数日もすれば暇で暇でしょうがなくなる。
そう結果、始めたのがおはぎ作りなのだ。お米と餡子があれば出来るし、この世界にはないお菓子なので是非食べて欲しい。
燐は炊いたご飯を半殺しにして丸め、あらかじめ準備しておいた餡子を包んでいく。
「今までのお菓子と違って華やかさはないけど、キャロルは喜んでくれるかな……」
燐は見慣れているが、やはり真っ黒は止めておこうと手間はかかるが、きな粉を作り2色のおはぎを作る事にした。
燐は30個程のおはぎを作り終え一息つく。
「これだけあれば足りるだろう。……足りるよな?」
当然、燐一人で食べられる量ではないのでこれには訳がある。誰が言い出したのか全快祝いをしようという話になった。
発端はおそらく燐が台所を使いたいと言った事だろう。それを了承したメリスが燐のお菓子を食べたいと言い、それならばとアリアはお茶会を提案。キャロルはセイラと無言でこくこくと頷いていた。
「身から出た錆というか、なんというか。……もっと準備しておこっと……」
そして同じ工程を繰り返し、総数50個以上の2色おはぎが完成した。
時間までもう少しあるので、燐は椅子にかけて休憩していたのだが……眠ってしまっていた。眠っている間に時間は過ぎ、以外にもセイラが起こしにきてくれた。
「おはよう……」
「おはようじゃないわよ……みんなもう集まってるわよ? で、これをもっていけばいいの?」
「あぁ……」
机の上にある置いていたおはぎを見つけたセイラは、先にいってる事を告げ行ってしまった。また静寂が支配する。ぼーっと、寝起きの余韻を感じていると入り口からセイラが顔を覗かせて言った。
「はやくきなさいよ?」
「わかってるよ~……」
燐は気のない返事を返し、夢の中に戻りたいという気持ちを拭い去りみんなの待つ部屋へと向かった。
部屋に入ると、既にみんな揃っていて燐が最後のようだった。燐は空いた席……キャロルがイスをぽんぽんと叩いている所に座る。
一応、燐の快気祝いなのだが完全にお茶会だった。お菓子を準備したのも燐である所から要約すると、燐をダシに燐お手製のお菓子を食べよう会なのは間違いない。
メリスが簡単な挨拶を交え、護衛隊の皆さんが順に燐の目の前まで来てお礼を述べた。
「この度は命を救って下さりありがとうございます。感謝しても感謝しきれません。それに噂の燐殿のお菓子を食せるとは、夢のようです」
燐は一人一人の言葉を聞き、握手を交わした。それよりも燐は噂の方が気になった。どこで誰がどんな噂を立てているのかだ。
恐らく発信元はアリア・キャロル・セイラの3人で、拡散したのはメリスに違いないと燐は予測した。別に隠すような事では無いため問題はないのだが、これだけ期待されていると思うと燐はおなぎなんかでよかったのかと不安になる。
そんな事を考えている燐の事などお構いなしという感じで、給仕の方がみんなの皿に餡子ときなこのおはぎを配っていた。やはりというか数が結構余ったので、給仕の方にもお裾分けしてあげると、ぱぁっとかわいらしい笑顔を燐に向け、お礼を言い部屋を後にした。
「それではいただきましょうか。それで燐さん、これなんですが……このまま食べればいいんでしょうか?」
「はい、このまま食べてください。1つが大きいので、ナイフとフォークで切り分けて貰って大丈夫です」
「それでは皆さん。いただきましょう」
「「「 いただきますっ!! 」」」
メリスは女王なのだが、気さくで配下の人達とも仲が良い。それでいいのだろうかと思うときもあるが、メリスらしくていいと燐は思っている。
皆それぞれにおはぎを食べ、燐の事を賞賛している。燐としても作った以上は喜んでもらいたかったので、ほっと胸を撫で下ろした。
「お口にあったみたいでよかったです」
「初めて食べましたけど、これは何なんですか?」
燐は少し笑い、宝物庫から米を取り出し皆に見えるよう右手に乗せ見せてやった。ほとんどの者が見たこともないと首を捻っていると、やはりメリスは知っていたようだ。
「これは……龍の……。でもあれは、どうやっても食べれた物ではないと聞いております。そういえば、セイラが取り寄せてましたわね」
「……」
セイラはこっそりと女王名義で取り寄せていたのだが、事がばれてないと思っていたようで、そっぽを向いている。そんなセイラを見て燐はくすくすと笑っている。
燐としては、セイラをいじるのも楽しそうだなと思ったがまずは疑問の回答をしようとメリスに向き直った。
「これはですね。俺がクリュの実と掛け合わせた、所謂新種です。そうすることによって従来の物とは別物と言っても良い程の物が出来たんです」
「なるほど……そういう訳でしたか」
メリスは納得したようだった。付け加える様に燐は、おにぎりも一緒の事だと伝える。わざわざあの時の事を思い出すような話題を振るのは止めようかと悩んだが、みんなの事を信じて燐は説明した。
「あぁ……あの時のおにぎりか。あれは確かに美味かった。おかずにもお菓子にもなるなんてすばらしい食材ですね!!」
護衛隊の一人が、おにぎりの事を思い出しあれは美味かったと言う。それだけに留まらず細かく味を説明しだしたので、おにぎりを食べた者は味を思い出しごくりと喉を鳴らす。
ただ一人セイラだけが食べたことなかったので、話についていけない。それでも説明だけで美味しい物だとわかったので、燐に物欲しそうな視線を向ける。
「少し待ってくれたら準備するけど、皆さんどうでしょう?」
「「「 勿論いただきます!! 」」」
おはぎを2個食べると結構お腹も膨れる筈なのだが、みんな食欲旺盛だなと燐は関心した。そんな訳で燐は準備をするべく台所に向う。キャロルもお手伝いするというので、一緒に準備をする事になった。
ただ今回は小豆も手に入ったので、赤飯を炊くことにした。別に難しいものではないのでキャロルには見守っていてもらい、握るときに手伝ってもらう予定だ。
作り始めてみれば時間なんてあっという間に経つもので、赤飯が蒸しあがる。蓋を開けるといい匂いが広がり、キャロルは既に我慢できないといった様子だ。トテトテと駆け寄って来たキャロルが覗いて驚嘆の声をあげる。
「お兄ちゃんピンクだよピンク!! ピンクのおにぎり作るの!?」
「そうだよ。これは赤飯って言って、お祝い事とかに作るものなんだよ」
「ねぇ……お兄ちゃん。一口でいいから味見させて?」
口を大きく開けて準備万端のキャロルに燐は肩を竦め、蒸したての赤飯を口に放り込んでやった。口をもきゅもきゅと動かしているキャロルは幸せいっぱいのようである。
余韻に浸っているキャロルを尻目に、燐はおにぎりを握り始めた。2口目も所望の様だったので、燐は手に持った赤飯を投げ込んでやった。
「キャロルおいしいかい?」
「んっ、すごく美味しかった!!」
「じゃぁ、キャロルもどんどん握ってくれっ!!」
「お~!!」
大きな掛け声と共に、キャロルは一生懸命握り始めた。ダンジョン調査の時に100個以上握ったので手馴れたものだ。どんどんと出来上がっていくおにぎりを見つめながら、燐は一生懸命握っているキャロルを見つめ愛らしいと感じていた。
2人がかりで作ったので、案外早く作る事が出来た。出来上がったそれを、楽しみにしている皆の下へと
運んでいく。
「おまたせしました」
「おまたせ~!!」
燐とキャロルが勢いよく部屋に入ると、待ってましたとばかりに二人の持ってきた皿に視線が集中する。そっとテーブルに置くと、目線も自然とそちらに向くので燐はくすりと微笑んだ。
まずはメリスにと燐はおにぎりを皿にうつす。後はセイラ・アリア・リアと順々に皿に移していき最後に燐自身の皿にも移し終わると、メリスが「それでは、いただきましょう」っと言った。
「美味しいわ、これ!! さっきの甘いやつも美味しかったけど、これも気に入ったわ!!」
そう評価してくれたのはセイラだった。セイラは収穫した時以来だったので、より感動が強いのかもしれない。2つずつ配ったのだが、セイラはあっという間に平らげおかわりをねだってくる。けれど、一度周りを確認し恥ずかしそうに顔を俯かせ皿を手渡してきた。
燐は皿を受け取り、 そっと2つ追加してやった。セイラは嬉しそうに自分の席に戻り食事を再開した。
皆、燐の快気祝いだという事は完全に忘れ、おにぎりに舌鼓を打っている。いち早く食べ終わった燐はゆっくりとお茶を飲んでいた。するとセイラも食べ終わったのか燐の傍にきて、耳元で何かを囁いた。
「……後で、大切な話があるの。夜中0時に月灯り通りで待っているわ」
「あぁ、わかった。0時に月灯り通りで」
いつも読んで下さり有難うございます。
感想・意見・誤字報告ありがとうございます。
33話まできました。
もうそろそろ1章終了って所でしょうか?
そして、皆さんからの温かい評価お待ちしております!!
さてさてこれからどんな展開が待っているんでしょうか。
次話セイラの秘密が明らかに!!
みたいな感じですかね(笑)
それでは次回更新でまたお会いしましょう。




