妖精の国
最初の方は日常系の話が中心になります。
話の基礎となる部分ですので、急に何か起こることはないので
まったり読んで頂けると、嬉しいです。
気がつくと優しい日差しが燦々と降り注いでおり、その温もりで燐は意識を取り戻した。まだ意識が朦朧としていてはっきりしないが、覚えているのは底の見えない闇の中へと沈んでいった事である。
その後は体の自由が利かなくなり意識を失ったことだけだ。それなのに今は打って変わって、日差しがとても眩しい。燐は変な夢を見てしまったんだなっと、まだ働いていない頭を無理矢理に動かし結論付ける。
無理矢理に結論付けたはいいが、燐自身も本当に夢だったのだろうかと夢の内容を思い出す。夢だと過程して、いろいろと推察しようとするが思考はまとまらず余計に頭の中はぐちゃぐちゃになってしまう。
そんな時である。燐に話しかける誰かの声が聞こえた。
「あっ、起きた!」
「あなたは誰?」
雰囲気からして複数の子供と思われる声が燐の耳に届く。周りからはきゃっきゃと騒がしい声と共に温かい風が吹き燐の顔を優しく撫でる。
結構な人数の子供達に囲まれているのか、大勢の声が絶え間なく燐の耳には聞こえてきた。その声を聞きながら燐は恥ずかしい気持ちを抑え、未だ朦朧とする意識を無理矢理覚醒させ体を起こした。
しかし体を起こして周りを確認しても、燐の目には子供らしき人影は見当たらない。
燐は幻聴だったのだろうかと首を傾げたが、それよりも燐は今どこにいるのかがわかっていなかった。正確にはどこにいかはわかっている。見渡す限り深い深い緑に包まれた森だ。
周りは見たことも無い色鮮やかな花が咲き乱れ、空気も澄んでいるとても綺麗な森である。どこかの森にいるのは間違いないが、燐がいたのは確かに住宅街なんかが建ち並ぶ何の変哲もない裏通りだったはずなのだ。
そんな状況に燐はまだ夢をみているのだろうかと頬をつねってみたりしているが、ここは現実だと痛みが教えてくれる。
「ここは……どこなんだ……? 俺は……」
燐は状況を整理する為にわざと口に出してみるも、こんな所見たことも聞いた事もない。何より都心から離れているといっても、こんな自然豊かな場所が裏通りにあるわけないのだから。
俯きつつ状況を把握しようと頭を巡らせている燐だったが、不意に頭上から声が聞こえた。
「「「ここはシャークリアだよ!!」」」
燐は体をビクっとさせ声の発信源である空を見上げる。そこにはファンタジーの中、そう絵本の世界の住人である妖精らしき人型の子達が綺麗な透明の羽をぱたぱたとさせながら宙に浮いていた。
大きさにして20cm位の彼女らは手を伸ばしても届かない距離を保ちつつ空中で停止している。
「……妖精?」
「はい!! 私たちはこのシャークリアの森にすむ妖精族です。あなた、不思議な格好をしていますが人族ですか?それとも亜人さん?」
(人族?亜人?何を言っているんだ?)
燐はやはり夢を見ているのかと頬を再度つねってみる。夢ではない再確認が済み、意識を失う前の事を一生懸命に思い出そうとしてみた。しかし何度思い出しても闇の中に放り出され意識を失って、気付けばここにいたという事実は変わらない。
燐は目まぐるしく記憶を辿り、行き着いた答えがそれだったとしても急に納得できる訳がなかった。それでも燐はこの状況を理解すべく口を開く。
「君達はこの森の妖精で、ここは日本じゃない?」
「にほん? あたなはそこから来たの? 私達あまり、お国の名前とかは詳しくないの。そうだ!! あなた悪い人には見えないから女王様の所へ連れて行ってあげる!!」
女王。燐の聞き間違いで無ければ確かに妖精達は女王と言った。ここは日本どころか地球ですらない可能性を考えた上で、一番しっくりくる答えが燐の頭に浮かぶ。
燐は馬鹿げた考えだと思いつつも、ここが“異世界”だと確信しつつあった。何をすればいいかわからず、未だ座り込んでいる燐の手を妖精達が掴んでぐいぐいと引っ張ってくる。
燐はこのまま付いていって良いものかと不安はあったが、妖精と言えば心優しいと言うのがお決まりだろうと勝手に決め付け、付いて行ってみる決意を固めた。
それに現に今、燐の手を笑顔で引っ張る姿は無邪気というか安心する姿でしかない。
「そ…それじゃ行こう 『だめだよ!!』 」
不安はあったが行くことを決意しようとした瞬間、透き通るような声が花畑に響いた。声のした方に目をやると1人の妖精がキッっと燐達を睨んでいる。
燐の手を引っ張っている妖精とは違い身長は140cm程あるが、背中には彼女ら同様美しい羽が見え隠れする。
「あなた達何をしているの!! 離れなさい…そいつは人間よ!? 今まで私達に酷いことをしてきた悪魔なのよ!!」
燐の事を親の敵だと言わんばかりに鋭い眼光が貫く。その鋭い眼光は燐の目を凝視したまま微動だにしない。しかし良く見ると体は小刻みに震えている。
それが恐怖によるものなのか怒りによるものなのかはわからないが、ここで燐が目を逸らせばこの妖精は話を聞いてくれないそんな気がした。
互いに真意を確かめているそんな緊迫した様子に、燐の周りにいた妖精達はあっちにぱたぱた、こっちにぱたぱたと不安が行動に現れている。
一番初めに燐の手を強く引っ張っていた子なんて今にも泣き出しそうだ。
「正直に答えなさい。あなたは何をしにここにきたの?私達の敵?」
嘘をついても見透かされると考え、燐はぽつりぽつりとここではない世界から来た事を説明しだした。
路地裏を歩いていると闇の中に放り出された事。その闇の中で意識を無くし気づいたらここで目覚めた事を説明した。
燐の話を聞き最初は訝しげにこちらを睨み付けていたが、真剣に説明をする態度に少しだが張り詰めた緊張感は薄らいだ。
「信じて……くれるか?」
恐る恐る燐が聞いてみると「はぁ~……」という溜息が聞こえてくる。全てを信じてはくれていないようだが警戒は解いてくれたようだ。と言っても気を許すつもりはあまりないようだが。
先程の態度からして彼女にとっては至極当然の行動なのだろう。敵かもしれない相手を信じろという方がおかしい話だ。先程の態度から燐は、きっとここはそんな甘い考えじゃ生きていけないような世界なのだろうと認識を改める。
「あなたの言っている事を全て信じることは出来ません」
「当然だと思う。それで俺はどうなるんだ?」
「……女王に会って頂きます。元々私は女王の命であなたを見に来たのだから。私は他の子達より相手の心を見る能力に長けています。なので私の判断で女王の元へ連れていくかどうか判断する役を買って出たのです」
「じゃぁ俺は……君の中で連れて行っても大丈夫だと判断されたって事でいいんだよね?」
一呼吸おいてこくりと頷く姿はなんとも可愛らしい。勿論そんな場合ではないのだが、ひとまず燐の向かう場所は決まったようだ。
女王への謁見。その後どうなるかはわからない。危険分子とみなされ投獄されるかもしれないし、もしかしたらその場で殺されてしまう可能性だってあるだろう。
燐自身もこの子達の笑顔を見ている限りそんな事はないと思いたいのだが、本当に異世界だというのであればそういう可能性を考量しておかなければならない。
これからどうなるのかは未知数だが、どうやら燐の先行きは前途多難なようだ。しかし燐はこんな状態なのに『家はどうなるだろうか?2・3日帰らなくても問題はないがこのまま帰れなかったらどうなる?』等と緊張感の無い事を考えている。
田舎みたいに覗きに来てくれる人なんていないので、燐が失踪しても気づかれないだろう。家賃は引き落としなので正直10年や20年なんて余裕で支払いが出来るのだが、そういう問題ではないと燐は頭を振る。
燐はこれからの事を考えながら、友人の羚なら心配してくれるだろうかとも考えていた。探しに来てくれるだろうか。親友だ親友だと思っていても、ただの遊び仲間だと思われているのではないかと燐の胸に不安が過ぎる。
「俺って……小さいな。まずはこの世界を生き抜こう。出来うるならば楽しもう!!」
八神燐は足を踏み入れてしまった。見たことも無い新しい世界での一歩がここから始まる。そう始まったのだ。
連載となるとやはり準備は大切だと思いますね。
書き溜めておいてから定期更新するべきだったと思います
※改稿致しました。