就職活動の果てに
翌日、燐はメリスの下へ向かっていた。何か仕事をしてみるかと思ったはいいが何をすればいいかわからなかったからだ。
それならばどんな仕事があるのか商業区にでも見に行こうと思ったのだが、遠回りになりそうな気がしたのでメリスに聞いてみようという考えに至った。
いきなりお願いがあると言われ仕事をしたいと話を持ちかけられたメリスは驚いていたが、メリスが何かを書き記した書状を燐に手渡す。内容はどうやら紹介状のようで好きに見て回れるように取り計らってくれたのだ。
燐はメリスにお礼を言うと手を振って見送ってくれた。燐は紹介状を片手に握り締め早速商業区へと歩いていく。最近は商業区にいくことが多い気がした燐だったが、結局はここが一番仕事をするのには都合がいいのでしょうがない。
「さて、どんな仕事をしようかな。やっぱり俺も何か屋台を出すべきか? とりあえずはどんな店があるかチェックだ!!」
何度も通っている商業区なのだが燐は店には入った事がない。何故って聞かれるとお金を持っていない燐としては、ひやかし確定の客として店の中を見て回らないといけなくなる。それでは少々バツが悪いので控えていたのだが、今回は女王の紹介状という最強の印籠があるので堂々と見て回れるという具合だ。
燐は紹介状を持っていろいろ見せてもらった。鍛冶屋・武具屋・魔法屋・アクセサリー屋・服屋・飲食店と目につく場所は全て見せてもらったと言っても過言ではない。
見せてもらう前からわかっていた事だが燐に鍛冶スキルや服飾スキルなんてものは知識でしか持ち合わせていなかった。なので自分の店を持つにしても専門スキルを身につけてからでないと素人作品なんか誰も買ってくれないだろう。
このままではどこかで店員をさせてもらうか弟子入りするという選択肢しか残っていないような気がしていた。
「ん~……おやっさんにお願いして働かせて貰おうかな~」
燐はこれまで回った店を思い出しながら、最終手段として勝手にロンドの店を頼りにする事に決めてしまう。しかし自分で何かをしたい燐としては、何か出来ないかと考える。見て回った店の中で一番興味を引かれたのは魔法屋だった。
魔法屋は名前通り魔法に関するグッズが揃っていてなかなかに面白い体験が出来たからだ。魔力やHPを回復できる所謂ポーションの類のアイテムも陳列されていた。物珍しそうに見ていた燐に店の店主は試飲を勧めてきたので有難く頂いたのだが。
無味無臭で苦いとか甘いとかはなかったものの、燐は2口目を飲もうとしなかった。味は問題ない。問題があるのはノド越しの方だったのだ。味のしない液体が粘度を持っていてスムージのようであり生卵のようであり、とりあえず飲み難いものだった。
それにあまり飲む事は勧めないという話に燐は焦ったが毒というわけではなく、飲んだ者の魔力なんかを無理矢理回復させるのだからドーピングに近い代物なのだとか。これをたまに使う分には全然問題ないのだが、毎日飲んでいると中毒症状を起こすらしい。
「興味あるけど違うんだよなー。ここで悩んでてもしょうがないし、何か探してみるか……」
燐は何をしようかと考えながらふらふらと歩いていると、ついついロンドの店先に来てしまっていた。今日はちゃんと店を開いてるらしく、結構な数のお客さんがクルナンを目当てに列を成している。
お客さんの邪魔になると悪いので燐は少し離れた所から盛況振りを見学しながら、客足が引くのを待っていた。しかしなかなか客足は途切れず改めて人気店なんだなと感心する。
そんな人気店でも40分程すると客がはけたので燐はロンドの店へと向った。
「いらっしゃっ……んんっ? おぉ燐じゃねーか!! 来てくれたのか。うれしいねぇ~」
「すいません。買いにきたわけじゃないんです……」
「なんだ暗い顔して? まさか金でも落としたのか?」
「落としてはいないです……。だって元々持ってないですもん……。実は何か仕事をって思ったんですが、どれも出来そうになくて。どこかの店員でもって思ったんですが、とりあえずおやっさんの店を覗きにきたわけです」
「ふ~ん、なるほどねぇ~。うちの店としちゃぁ雇ってやってもいいんだけどよ。本当にそれでいいのかいい?」
悩んでいる時にそういう事を言われると即答できないのが燐の悪い所だ。きっと楽しいだろうし、やりがいもあるだろう。でも燐は考えしまうのだ。せっかく異世界に来たのにもっとしたい事があるんじゃないかと。
だからと言っていつまでもメリスの所でお世話になり続けるわけにもいかない。それにお金も必要になることもあるだろう。燐が黙り込み返事に困っているとロンドがやれやれと言った感じで燐にこう言った。
「うちの店で働くのはいつでも出来るしいつでも歓迎はしてやるよ。でもよ、燐は燐のしたい事をしたらいいんじゃないか?」
「俺のしたいこと……?」
「燐はこれまでどんな生活をしてたんだ?」
説明するのは大変だったが掻い摘んで説明をする。勿論ところどころ代用する言葉が見つからず上手く説明できなかったのでおやっさんの頭の上にも‘???’が浮かべていた。科学文明が発展していない世界である意味最先端の技術を使った仕事をして事を伝えるのは難しい。
「よ~は、偉い学者さんか何かで画家や建築家なんかもしていた……でいいんだよな?」
「偉いかどうかはわかりませんが、大きく言うとそんな感じです」
「なるほどな。なんだ燐、お前凄い奴だったんだな!! でもこの辺じゃ確かにそうそう必要はないなぁー」
おやっさんは感心したように腕を組みうんうんと一人頷いている。他にも出来ることをきいてきたが燐もそこまで特技があるわけではない。ついでに初級魔法も使えることを話すと「それだったらいいものがある」と言い店の奥に入っていった。
店の奥から戻ってきたロンドの手には一つの水晶がキラキラと輝いていた。カウンターに載せられた水晶を燐が覗いてみると、中で薄っすらと光が見て高度な水晶細工か何かだと考える。しかし水晶細工かと思ったそれは『魔法水晶』と呼ばれる代物で火の力が宿っているらしい。
魔法水晶は自然に発掘される事もあるが、小さい物なら特殊な魔法を使って作る事も出来ると説明された。燐はそれがどうしたのかと言いたそうな顔をロンドに向けると簡単に経緯を説明し始める。
「この魔法水晶っていう物はべらぼーに高い代物なんだがな、それを俺に売りにきた商人がいたんだよ。俺もこんな馬鹿たけぇーもんはいらねーって断ったんだが半値でいいっていうし、貯金してても使い道がなかったから勢いで買っちまったのよ」
ロンドは最初こそ無駄な物を買ってしまったと思ったが、これがあれば店で使う火も贅沢な温かい風呂も毎日入り放題だと気づきいい買い物だったかもしれないと考えを改めたそうだ。しかし魔法水晶という高額マジックアイテムの特性をきちんと理解していなかったロンドに問題が起きたのだと言う。
問題というのはこれひとつで10年以上は火を安定供給できるのだが、それを無限に使える物だと考えていたロンドは使いきって初めて有限である事に気がついた。勿論使い捨てにしなくてもいいのだが、これを再度使えるようにするには多額の費用が発生してしまう。
魔力を再充填出来るという事は魔法を使える者ならば充填する事も可能なのだが、本来特殊な魔法を使って充填するため非常に効率が悪く効果がないのだ。
ロンドも魔法が使える為に火の魔法を使ってみると確かに魔力供給されたのだが、15分も持たずに消えてしまった経験がある。なのでその時は準備をしていなかった為に臨時休業にしてしまったのだ。
臨時休業で時間が出来たロンドは何度も挑戦はしてみたけれど同じ結果になってしまった。知り合いにも頼んで挑戦してもらったけれど、誰一人としてまとめに充填できる者はいなかったのだ。
「そこで燐にも挑戦してもらおうと思ってな。ほらほら、ちょっとやってみてくれよ? ダメで元々、そろそろ諦め時よ。高い金払ってまで使える様にしなくてもいいさ。これでダメなら綺麗さっぱり諦めるさ」
「わかりました。どうすればいいんですか?」
燐はロンドに魔力充填方法をレクチャーしてもらう。
「本当は大掛かりな魔法陣とかがあった方がいいらしいんだが、この水晶に手を当てたり握ったりした状態で魔力を直接送ればいいんだそうだ。普通は直接魔力を送るなんて無理な芸当だからな。火の魔法を使ってくれたらいいんだそうだ」
「火の魔法ですね。わかりました!! 炎の精霊よ 我が声を聞け 今ひとたびその力を我に宿し 灼熱の業火をもって 煉獄と成せ “煌天の業火”!!」
燐は初級魔法ではなく中級~上級向け、主に戦闘に用いられる高度な魔法を使って見せた。たまたま役所の図書室で見つけた本に載っていたのだ。普通は初級~中級の魔法書しか存在せず、それを超えるような魔法は一部の賢者や王族貴族の宝物に厳重に保管されるべき魔法書のはずなのだが。
燐がこれを習得するのは、初級魔法と比べて確かに時間がかかっていた。といっても3日というスピードで覚えてしまったのだから間違いなく今の燐の実力は賢者クラスである。普通は数年かけて習得する魔法なので、ここが人間の国であったならば即戦力としスカウトされていたかもしれない。これも基本資質が高いことに起因しているのである。
「なんだ……さっきの強力な魔法は……。俺でもあんなのつかえねーぞ!?」
特に魔法に長けているエルフ族が驚くのだから、そんな彼らの平均水準は超えているのであろう。
「確かに驚いたが、ちょっと凄い魔法が使えても目的は水晶を使える様にする事だからな。まぁ、さっきの感じだと2・3日使えたらいい方か……。とりあえず鑑定してもらいに行くけど、燐もどうだ? 一緒に魔法屋にいかねぇーか?」
「へぇー鑑定ですか。見てみたいです」
「別段面白い物じゃないけどな」
ロンドは苦笑しながら魔法屋へ行く準備を整える。といっても店に閉店の立て札を置いて何かの袋を持っただけだ。魔法屋へつくと早速先程の魔法水晶を鑑定してもらい始めた。鑑定といってもただ見つめているだけで何かをしているようには見えない。鑑定が始まり3分程して魔法屋の店主は口を開いた。
「確かに魔力供給がされていますね。勿論使い方にもよりますが、3年程使えると思いますよ」
「そっ、そんなに使えるのか!? やったぜ燐!! お前のおかげだよ、ありがとよぉ~!!」
「近いです、近いです!! わかりましたから抱きしめないで下さい!! 砕ける!! 腕が~っ!!!」
店内に燐の絶叫が響き、店主は楽しそうだ。見てないで助けろと目で訴える燐だったが、店主はニコニコしているだけで助ける気はないらしい。ロンドが興奮から醒めたのか落ち着きを取り戻し燐の手を放した。
「それじゃぁロンのオヤジ、鑑定料3500Fだよ」
「お、おう。ちと高けぇー気がするが、今は気分がいい。ほらよ」
おやっさんはぶっきらぼうに持ってきた袋を放り投げる。中には5000F入ってたみたいで、おつりを入れると店主は袋をカウンターにおいた。それを受け取ったおやっさんは燐の方を振り向き、店主に渡した袋とは別の袋を出し燐に手渡す。
中には先程と同じような硬貨が袋にぎっしり入っていた。
「おやっさん、これは?」
「それはお前にやる。本当はその中の数枚渡そうと思ったんだが、これだけの事してもらっておいてそれっぽっちって訳にはいくめぇ」
「良く分からないですけどこんなに悪いですよ!?いくら入ってるんですか!?」
燐が渡された袋の中を確認してうろたえる。燐のわたわたとする態度とは裏腹にロンドは落ち着いた感じで袋を再度見つめるとぼそりとこう言った。
「そうだなぁー。15万Fってところか?」
「いやいやいやいや、そんなにもらえるわけないじゃないですか……」
「そういわずに貰ってくれよ。これに1年分の魔力供給を頼んだ時には70万Fだと言われたんだぜ? それに比べたら安いもんよ」
「すごい価格ですね……。ちなみに、おやっさんのクルナンはいくらくらいなんですか?」
「あれか? だいたい700Fくらいだなあぁ……」
大金であることは間違いないので半分だけでと交渉してみたのだが、ロンドは頑なに受け取ってくれと言ってくる。おずおずといった感じではあるが燐もロンドが折れないと理解し、渋々納得した。
ふとした事で大金を手に入れる事が出来た燐ではあったが、働き先は結局見つからずじまいだ。いろいろあり疲れたので、燐も今日は城に帰ることにした。
燐は魔法屋の店主とおやっさんに別れを告げ扉を開くと重い袋を手に店を後にする。
「しかしあれだなぁ。燐のおかげで使えるようになったのはいいが、なんでだ? わからねぇ~なぁ……」
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※改稿致しました。




