不細工の家族に限って理想の家族 0話
「そんなに悩まずに開き直っちゃいなよ」
でもナルシストだとおもわれんのは嫌だし...。
「女子だってあんたが下向いたり、目ェ合わせないから話しづらいんでしょ」
だって自然と目がどっか行っちゃうんだもん...。
「いつまでもウジウジ、ウジウジ。あんた見てるとイライラするわ...」
うるさいよ...。舞は嫌われたことがないからそう言えるんだよ。
「私が西高行ったら、あんたのことフォローできないんだよ?」
別に高校行ったら俺変わるし...。
「いい加減自立するっ!いいね?」
わかってるよ...
目が覚めたら朝の五時半だった。
ようやく空が薄暗い青色になり、早起きのおじいさん達が公園に集まりだす、鳥のチュンチュンという鳴き声が聞こえる。郵便配達のお兄さんが動きだし、町が動き始める時間だ。
僕がこんなに早い時間に起きたのには理由がある。何かって?
今日は品口東高校の入学式なのだ。
そう、ついに...なったのだ今日、青春の主役、高校生に!
おっとこうしちゃいられない。
まずは顔を洗おう。そう思ってルンルンの気分で洗面台へと向かう。
しかし鏡に写った自分を見てテンションが沈んだ。
...そう僕は不細工なのだ。
不細工といっても別に顔が潰れてるとか鼻が異様にでかいとかはない。
のっぺりとした一重、ほっぺにある大量のニキビ、てかてかとした髪の毛、丸々太った体etc...。
しかしそんなことを気にしてても仕方がない。
まずは顔を洗い、寝癖をなおす。
うん、まだ悲惨なレベルは回避したぞ。そう思い自室に戻って新しい制服を着てみる。
おー、これが高校生の制服か。
特に思うこともないので、そのまま鞄の中身をチェックする。事前課題に、上履き、先生に渡す書類に暇潰しに読む本。
別に知的アピールとかそういうのは考えていない。一応言っておこう。
そうこうしているうちに六時半にになった。
そろそろ家族も起き出してきた頃だろう、下に行くか。
下に降りると母親が焼いているベーコンエッグの臭いがしてきた。一気によだれが出てきた。
リビングの扉を開けると父さんがいた。
キッチンに。
どうやら今日は父さんが当番だったようだ。
うちの家では朝ごはんは父さんと母さんが交代で作っている。
理由を聞いたことがあったが昔、父さんが母さんの目玉焼きにケチをつけたかなんかだったはずだ。
「おはよう父さん」
「あぁ、おはよう太一」
父さんはいつも通りピシッとしたYシャツにエプロンをつけてベーコンエッグを皿に盛りつけていた。
今日はパンか。
僕が朝食を食べている間に父さんはコーヒーを飲みながら新聞を読む。そしてコーヒーの湯気で銀色の眼鏡が曇るのだ。
うん、いつもと変わらない素晴らしい朝だ。
「ごちそうさまでした」
そういって流し台に空になった皿を持っていく。
そのまま部屋を出ようとすると父さんに呼び止められた。
どうやらネクタイが曲がっていたらしい、なおしてくれた。
そのまま父さんは喋る
「お前がもう高校生とはな、俺がお前をはじめて抱いた頃はこんなんだったのに」
そういって父さんは俺の頭を撫でた。
またこれだ、父さんは何かある度にいつもこの話をする。高校生にもなって親父にを撫でられる人はそういないだろう。
「こんなに大きくなったのは父さんのおかげだよ。いつもありがとう」
そういうと父さんは絶対に目頭をおさえて泣いてしまう。
フッチョロいな。
そうしていい子アピールをし歯を磨きに洗面台へと向かう
鏡を見て身だしなみを改めて整えてから玄関に行く。
そこでドアノブに手をかけてまだ泣いている父さんにこう言う
「行ってきます」
こうして俺の高校生活が始まろうとしていた。